01

最近、どうも妹分の元気が無いような気がする…と幻騎士は思っていた。
その妹分、スパナはいつもアンニュイな感じ(大体は他人が目に入らずに熱中しているか、逆にボーッとして何も考えていない)が良い、とミルフィオーレの男どもには人気なのだが。

幼い頃に身内を亡くしたスパナの面倒を見てきたのは幻騎士なので、同じアンニュイでも違いを見分けるのは難しくない。
なので、基地から出てわざわざいちごのショートケーキを買い求めてからスパナのラボに出かけて行った。

「スパナ、体調が悪いのか?」

そうではないことくらい、知っている。知っていたら菓子を持ち込むことなどしない。

「ん…平気。めっちゃ元気」
「そうか」

めっちゃ元気には程遠いと思いつつ、幻騎士は、そこでみやげに持ってきたケーキをちゃぶ台に置いた。

「あ…幻兄、アリガト」

ミルフィオーレの男どもにはレアなアクアマリンと呼ばれる笑顔。
だが、兄貴分・幻騎士は知っていた。普段のスパナなら、(☆∀☆)キラーンとなるところだ。

幻騎士としては、ここは紅茶辺りだと思うのだが、スパナのラボには緑茶と…コーヒー、しかないのだ。
だから、ミニモスカにふたり分の緑茶を頼んだ。

「スパナ」
「何だ?幻兄」
「あまり、独りで悩まぬ方が良いぞ。オレは白蘭様の側近だが、お前に関しては少々構ってやっても白蘭様は大目に見て下さる」
「…………」

スパナは、黙々とケーキを食べていたが、一層元気を無くしてしまったように見える。
「まあ、無理に話せとは言わん。もし気が向いたら、愚痴でも泣き言でも何でもオレが聞いてやるし、仕事で何か言いにくいことがあるなら、オレの方から入江殿に申し上げても良い。…無理をするなよ」

美しい金髪だが、幼い頃から懐かれていた幻騎士としては、こうしてわしゃわしゃと撫でてやると、ひよこっぽいと思う。

「正一には、何も言わなくていい…ウチ、仕事の期限だけはキッチリ守って、その期限の間に正一の期待以上の成果を出すのだけが取り柄だから。天才なだけに」
「…………」

今度は、幻騎士が沈黙した。
期待以上の成果&天才、なのだから誇っているように聞こえるが、それ「だけ」が取り柄、という言い方をしているのだから、全体的にはポジティブには聞こえない。

「幻兄」
「何だ」

しょぼん、とひよこが言った。
「ウチ…。キレイになりたい」
「は?」

幻騎士は、目を瞬いた。
「…何をどう綺麗にしたいのだ」
「キレイにしたいのはウチ。でも、方法が分からない」
「…………」

ちょっと待て。これは、ガールズトークの分野なのではないか?
しかし、ミルフィオーレの中で美女と言えば、既に美麗白蘭、妖艶アイリスに続いて、クールスパナで人気が3分されているのだ。これ以上、どうすれば良いのかと言っても、答えなどあるのだろうか?

「白蘭が綺麗すぎる。ウチ、幻兄みたいに信仰心がある訳じゃないけど、白蘭は女神だと思う」
「うむ…まあ、そうだな」

幻騎士は、微妙に困った。
自分の忠誠心は、副官の入江正一をもしのぐ自信があるが、忠誠心抜きで白蘭が美女かというと、もう直視するのも眩しいばかりの美女だということには異論は無い。寧ろ、平気で直視している入江正一を尊敬する。

「ウチ…化粧の仕方も知らないし」

オレに聞かれても困る。
「(白蘭様じゃなくて)…アイリス辺りに聞けばいいのではないか?」
「ああいうケバい路線は、アイリスだから似合うんだと思う。ウチは無理」
「…………」
確かに、向き不向きというのはある気がする。

「あと、結局ウチ、化粧しても作業用マスクにファンデが付いてうざいと思うから、しない方がいい気もするんだけど」
「結局、したいのかしたくないのかどっちだァ!!」
「ウチもよく分からない。作業着もそうだ。ウチ、おしゃれの仕方なんかわかんないし、でも姫みたくへそ出し生足なんかしてたら、メカ弄りの時危険だと思う」

一体、何が言いたいんだ…
否、だいたい分かってきた。スパナは、今の自分は綺麗ではないと何らかの理由で思い込んでいて、幻騎士が知らぬ間に成長していたらしい乙女心はいちごショートでも晴れないくらいに傷付いてしまっているのだ。

否…乙女心も何も、スパナは既に推定クリスマスイブな年齢だ。大人の女だ。妹分だと、いつまでも幼い妹のままの気がしてしまうのだが。

「スパナ。何が有ったのか知らないが、お前は紛う事なき美人だ。自信を持て」
「……でも、正一はそう思ってないと思う」
「入江殿…?」
「正一は、白蘭しか見てない…きっと」

幻騎士に、落雷した。
ひょっとしなくても、これはコイバナかーーー!!
ちょっと待て!これは、かなりオレの苦手分野だ!!

「…お前は、入江殿をお慕い申し上げているのか」
「ウン。めっちゃお慕い申し上げちゃってる。高校の時からだから、10年近いと思う」

幻騎士は、ふと思い出した。
恋愛?なんだそれ。イチゴ菓子より美味いのか?…という感じに見えたスパナだが、そうではなかった時期が確かにあったのだ。

ロボット大会で出会った「カッコカワイイ日本男児」の話をもじもじした感じに話してくれたことが。
つまり…

「9年か10年か忘れたが…かなり前に、お前がカッコ可愛い日本の少年がいたと、そう話していたのが、入江殿なのか?」
「うん」


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