01-結晶

 
「オレがしてもいいのですよ?」
「ううん、僕頑張る…!」

つまり、赤ちゃんのお世話だ。
着替えやおむつ替え。

赤ちゃんは、母乳を飲んだと思ったらすぐにぶりぶりとやるので、正一も幻騎士も何となく沈黙。
そして、正一は完全母乳育児を夢見た通りに母乳の出がよく、大きめに産まれてきた赤ちゃんも勢いよく飲んでくれるのだが、これも時折むせて、けぽーんと吐く。

入院中のオムツや着替えは病院が全部支給してくれるので、いくらでも取り替えてよいのだが、取り替えは自分でやるか、どうしても辛ければ看護師にヘルプ。
だが、意地でもヘルプしないのが正一クウォリティ。

「こんなに手間がかかるものなのですね……。世の母親の全てを尊敬します」
「うん…どのお母さんもきっと大変だよ…。一応、けぽーんもあまりしない子する子…、うんちも1日に1回とか、もっと少ないとかいう赤ちゃんもいるみたいだから、かなり個人差だと思うけど……。それに、この子ってよく泣く方みたいだしね…」

とにかく、正一と幻騎士の間に授かった赤ちゃんは、結構手間がかかるタイプのようだ。

幻騎士は、可能な限り仕事を早く切り上げて、正一が入院している病院に一緒に寝泊まりするつもりだ。だから、一緒にいる間くらい赤ちゃんの世話を代わろうと思うのだが、とにかく正一は頑張りたがる。

「だって、帝王切開でも術後は動いた方が回復が速いって言うし、里帰りしたってお世話は僕がするんだ。この部屋は個室だからトイレが付いてるけど、相部屋のお母さんたちは、痛くても大変でも遠くても、廊下を歩いて動くんだよ?」

正一は、里帰りについては、父からそれも親孝行だと言われて嬉しくて、床上げまで3週間、の半分の10日を承諾した。
その一方で、正一の母については「孫」の面倒をみたい、…というよりもあまりにも浮かれているのが、正一ヴィジョンでは「赤ちゃんを盗られる!」という警戒心に繋がってしまい、母猫の如くにキシャアアア!!…なのだ。

だから、正一は母の介入は家事だけにさせたい。母さんの孫以前に僕のこどもーーー!!と赤ちゃんを守り切るべく、帝王切開の傷が痛くても辛くても、赤ちゃんのお世話を速やかに出来るようになりたい。マスターしたい。
よって、看護師には、おむつ替えも着替も、始めに教えてもらって以来、ヘルプを頼んだのはゼロ。

でも、幻騎士は、産後で疲れ果てている正一を見ていると、とても正一らしいと思うと同時に、入院中からこんなに頑張らなくてもいいと思うのだ。
かといって、気遣うと正一は絶対に「頑張る!!」と言い張るのに決まっているので、幻騎士はどうすればよいかと言葉を考えた。

「正一」
「なぁに?」
「オレも、この子との関わりを覚えたいのですよ」

幻騎士は、正一に笑いかけた。
「オレと貴女の子どもでしょう。オレもこの入院期間に、貴女と一緒にこの子の世話の仕方を覚えたいのです。退院のあとは10日間の里帰りだけで、3人で家に帰るでしょう?その後に正一と一緒にこの子の面倒を見るのはオレですから、今のうちに世話を出来るようになっておきたいのです」
「…………」

正一は、それは気付かなかった、という表情で緑の目を瞬いて、そして嬉しそうに笑った。
「そうだね。僕と幻の赤ちゃんだもんね」

正一はオムツとおしりふきを用意すると、おしりを持ち上げて、こういう風に拭いて…と熱心に教えてくれた。
その姿が一所懸命で、可愛らしくて、幻騎士は微笑を誘われた。

「幻って…何でも器用なんだね…」
「そうでしょうか?オレなりに、結構緊張しているのですが」

確かに、正一の言う通り、幻騎士はさほど丁寧に教えてもらう必要はなかったのだ。
剣士の目は、いちど見たものはすぐに覚える。何でも真似出来るわけではないが、簡単な動作ならすぐにコピー出来てしまう。

ただ、少々おっかなびっくりであったのは本当だ。
触れる度に思う。小さい、軽い、ふにゃふにゃ。正直動揺する。

そして、正一の言う通りに2枚の肌着を重ねて赤ちゃんに着せる。
「貴女が着せているのを見てはいましたが…本当に小さな服で、おもちゃのようですね」
「あはは、買ったときにも、うわーちっちゃい!着せ替え人形の服みたい、って思ったけど、こうやって着せてみるとちゃんと赤ちゃんの為の服だったんだなあって分かるよね」

正一は笑って、ふと幻騎士の優しいまなざしに気付いて、トクンと心臓が跳ねた。
「えっと…どうかした?」
「こうして、貴女とふたりでこの子の世話をするのは、とても幸せだと思ったのですよ」
「…うん」

正一は、頬が火照った。
赤ちゃんのお世話は、これから長く続く大変な日常になっていくのだと思うけれども、幻騎士にとても幸せだと言ってもらえたのが嬉しくて。

ふたりで慈しんで育ててゆく、ふたりの間に授かった、大切な大切な宝物。

「宝物ですね。愛の結晶です」
「うわああん!僕の思考を読まないーーー!!」


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