01

 
「たまにはいいじゃない?」と白蘭から連絡が入り、ブルーベルも乗り気だというので、一緒に夕食をという誘いに正一は夕方に屋敷を訪れた。

「いらっしゃい、入江正一。今日も貴方のお姫様が待っていますよ」
「今日も懲りないね桔梗…」

はぁ、と溜め息をついて正一が中に入ると、笑顔のブルーベルがパタパタと走って来た。

「入江!」
「やあ、ブルーベル」
「ポチよ」
「…………」

いきなり、何なのだろうか…と思ったのだが、よく見ればブルーベルの足元には、こげ茶色のダックスフントがいて、くるんとしたつぶらな瞳で正一を見上げている。

「どうしてポチ……」
「びゃくらんが、いってたわ。にほんのいぬの、でんとうてきななまえよ」
「…………」

伝統的、というより、かなり古風な感じじゃないだろうか……
と正一は思ったが、ブルーベルが気に入っているらしいので、それについてはノーコメントにした。

「よろしくね、ポチ」
屈んで撫でてやると、ポチは人懐っこくわふわふと飛び付いてくる。

……だけでは済まずに、顔までぺろぺろと、
「眼鏡やられた…」

正一は、とりあえず眼鏡を洗わせてもらうと、ブルーベルに手を引っ張って連れて行かれた。
今度は、グレイッシュな白の、やや長毛種のゴージャスな感じの猫だ。

「タマよ」
「…………」

正一は、黙った。
サザエさんの家の猫が、タマだったような気がする…

「でんとうてきよ」
「そうだね……」

正一は、遠い目になった。あのゴージャスな猫が、タマなのか…

「このこって、びゃくらんににてない?」
「そうだね…」
「だからね、デイジーが、まんま、びゃくらんっていうなまえをつけようとしたのよ」
「…………」

よく見ると、部屋の向こうで白蘭まで遠い目をしている。
「いくらなんでも、おなじいえにびゃくらんがふたりだと、まぎらわしいわって、ブルーベルはちがうおなまえがいいでしょっていったの」
「…それが、タマなのかい?」
「ちがうわ」

ブルーベルは言った。
「“しっぽ”よ」
「…………」
「だって、ふっさふさでしょ?」

確かに、ふっさふさだ。
堂々とした猫で、ブルーベルが撫でてやっても煩がらずにソファに寝そべっている。
だが、この猫は「タマ」なのだ。しっぽではない。

「じゃあね、しっぽだけじゃなくて、ぜんたいてきにけがながいでしょ。だから、ブルーベルもういちど、ちがうなまえをかんがえたのよ」
「……それが、タマ?」
「ちがうわ」

ブルーベルは言った。
「“モップ”よ」
「…………」
「でもね、デイジーが、おそうじにつかうのはかわいそうっていったから、ふたりででんとうてきに“タマ”でごういしたのよ」
「そう…合意したんだね……伝統的に……」

何で和風…。イタリアで、伝統的な犬や猫の名前って、なんなのだろうか……

「あれ?どこにいるのかなあ、カスタード」
「…カスタード?」

屋敷の奥に入っていくと、デイジーの足元にクリーム色の子犬がじゃれついていた。
「クリーム色だからクリーム、…だとげいがないとおもったのよ。だから、ぐたいてきにカスタードよ。デイジーにしてはいいセンスだわ」
「そう…具体的に、カスタードクリームなんだね……」

すると、デイジーの背後から、するりと音もなく小さな影がこちらにやって来た。
……赤茶色の、しまねこ。ちなみにグリーンアイズ。

正一は、いやな予感がした。
が、訊いてみた。

「ブルーベル…この子の名前は?」
「入江っぽいから、はじめは“しょうちゃん”にしようとおもったわ」

…やっぱりぃぃぃ!!!

「でもね、びゃくらんが、めずらしくあせをかきながら、“それはやめておいてあげようよ〜アハハハ”…っていうから、やめたのよ。ブルーベルは、とってもざんねんだったけど」
「そ…そう…。残念だったんだね…」

白蘭サンが、常識的に止めてくれたのか。…っていうか、あの白い猫も、“びゃくらん”になる危機だったんだっけ…(遠い目)

「でも、せっかく入江ににたねこなんだもの。入江っぽいなまえにしたわ」
「どんな…?」

ブルーベルは、赤茶の猫を抱き上げた。
子どもにしては、案外上手な抱き上げ方で、くるんと丸く抱っこされた赤茶色の猫は、ブルーベルの腕の中でおとなしくしている。

「“こうちゃ”よ」
「…………」

…紅茶。

「入江ににてるけど、このこはおんなのこだよーってびゃくらんがおしえてくれたから、ちょっとエレガントにしてみたわ」
「そう…エレガント……」

正一は、ふと気付いた。引き取ってきたときには、乱れた毛並みだったが、今は滑らかに整っている。

「あのね、からまってるみたいだったから、びゃくらんとふたりでほどいてあげたの。それからブラシをかけたら、きれいなしましまになったのよ」
「……そう」

ブルーベルの腕の中で、猫…「こうちゃ」がもぞもぞと動いた。しっぽも揺れているので、ちょっと放って置いて欲しいサインだ。
ブルーベルは、自然にこうちゃをそっと床におろしてやって、それを見ていた正一は、構いすぎずに可愛がってあげているのだと、くすりと笑った。

「にゅ…入江」
「何だい?」

ブルーベルは、正一をじーっと見た。
「やっぱり、入江は、こうちゃににてるわ」

正一は、遠い目になった。

「せめて逆って言うか…僕が猫に似てるんじゃなくて、猫が僕に似ている方にしてくれないかな……」
「にゅっ!ただのねこじゃないわ。こうちゃよ!」
「そうだね……」


新しい家族の名前は、ポチ、タマ、カスタード、こうちゃ、に決定。





〜Fin.〜

 

[ 80/101 ]

[*prev] [next#]
[図書室64]
[しおりを挟む]


×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -