01

 
イタリアの高校は14歳から5年間。

「ブルーベルは、水泳が本命だから、高校なんておまけみたいなもんよ」
「…そうなんだ」

入江が困ったお顔をして笑った。いつもブルーベルは思うんだけど、困るのか笑うのかどっちかにすればいいのに。

「おまけかもしれないけど…入学おめでとう」
入江が差し出したのは、まぁるくアレンジされたかわいいブーケ。

「にゅーっ!どーして、最初にそれを出さないのようっ!!」
「タイミングがなかったかというか…」
「だから、始めから、ほほえましい感じに“ブルーベルも高校に入学するんだね”なんて遠回しに言ってないで、ズバリ高校入学おめでとう+花束、にしておけば、何も問題なかったのにっ!!」
「そうだね…。ごめんね」

ブルーベル、今きっと、しかめっ面のまんまでブーケを受け取ってしまったわ。
でも、本当は怒っていた訳じゃないのよ。しかめっ面なのは、とっさに不満をぶちまけちゃって、「ありがとう」って当たり前のことを言えなかった、それこそタイミングを失ってしまって、どうすればいいのかわからなくなっちゃっただけなのよ。

でも、知ってる。
タイミングなんて、いつでもいいのよ。自分で作ればいいの。ありがとうって、今すぐ言ってあげれば、入江は困ることをやめて、優しく笑ってくれるのよ。

「…入江、ブルーベルと再会した時、14歳だって言ってた」
「ああ、そうだったね。日本は学校制度が違うから、高校は満15歳になってからだけど」

……僕はまだ、中学生だったね、って入江は懐かしそうに笑った。

「ブルーベル、中学生も高校生も、おとなだと思ってたわ」
「そう言っていたね。僕は少し困って、僕も子どもだよって言ったんだけれど、君は“ちゅうがくせいもこうこうせいも、おとななのっ!”って断言するものだから、僕はいつまでも子どもじゃなくて、大人になろうと思えたよ」

入江は、もう困ってない。だって、入江の背伸びはもう終わったの。懐かしそうな入江は、本当に大人になってしまったから。

「じゃあ、14歳のブルーベルは、入江にとって子ども?」
「……ブルーベルは、ブルーベルだよ」
「返事になってなぁいっ!」
「僕は、ありのままの君を愛したいんだよ」

ブルーベルは、かーっと真っ赤になった。
「にゅーっ!!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「本当の事を言っただけだよ」

だけ、なんて。柔らかいまなざしで。
大人は余裕ぶってズルイわ。

……ううん。
違う…

ブルーベルは、もう気付いてる。
大人は、意地を張らないのよ。心をそのまま届けてくれるのが当たり前で、自然な事なのよ。

意地を張るのは子ども。
心の中でいっぱい思ってても、黙っちゃったり、正反対の嘘を吐いて、勝手に傷付くのが子どもなのよ。

「入江」
「何だい?」
「だいきらい、って言ってみて」

入江は、不思議そうな顔をした。
「えっと…。だいきらい?」
「そうじゃないわ。ズバリ、“ブルーベルなんか大嫌いだ”って言ってみて」
「…………」

入江は驚いたお顔をして、…そして、やっぱり入江らしく、困ったように笑った。
「それは、言えないよ」
「嘘だなんて、ブルーベルも知ってるわ。ただ、試しに言ってみて、ってそれだけよ」
「それでもだよ。言えないし…言いたくないんだ」
「どうして?」


「……僕が傷付く、からかな」

今度は、ブルーベルの方が驚いて、しばらくの間声が出なくて、ただ入江を見つめてた。
見つめ返してくれる入江の緑の瞳は、優しかった。

「僕が子どもだった頃、何度か君から“入江なんか大嫌い!”って言われて…僕は真に受けて傷付いたけど、言った君の方も泣きそうな顔をしていて、……今にしてみれば、自分の心に嘘を吐くのは、辛いことなんだって思うんだよ」

……そんなやさしいこといわれたら。
ブルーベル、泣いちゃうじゃないの。

「ごめんね。あの頃の僕は、君の傍にいたのに、君の本当の心に気付いてあげられない、自信が持てない、臆病な僕だったね。……君は、本当に精一杯、僕のことを想っていてくれたのにね」

入江が、そっとブルーベルの髪を撫でてくれる。

「大丈夫だよ。これから、君が僕のことを大嫌いって言っても、僕は傷付かないから。言ってしまった君の方がずっと辛くて、傷付いてしまうんだから。僕は、それでも君が好きだよって応えるよ」

やっぱり、入江だけが大人で、ブルーベルは子どもで。
でも、入江は今のブルーベルでいいって言ってくれるの。今までずっとそうだったように、「ブルーベルはブルーベルだよ」って抱き締めてくれるの。

「…入江。ブルーベル、言えなかったことがあるの」
「何だい?」

涙を拭いて、少しの勇気を出して。
言えたら、ブルーベルも、少しだけおとなになれる…?

「お花…ありがとう」

入江は、優しく笑ってくれた。困ったお顔じゃなくて、嬉しそうに。

「高校入学おめでとう、ブルーベル」

ひとつ、階段を上って。
小さなブルーベルが見上げていた入江のように、ブルーベルも少しずつ、おとなになりたいの。







〜Fin.〜

 

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