01
殺しちゃった。
ほかの並行世界では、簡単に殺しちゃつまんないよなぁって思って、色々趣向を凝らしていた僕。
例えば、一発では殺さずに、苦しみながらじわじわ死に向かってゆく正チャンを観察したり、敗北或いは僕との友情の終わりに絶望して、僕を見つめる緑の瞳に笑いかけてあげたり、色々やってみたんだけど、この世界の僕は違った。
だって、そういうのって可哀想じゃない?
僕は、正チャンが大好きなんだもん。
大好きだから、許せない。
大好きだから、さいごはせめて苦しまずに殺してあげたんだ。
(正チャン。うまく隠していたつもりなんだろうけど)
(バレバレだよ)
(君がいつか僕を裏切って、僕の元から離れて行くばかりか)
(僕を殺そうと、しているなんてさ)
正チャンは、僕を倒すなんて、曖昧〜な言い方をしたけどさ
倒す=殺す、だと思わない?
……って言ってあげたら、正チャンはひどく悲しそうな顔をした。
どうして?悲しいのは僕の方だよ。君と何年間も一緒に過ごして、君はいつも僕の隣で笑っていてくれて、僕も笑っていたのに。
その日々が、君の笑顔が、全て偽りだったなんてさ?これって酷くない?正チャン。
本当、僕ってば泣いちゃいそうだったよ。僕に涙腺なんてものが人並みに存在するんだったらね。
「大好きだよ、正チャン」
僕が笑ってあげたら、正チャンも笑った。
「はい、僕も白蘭サンが大好きです」
正チャンは、これから僕から殺されるのに、優しいやわらかな笑顔だった。
この笑顔、僕が正チャンと一緒にいた6年の中で、一番綺麗な笑顔だなあって、僕は思った。
今までの正チャンの笑顔は、楽しそうだったり、嬉しそうだったり、…シャイな正チャンらしく照れ笑いだったり、常識人の正チャンらしく困った笑顔だったり、……そのくらいのヴァリエーションだと思ってたんだけどな。
正チャンって、愛嬌はあるけどイケメンじゃないんだし、「綺麗な笑顔」だなあって思ったのは初めてだったと思う。
そう思いながら、僕は正チャンを殺してあげた。
白指を最小出力にしてね。例えて言うなら弾丸程度?
だって、下手に力を入れちゃうと正チャンの頭ごとグチャグチャに割れて吹っ飛んで、とっても見苦しいことになっちゃうんだもん。
大好きだから、なのに手に入らないから殺しちゃった。
それなら、その屍は綺麗なままにしておきたいじゃない?
そう。だいすき。
額を撃ち抜いたとこ、修復して全身も防腐加工をして、僕のお部屋のオブジェにしちゃおうかな。
冷たい屍じゃつまらないから、あったかい体温と肌の柔らかさを残しておきたいな。
それで、僕は毎日正チャンにキスをするんだ。
ほんのりあたたかくて柔らかい正チャンのほっぺたや唇にキスをして、おはようとかオヤスミとか。
ベッドに連れ込んで、抱き枕にしちゃうのもいいかな。
そういう意味では、ユニちゃんみたいに薬を投与して、生きたまま操り人形にしたほうがよかったのかなとも思ったけど、それはダメなんだよね。
何ていうかさ、言いなりになる人形なんて、興醒めなんだよ。
僕の言う通りに「白蘭サン、愛しています」なんてなぁんて正チャンに言わせてみてもさ、ちっとも面白くない。
さいごまで、僕の思い通りにならないのが正チャンで、バレバレの演技をしながら、それでも一所懸命に僕の傍に居続けようとした、ああいう自発的な行動じゃなきゃ、意味がないんだよね。
でも、なんだかなあ。
(大好きだよ、正チャン)
(はい、僕も白蘭サンが大好きです)
綺麗な、何の悔いもありません的な最後の笑顔。あれはないと思うんだよ?
さいごくらい、僕と本気で向き合って欲しかったよ。ほかの並行世界でさ、「貴方は間違ってる!!」…とか必死に叫んだような、本気の正チャンを見たかったんだけどな。
どうせ裏切るんなら、その瞬間だけは嘘偽りなく本当のことばと本当の表情を僕は見たかったのに。
でも、君は僕の願いを叶えてくれないまま、さいごまで嘘吐きなまま、逝っちゃった。
ひどい親友だなあ。
っていうか、君って本当に僕の親友だったの?
……じゃない、よね。
欺き合う親友なんて、いないもん。
偽りだらけの君と僕。
さいごだけ正直に、僕に対する敵意と、殺される恐怖感でいっぱいのお顔を見たかったって、そんなに贅沢な望みかなあ?
僕が見下ろす正チャンの死に顔は、眠るように安らかで、敵意とも恐怖とも程遠かった。
でも…
何だか、
やっぱり悲しいね。
僕は…ううん、僕たちは。
正チャン。その悲しみが独りだけじゃなかった、ふたりで分かち合っていた、唯一それだけが僕と君の絆だっただなんて。
〜clone〜
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[図書室65]
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