01

車は、海に向かってる。

「びゃくらんとドライブするのは、刺激的なのよ」
「そうだろうね…」

ちらりと隣の運転席を見ると、入江は遠い目。
「入江、ちゃんと前とミラーをみて運転してほしいわ」
「そうだね」

入江は、前を見てって言った通りにしてくれて、ブルーベルの方を見ることはしなかった。
入江の車でドライブするのは好きだけど、それだけはちょっと寂しい。

「…なんて、教えてあげないんだからーーーっ!!!」
「な、何の事だい?」
「だから、教えてあげないのっ!」
「…そう」

素っ気ない、ブルーベルのことどうでもいいのかなって思ったけど、…違った。ハンドルを握る入江の横顔は、とても優しくて。
どうしてかな。入江は怒らないで、ブルーベルをすきなままでいてくれるの。

(ブルーベルは、ブルーベルだよ)

「にゅーーーっ!!!」
「ど、どうしたんだい?」
「何でもないのよっ!!」

時々言って貰えることばなのに。思い出すと、どきどきしてしまうの。
だって、それはブルーベルの全部がすき、っていう入江からのメッセージだから。

「びゃくらんの運転は、デンジャラスで刺激的だけど…」
ブルーベル、どうしてか、元の話題に戻ってた。

「入江の運転も…」

(どきどき、するのよ)

「にゅにゅーーーっ!!!」
「ど、どうかした?」
「死んでも!教えてあげないわっ!!」
「……じゃあ、二度と訊かないよ」

入江の声は静かで、でもいつもの、ほんわり優しい響きじゃなかった。どこか、悲しそうな。どうしてなのかな…
何となく、ブルーベルも聞いちゃいけない気がした。

ラジオから、ニュースが流れてくる。気が付いたら、音楽番組が終わってたみたい。
「ニュースって、つまんないよね」
「う…ん。確かに政治の話題だから、楽しくはないかな」
「入江はわかるんでしょ」
「そうだね」
「にゅ…。おとなだわ」
「大人でも、分かんない人には分かんないと思うけど」

・・・・・・・・・・。

「入江ーーーっ!いくら天才だからって、そういうのはイヤミだと思うのよっ!?」
「えぇとね、そうじゃなくて…政治や経済は、本当はもっと身近な問題であるべきなんだろうけど、専門家がいる程度に複雑な問題なんだよ。賛成意見、反対意見、中立…。利益のある人、損失が見込まれる人…。色々な人がいることを知って、考えなきゃいけない。僕は専門家じゃないけど、その程度に色々な人がいて、色々な立場で考えている、その情報に興味関心を持っていることが、最低限の条件なんだよ。…でも、大抵の人はそうじゃないだろう?」
「にゅ…。確かに、それはブルーベル、興味ないわ」

だって、ブルーベルは恵まれているもの。
水泳に夢中になることを、許されているもの。びゃくらんがいて、桔梗がいて、いつも守って貰っていてくれるもの。

……名前を呼べば、いつどこにいたって、入江がブルーベルを助けにきてくれる。
そう約束してくれたもの。

ブルーベルがまだ小さかった頃のお話だけど、ブルーベルは信じているのよ。
信じてるっていう気持ちは、とても幸せなのよ。

「…入江」
「何だい?」
「こ…これだけは、教えてあげてもいいわっ!」

ブルーベル、偉そうだわ。…でも。これから伝えることは、本当よ。

「…ブルーベルは、幸せなの」
「…………」
「入江が傍にいてくれるから、幸せなのよ」
「…………」

ブルーベル、真っ赤。多分、10秒もない沈黙だったけど、ブルーベルにはとても長く感じて、にゅにゅーって叫んじゃった。

「どーして!黙ってるのよっ!!」
「驚いたんだ」

くすって、入江が笑った。
「僕も、いつも同じことを思っていたから。そのことを、君が今言ってくれたから」
「どうして驚くのよ!幸せで、大好きじゃないのなら、傍にいるわけないでしょっ!!」
「……そうだね。僕も幸せで、君を大好きだよ」

知ってるつもりなのに。
改めて言ってもらえると、嬉しくて、安心するのよ。

「君の気持ちは、僕も知っているつもりではいたんだけど…改めて言って貰えると、嬉しいし、安心するんだ」
「にゅにゅーーーっ!!どーして!電波みたいにいちいちブルーベルとおんなじこと考えるのよーーーっ!!」
「あはは、そうだったんだ?やっぱり嬉しいよ」

不思議なシンクロ。
<あの未来>とは違う出会い方をして、違う未来へとブルーベルと入江は歩いてる。

ふと、気付く。
ラジオでは、殺人事件。別れ話がこじれて、男が元恋人の女の人を殺してしまったって。

「この女の人、ついてなかったね」
「え…?」
「ほかの並行世界なら、こんなロクデナシ男と恋愛しなかったかもしれないでしょ?そもそも、出会わなかったかもしれないのに。ついてないわ」
「…………」

無限の数の並行世界。
<未来のびゃくらん>は、ひとりで勝ちゲーコンプリートをしちゃったこともある。だから、<真六弔花>をわざわざ選ばなかった世界もたくさんある。選んでも、真六弔花は世界によってメンバーが違う。

「その、極めつけについてない人を選んで、びゃくらんは真六弔花を選んだのよね。この世界では、ブルーベルも桔梗も、デイジーもザクロもトリカブトも、みんな違う道を選んで幸せに生きてるけど、<あの未来>では世界を呪いまくってたんでしょ?」

車が走ってゆくと、ちらりと綺麗な海が見えて、ブルーベルは嬉しくなった。
それはすぐに防潮堤で見えなくなってしまうけど、窓を開ければ強く吹き込んでくる風は海のにおいで、やっぱりわくわくする。

もう少し走ると駐車場に着く。シーズンオフだから、駐車場は空いている、っていうよりひとつの車も停まっていなくて、がらんとしてるから、海水浴の時とは違って、防潮堤の階段の近いところに車を駐められる。

ブルーベルは楽しいのに、ラジオではまだ不幸な事件の話が続いてた。
芸能人がまだ若いのに亡くなったとか、遠い遠い外国でテロ事件があって、やっぱりたくさんの人が巻き込まれたとか。
ブルーベルは今幸せだから、ラジオが伝える出来事は、全然自分には関係無くって、それが不思議で、でも当たり前だわって思った。

ニュースは終わった。
車が海水浴場の駐車場に着いたから。


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