01

 
明日は文化祭だから、遅くまで残って最終準備と確認を完了。
いつもは7時で閉まる校門だけど、この時期は例外的に8時までOK。僕たちもギリギリまでいて走って門を出た。

「正一、疲れた顔してる」
「そりゃあ、疲れもするよ」

ちょっとむくれた顔と口調になってしまった。僕たちは、雲雀君に雇われて研究員になったけど、僕たちのペースで進めていいから、疲れたって思ったことはあまりない。それに、スパナが僕が無理をする前に気が付いてくれるから……

なんて、思い出してしまったら、今更心臓がトクンと跳ねた。
とっさに笑ってみせる僕。
「明日楽しみだね」
「ウン。正一とやるイベントなら何でも楽しみだ」

ダメだ。夜だけど、外灯やビルの灯りで、僕の顔が火照ってしまったのを、スパナに気付かれてしまったかも知れない。
否、絶対に気付かれた。僕を見つめるスパナの瞳が、いつにも増して甘い。

「正一、真っ赤になってるの可愛い」
「スパナって、何でも可愛いって言うよね!」
「それは、ウチがいつでも正一を可愛いって思ってるからだ。毎日一緒に暮らしててもときめくけど、イベントってきっといつもと違うときめきがあると思う」
「〜〜〜〜〜っ」

何て返したらいいのか分からない僕。
せめて、うん、だけでもいいから何か言えばいいのに。

でも、スパナは気分を悪くしたようでもなくて、雑談を振ってくれたから、僕は少し安心した。そしてそんなさりげない話題でもスパナと話しているだけで楽しくて、並盛行きの電車に乗った。

朝ほどのラッシュじゃないから、普通に吊革につかまっていればいい。朝は吊革もポールもゲット出来ないことが多いんだけど、スパナが僕を引き寄せて「ウチにつかまってろ」って言う。

「ウチ、満員電車大好きだ。公共の場で正一を堂々抱き締めていられる」
「〜〜〜〜〜っ」

君がそんな事を言うから、もみくちゃにされてイヤだと思っていた登校時間が、僕にとっても幸せなひとときになった。

「正一が、ほんのりピンクになってウチにくっついてくれてるの、食べたいくらいに可愛い」
「具体的に表現しないでくれよ!!」

君と出会って、僕の世界はどんどん変わっていった。
そして、その世界はとても優しくて綺麗なんだ。

……って、いつか伝えられたらいいな。

「あ、ラッキーだ。ちょうどふたり分」
目の前にいたひとがふたり降りていったから、僕とスパナはすぽんと座った。

「どうした?正一」
「えっと…辛そうなひと、いないかなって。お年寄りとか、妊婦さんとか、具合悪そうにしてる人とか…」

きょろきょろしてみたけど、近くにはいないみたいだから、僕はそのまま座っていることにした。
「そっか、正一は優しいな」
スパナの手が、僕の赤茶の髪をぽふぽふと撫でる。
「正一って、自分が疲れててもそういうこと気にするんだな。ウチは無理しないでって思うけど、正一のそういうとこ、好きだよ」

好き、って。さらりと言うから、僕は頬が火照る。

電車の席って、難しい。スマホ弄ってる若い男の人だって、苦学生だったりバイト帰りだったりして疲れ果ててるのかもしれないし、時間をかけてメイクに力を入れてる女の人も、これから夜の仕事で忙しく働くのかも知れないし。

僕はきっと、スパナに守られながら、とても優しい箱庭のような世界で生きているんだ……



「……正一」

その、優しい声で、ふと僕は気付いた。
……スパナの肩にもたれて、ぐっすり眠ってしまっていたことに。

「ごめん!うっかり眠っちゃって!」
ごめんもあるんだけど、男子高校生同士が隣に座ってて、その片方が無防備に身を預けてる構図って、傍から見ていてどうなんだろうか!?

僕は慌てて席を立ったけど、何かが違う…と思った。
「ウン。ここ終点だから」

・・・・・・・・・・。

僕は、何が起こったのか分からなくて叫んだ。
「何で終点!?」
「正一が、ウチに寄っかかって安心しきった可愛い顔で寝てたから、起こさない方がいいと思った」
「思い切り、家から遠ざかったんだけど!?」
「知ってたけど」

スパナが、甘く微笑した。
「ウチが、幸せだったんだよな」
「〜〜〜〜〜っ」

とにかく、電車を降りて違うホームに向かう。ここまで来てしまったら、並盛に近い駅まで快速に乗って、そこから乗り替えた方がいい。

「ウチ、終点まで正一と一緒にいたいと思ったんだ」
「……いつも一緒じゃないか」
「一緒だよ。だからウチ、いつも幸せだ」

トクン、って心臓が跳ねる。僕も同じ事を思っているのに、言葉にしてくれるのは、いつも君が先。
だから、せめて「僕も幸せだよ」くらい、小さな声でも答えられればいいのに。僕は、隣を歩くスパナを見上げるのがやっとだった。

僕だけに向けられる、澄んだ海の色の瞳。
綺麗で、見つめ合っていると吸い込まれてしまうような気がする。

「…正一」

名を呼ばれれば、僕は目を閉じて、唇に柔らかな感触がした。

「〜〜〜〜〜っ!」

僕は、ぱっちんと目を開けて、がーんとショックを受けた。
「こ、公共の場…っ!」
「No problem. ちゃんと誰にも見えないように角度を計算したから」

海の色の瞳が笑う。
「まあ、ウチは見られても構わないんだけどな」
「僕が構うんだよ!」

僕は、眩暈がした。
これは、スパナだけの所為じゃない。今僕、完全に流された…!かなりナチュラルに流された!

「は、早く快速に乗ろうよ!」
「ああ、1分前だな」

電光掲示板を見て、僕たちは階段を駆け上がった。

ふたりで、一緒に。





〜Fin.〜

 

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