01

入江は、狡いわ。
ブルーベルは、入江にはいつまで経っても追い着けなくって、入江はブルーベルを置いて行っちゃうんだもの。

ブルーベルには毎年お誕生日が来るけれど、入江にもお誕生日が来るから、やっぱり追い着けないまま。
やっとブルーベルは15歳になれたけど、入江はもうおとなの男のひとになってしまって、ちっとも差は縮まらないの。

再会した時、入江は14歳の終わり頃って言っていたから、今のブルーベルと大体同じくらいね。
その頃の入江は、同じ年頃の男の子の中では小柄だったみたいで、生意気なブルーベルはチビって言ったの。

でも、その頃本当にちっちゃかったのはブルーベルの方だって、自分で分かってたわ。
入江の方がずっと背が高くて、歩く速さもブルーベルに合わせてくれていて、優しい緑の瞳はブルーベルの隣でブルーベルを見下ろして笑ってくれたこと。

繋いでくれる手も、ブルーベルよりもずっと大きくて、あったかかったこと。
ブルーベルは、そんな入江の手が大好きで、本当はどきどきしていたの。

でも、入江は時々身をかがめてブルーベルと目の高さを合わせてお話してくれることがあって、それは入江の優しさなんだって知っていたけど、ブルーベルはあまり嬉しくなかったわ。

そうされるくらい、ブルーベルはちっちゃい子どもで、本当は入江の恋人はちっちゃいブルーベルじゃダメで、子どもなのは悪いことなんだって悲しくなったから。

「入江は、狡いわ」
「どうしてだい?」
「ブルーベル、せっかく15歳になったのに、入江はブルーベルを置いて行ってしまうもの」
「そうかな。僕は、いつでも君の隣にいたし、これからもそうだよ」

入江は、優しく笑う。
「君が小さかった頃には中学生や高校生の僕が君を好きで、今の君のことは今の僕が好きで、将来の君のことは将来の僕が好きで…その時の君の隣にいるその時の僕がずっと君を好きだから、置いて行くことはしないよ」
「…………」

そういうとこ、やっぱり入江はおとなで、ブルーベルは追い着けなくって、

「にゅにゅーっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「あはは、そうかい?でも今日はあやまりたくないよ」

入江は狡くて、
…でも、狡くて、いいの。

だって、ブルーベルは入江を追いかけて、入江に追い着けないまま、でも追い着けない入江のことがすき…って心のどこかで思っていたんだもの。
背が高い入江がブルーベルを見下ろして笑ってくれるのも、あったかい手が大きいのも、全部。

「でも、今日のブルーベルは、背伸びをしたいのよ」
「どうして?」
「どうしてもよ」

いつも繋いでいる手。そっと離すと不思議そうな緑の瞳。
ブルーベルは、入江の首筋に腕を絡めて、つま先立ちでえいっと背伸びして、入江の唇にちゅ…ってキスをした。

「…………」
「にゅっ!なぁによぅっ!そんなに驚いた顔しなくたっていいのにっ!!」

入江は、くすりと笑った。
「嬉しかったんだよ」

ブルーベルは、一大決心!だったのに。さらりと嬉しいって伝えてくれた入江は、やっぱり大人なの。
だって、意地を張ったり恥ずかしがって言い出せないよりも、素直に自分の気持ちを伝えられる方がずっと大人なのよ。

「ブルーベル」
「な、なに?」
「君を、愛しているよ」
「〜〜〜〜〜っ」

入江、狡いわ!
ブルーベルは、まだ「すき」は言えても「あいしてる」は言えないのに。だって、それはおとなの言葉のような気がして…

でも、ブルーベル、15歳の自分に出来ること、せいいっぱいしてみたいの。

「入江」
「何だい?」
「……すき」

入江は、にこりと笑ってくれた。

「僕も、君が好きだよ、ブルーベル」

あたたかい手がブルーベルのお顔を上向かせて、そっとキスをくれた。

「狡いわっ!」
「えっと…何が?」
「入江は、背伸びしなくてもいいもの!」
「そうかな。僕なりに心の背伸びをしていたよ。君がまだ小さかった頃に、“中学生も高校生もおとななのっ!”…って言うものだから」

そう言えば、ブルーベルは入江と会ったときからずっと、入江のことをおとなだって、信じていたのよ。

「入江、つらかった?」
「ううん。君が信じていてくれるから、僕は本当に大人になろうと思えたんだと思う。その間、君はずっと僕を信じて僕の隣にいてくれたから…僕はずっと、幸せだったよ」

幸せって、さりげなく、本当だよっていう口調で言ってくれるから、ブルーベルばっかりほっぺたが熱くなってしまうの。

本当は、知っていたわ。入江は、ブルーベルを置いて行ったりなんかしなかったんだって。
ブルーベルが入江を追いかけなくたって、入江はずっとブルーベルと手を繋いで、一緒に歩いていてくれたんだもの。

「…入江は、ブルーベルが背伸びするの、いらない?」
「そんなことないよ」

入江の緑の瞳は、優しくブルーベルを見つめてくれる。
「そのままの君も、僕の為にちょっと背伸びをしてくれる君も、どっちも僕は愛しているよ」
「…………」

入江の癖にころしもんくーーー!!!…とは、ブルーベルは叫ばなかった。

「狡い入江も、だいすきよ」
「え…?何の事だい?」
「ブルーベルばっかり、ほっぺた赤くなるもの。ブルーベルばっかり、胸がどきどきするもの」

……そんなブルーベルは、入江の隣で、幸せなんだもの。

「ど、どうして嬉しそうに笑うのっ!」
「嬉しくて、幸せだからだよ」

抱き締めてくれる入江の腕の中で、思ったの。

入江が、嬉しくって幸せって思ってくれるのなら、また背伸びしてあげてもいいわ。

勇気を出して、つま先立ちで少しだけ差を縮めて。

だいすきよって、キスをするの。







〜Fin.〜

 

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