01

ウチ今、体温37度5分。
ビミョーな数字だよな。大丈夫のような気もするし、関節がギシギシ痛くてヤな感じだから、午後に向かってもっと上がってくような気もするし。

強がり言って登校して、(正一の前で)フラフラしてたらカッコ悪いから、ウチ休むことにした。

「正一は行ってきて。ノートヨロシク」
「でも…僕…」

ベッドに横たわるウチを心配して見下ろす、綺麗な緑の瞳。
ウチひとりしか映していない正一の瞳を、見つめ返しながら、

「正一」
「何だい?」
「Beautifulだ」
「…………」

正一が、3秒の沈黙のあと、ほっぺたを綺麗に染めた。
「正一、色白だから恥ずかしがるとピンク色になって可愛い。いつも可愛いけど」
「な、何だよ急にっ!」
「急にじゃない。いつも思ってるのを今言っただけだ。ウチが見る正一の目はいつでもBeautifulなウチだけのJade。だって、正一はいつもウチのことを見つめてくれてるから」(注1)
「…………」

ウチは、素で言っただけなんだけど、熱がない正一の方が、ぐらんとして口から魂が抜けそうになった。

「…とか、いつも通り全力で口説けるくらい、ウチは結構大丈夫だ。昼食は、簡単なのならミニモスカが作ってくれるし、食欲無ければスポーツ飲料飲んでるし、心配しなくていいよ」

ウチは手を伸ばして、正一の柔らかいほっぺたに触れようとして…ダメだって思った。代わりに、ふわっとした紅茶色の髪を指で梳いた。
だって、ウチの手で正一のほっぺたに触ったら、ウチの手が熱いの、伝わってしまうから。

正一がなかなか行こうとしないから、ウチはベッドから出て、ミニモスカと一緒に玄関に向かった。
「行ってきて、正一。そろそろ行かないと遅刻するよ」

ウチとミニモスカが手を振ると、正一は気掛かりそうに言った。
「じゃあ僕、出来るだけ急いで帰るから、ゆっくり休んでてね」
「うん。でも急ぐのは程々にして。あんまり慌てて自転車でこけたりしたら大変だから」

正一は、遠い目をした。
「うん…慌ててる僕って、そういうイメージだよね……」
「凹まないで、正一。ウチ、正一の全てを愛してるから」
「うん…どんくさいところまで…ありがとう……」
「正一」

ウチ、イチゴ菓子よりも甘い気持ちで正一を見つめてみた。
「遠い目をしてないで、正一もウチを愛してるって言って欲しい」
「…………」

正一は、池の鯉みたいに口をぱくぱくしたけど、一大決心です!っていう顔で言ってくれた。

「スパナ!あ、あのっ、愛してるから、早く帰ってくるっ!」

正一は叫ぶと、ダッシュでドアの向こうに消えた。
ウチは、じ〜んと幸せに浸った。

「正一可愛い…ピンクからばら色にバージョンアップして愛を叫んでくれた」

シャイな正一は、「すき」は言ってくれても「あいしてる」はおとなっぽい言葉だと思っているみたいで、なかなか言えずにいる。
ウチは、もっと言われてみたいなあって思うけど、正一の顔を見ていれば、ウチのことうんと意識してくれてるんだなあって分かるから、一緒にいるだけで幸せだ。

「じゃ、ウチ寝るよ。あとはいつも通りヨロシクな、モスカ」

モスカがピコピコって目を点滅させてOKサイン。いつもは、ウチと正一が登校してから食器の片付けや掃除をやってくれるから。
「あ、それからウチ、今日は寝るの優先だ。お昼でも起こさなくていい。昼食は食べられるかどうかよく分かんないから、ウチが目が覚めて、何か食べたいなあと思ったら呼ぶよ」

ピコピコと、OKサイン。

ミニモスカがてけてけと行ってしまうと、ウチは、寝室に戻って、もふんとベッドに沈んだ。
「やっぱりウチ…休んで正解かも」

正一に心配かけるからって、ちょっと無理して朝ご飯食べたから、胃に負担がかかって消化するの止まってる感じ。
多分、お昼は無理っぽい。スポーツドリンクだけでいい。

もぞもぞと、布団に入る。
昨夜、風邪染るから別のベッドで寝てていいよって言ったのに、正一はウチの傍にいてくれた。
今はふたりで眠ったベッドにはウチしかいなくて、正一が寝ていたところに触れると、ぬくもりを失ったシーツがひんやり感じて、寂しかった。

「しょういち…」

ウチ、そのシーツに触れながら呟いた。

「あいたいよ…」

呟いて、ウチ精神的に撃沈した。
「何だウチ…めっちゃカッコ悪い…」

正一は、さっき出て行ったばかりなのに。もう逢いたいとか、何言ってんだ。
一緒に暮らしているんだから、無理をしない範囲でお互いに気を遣うのと素直になるのと、いいバランスを保たなきゃいけない。

ウチは、もう正一に夢中で夢中で仕方が無いから、正一の願いは全部叶えてあげたい心意気。
でも、ちょっとだけ背伸びだ。今の時代のウチらは、正一が小柄で心もデリケートで、ウチの方が背が高くて動じない(っていうかウチマイペースなだけなんだけど)のが、クールでおとなっぽいって正一に思われてるみたいだから。

正一が、そんな風にウチを信頼してくれているのなら、ウチはもう最大限にその愛に答えたい。
意地を張るって言うより、これは愛だ。

おとなになるって、何となくなれる、っていうものじゃないと思う。何となく過ごしてたって、何となく年齢を重ねるだけだ。
大切なものがあったり、目指すものがあったり、守りたいものがあったりするから、今の自分よりももっと先へって、頑張れるんだ。

「でも…今日のウチ、カッコ悪い…」

好きな子の前ではカッコ付けていたいって言えば、正一は真っ赤になって「僕も男!」って言うけど、それでもウチには正一が世界で一番可愛くって、世界で一番守ってあげたい恋人なんだ。


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注1:Jade/翡翠(ひすい)



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