02

「入江!早く来てよ!」

ブルーベルは、道路を渡って、防潮堤の階段を駆け上がった。
ここから見る風景は、すきよ。

広い砂浜と海を、高いところから全部見渡せるから。
とてもとてもきれいで、…ちゃんと伝えたことないけど、入江と一緒にこの風景を見るのは、とっても幸せっていつも思うから。

(しあわせ…)

ブルーベル、思い出しちゃった。
さっきの、不幸だらけのニュース。

ゆっくり階段を上ってきた入江が、やっとブルーベルに追い着いてくれた。

「ねえねえ、入江」
「何だい?」
「<あの未来>でも、海はきれいだった?」

どうしてか、入江はすぐには答えてくれなかった。

「……きれい、だったよ」
「今、ここで見てる海みたいに?」
「うん…」
「じゃー、よかった!」

ブルーベルは、嬉しかった。
「きっと、無限大の“もしも”の中には、海がぜーんぶ干上がっちゃった、悲しい“もしも”もあるんだよね。でも、この世界はあおいあおい海があって、いっぱいいっぱい、きれい」

海の青も、潮のにおいも、ブルーベルの長い髪をざあってなびかせてくれる海風も、ぜんぶすき。

「未来で、入江は何を守ろうとしたの?」
「え…」
「びゃくらんが、言ってた。ブルーベルにはよくわかんないけど、びゃくらんはいっぱい悪いことをした“悪いひと”だから死んじゃったんだって」

ブルーベルは、気が付いた。
「あ…でも、ブルーベルも同じよ。ブルーベルも、GHOSTに吸い込まれてしんじゃったんだよね。びゃくらんの言う通りにしたからなのかなあ?」

未来の記憶を受け取ったときのブルーベルはちっちゃかったらよく覚えてないんだけど、そうなのかな。
「ブルーベルには、びゃくらんが喜んでくれることなら、きっと全部すてきなことだったと思うの。人間をいっぱい殺すのは、ブルーベルにはいいことだったのよ。だって、足が動かせなくなって、泳げなくなっちゃったその未来のブルーベルは、極限!についてない子だったはずだもの。そんな世界いらないって、ぶっ壊してやりたいって憎んだんだと思うの」

でも、今のブルーベルは、「いらない」って言われるのは、どんなにかなしくってつらいことなのか、わかるのよ。

「ねえ、入江が守ろうとした世界で、ついてなくて不幸なひとは、真六弔花だけだったの?」
「…………」
「ブルーベルたち以外には、人殺しはいなかったの?マフィア以外は、戦争してなかったの?」
「…………」

海が、きれい。

「入江が、びゃくらんから守ろうとしたのは、そういうきれいな、素敵な世界だったの?」

風が、きもちいい。

「だったら、ブルーベルは、自分がどんなにつらくても、“いらない”って言っちゃダメだよね。壊しちゃダメだよね。ブルーベルは、今は全然ついてない子じゃなくて、いっぱい泳げて…」

あ。…この流れだと、ブルーベルはほっぺた真っ赤になっちゃうわ。
でも、今はそれでもいいって思うの。
「…入江と一緒にいられるから、ブルーベルは幸せな子、なのよ」

そう、しあわせ、なの。

でも、あの未来は、びゃくらんと会えて足を治してもらえたけど、そうじゃなかったら泳げなくなったブルーベルは、世界で一番不幸だったと思うわ。
「入江が守りたかったのなら、その未来は今の世界よりも、とってもきれいで、すてきな世界だったんだよね?」

それなら、ブルーベルにもわかるのよ。
入江は、優しいもの。
優しいから、きっと優しい世界を守ろうとしたんだよね?




「…ごめん」

ブルーベル、驚いた。
だって、入江のこんなに辛そうなお顔、見たのは多分はじめてだもの。

おとなの男の人なのに、まるで泣いてしまう寸前みたいな、こんなお顔ははじめてなのよ。

「入江、どうしたの?」
「…ごめん」

入江が、急にブルーベルのこと、ぎゅーってしたから、またびっくりしちゃった。
こんな風に、ちょっと息が苦しくなるくらいに抱き締められたのも、はじめてだったんだもの。

ブルーベル、また真っ赤よ。
「にゅーっ!いきなり、どうしたのよっ!」

いきなりだから、怒ったみたいなリアクションしちゃったけど、怒ってないのよ。
入江、このままぎゅーってしてて。ブルーベルは、本当は嬉しいんだから。

「…ごめん。ブルーベル…ごめん」
「どうしたの?入江がブルーベルにあやまることなんて、ひとつもないでしょ?」
「…ごめん」

入江は、ブルーベルをぎゅーってしながら、何度もごめんって繰り返した。
どうして?なんのこと?ブルーベル、わかんないよ。

「ねえ、入江」
そんなに、ごめんってあやまるのなら、ちょっとくらいワガママいってもいいのかな?

「あの未来の世界って、あの世界の入江が守ったんでしょ?だったら、それでいいじゃない。でも、この世界の入江は、ひとつだけ守っていればそれでいいのよ」
「ひとつだけ…?」

入江は、ごめんっていうのをやめてくれたけど、ブルーベルをぎゅーってするのもやめちゃった。
ちょっと寂しいきもちになったけど、このお願いきいてくれたら、ブルーベルはまた幸せになれるのよ。

「この世界は、ラジオのニュースみたいに、不幸でついてないお話がいっぱいだわ。ばかみたいにいっぱいある人殺しとか戦争とか、全部やめさせて入江がひとりで背負うのは無理よ。だから、ひとつだけでいいの」

入江、もう悲しいお顔をしないでね。

「入江は、ブルーベルだけ見てブルーベルだけ守ってればいいのよ!それだけでいいの。簡単でしょ?」

入江の緑の目は、驚いてブルーベルを見てた。
しばらく黙ってたから、やっぱりこのワガママはだめなのかなって、ブルーベル緊張しちゃった。



「…うん。…いいよ」

入江は、優しいお顔で笑ってくれた。

「僕は、二度と世界を守るなんて、思わない。……精一杯、君を守って生きてゆくよ」

ブルーベルは、とっても嬉しかった。
入江は、この海よりも広いこの世界でたったひとつだけ、ブルーベルを守ることを選んでくれたんだもの。

「入江!早く海に行こうよ!」

ブルーベルは、防潮堤の階段を駆け下りた。
白い砂が、さくって音を立てる。少し足を取られるけど、ブルーベルは波打ち際に向かって走りながら、ゆっくり階段をおりてくる入江を振り返った。

「ねーねー、早くってば!守ってくれるんでしょ?」

だから、早くブルーベルの隣に追い着いて。






〜Fin.〜

 

[ 83/100 ]

[*prev] [next#]
[図書室65]
[しおりを挟む]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -