02

いつまでも泣いてるのもみっともなくて、ブルーベルは入江に教えてあげた。

「ブルーベルは事故よ。足に大怪我して、動かなくなっちゃったの。でも、ブルーベルはこんなのに負けない。ブルーベルは、絶対また泳げるようになるんだから」
「水泳が好きなの?」
「そうよ。ブルーベルは泳ぐ為に生まれて来たのよ。たくさんの大会で優勝したんだから。将来はオリンピックの選手になるの。絶対表彰台に上るのよ。でも、上るんだったら絶対てっぺんだわ。金メダル以外は要らないのよ」

入江が、何だかぽかんとしてきいてるから、ブルーベルはむっとした。
「なにその、ありえません、みたいなリアクション!」
「違うよ。とても、大きな夢を持っているんだなあって思って」

入江は、にこりと笑って言ってくれた。
「素敵な夢だね」
「……当たり前よ」

何だか、やっぱり入江と話していると調子が狂うのよ。
いちいちほっぺた熱くなるのがイヤ。でも、お話しするのはイヤじゃないの。

「僕が君くらいの年齢の時には、もっとぼんやりした夢しか持っていなかったよ」
「ブルーベルくらい、っていくつにみえるのよ」

うーん…って今更首を傾げる入江。
「僕より…10歳くらい年下なのかな…?」
「じゃー入江はいくつなのよ」
「えぇと…アメリカではよく中学生くらいに間違えられるんだけど、22歳だよ」
「…………」

ブルーベルも、今更ショックだったわ。
どうして?本当に今更よ。大学ですっ転んだんだから、そのくらい年上なのは想定の範囲内なのに。

何だか…入江を、遠く感じた。
おかしなブルーベル。今日初めて会ったんだから、遠いも近いもないわ。

「…当たりよ。12歳。12歳の入江の夢って何だったの?」
「えぇと…恥ずかしいんだけど、ロックミュージシャン」
「…………」

似合わない…!ほわほわした入江には、思い切り似合わないわ!って思ったけど、ブルーベル、そこまで言うほど意地悪じゃないわ。
でも、気になる。

「じゃー、今はどうしてアメリカの工科大学で大学生なんかやっちゃってるのよ。それとも、音楽活動と並行なの?」
「えぇと、僕は大学生というか…博士号取ってる、一応科学者なんだけど…」

かがくしゃ。

「何で、22歳で科学者なのよーーー!!!」
「あ…単位さえ揃えて論文が通れば飛び級出来るんだよ」
「何よ!ドジのメガネかと思ってたら、かなり天才じゃないのっ!!」
「そんなんじゃないよ。たまたま向いていただけで」
「天才でしょ!!変な謙遜をしたら、世の中に掃いて捨てるほどいる凡人達から、思い切り恨まれるわよ。ブルーベルみたいに胸張って天才ですって顔してなさいよ」

でも、言ってみて思ったわ。
入江は、ミュージシャンよりもずっと、偉そうにするのが似合わないの…きっと。

「どうして、今はミュージシャンじゃなくて科学者やってるの」
「才能がなかったからだよ」
「…………」

入江は、ほろ苦く笑った。
「…って言い訳をして、叶わないんだって、諦めてしまったからなのかな。全然売れなくて、貧乏でほかの仕事と両立させてでも、諦めずに追いかけ続けていれば、いつか少しは報われる日が来たのかもしれないね」
「…………」
「僕は、科学者は向いているし、研究も面白いと思っているから、これでもよかったと思ってる。でも、ブルーベルには、夢を叶えて欲しいな」
「…………」
「あの…。僕、何か君を、傷付けること、言ってしまったのかな……」

何よ。この天才科学者。
「にゅーーーっ!天才なのは、工学だけにしておきなさいよっ!!」
「えぇと…あの、どういう意味だい?」
「入江は、ブルーベルを泣かせる天才よ!ブルーベルは、弱い子じゃないのに。ちゃんと、“天は二物を与えず”を守りなさいよっ!!」

本当は、不安だったのよ。
泳ぐどころか、歩くことも出来ないだなんて。

あんなに大好きだったプールは、水は、もうブルーベルのことを忘れてしまったんじゃないかって、そう思うことは何度もあって、そんなときはじっと、ひとりで我慢してたのよ。

泣いちゃダメ。泣いたら諦めるのと同じだと思って、泣いたら負けなんだって思って、ぐっと自分の胸の中に閉じ込めていたのよ。

「…負けじゃ、ないよ」

ふと、優しい声に、俯いていたブルーベルは顔を上げた。

「泣いても、大きな夢を僕に話してくれた君は、負けてなんかいないよ」

ブルーベルは、不思議だった。
泣いたら負けだと思ってたなんて、ブルーベルはひとことも言ってないのに。

でも、入江はそういうひとなのかも知れないって思った。
入江は、ブルーベルの心に、辿り付いてくれるひとなんじゃないか、って…


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