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美容師が結いやすい髪の長さは、胸にかかる程度までだという。

「ブルーベル…おもいっきりながいわ」
「いいではありませんか。美しいものは美しいままであるべきです。長い髪をアレンジ出来ないという美容師は、出来ない程度の技量だと言うことです」

だが、日本の美容室では、お客の被害が相次いでいるのだとか。
つるんと真っ直ぐな美しい長い黒髪は結いにくいからと、バッサリ短く鋏を入れたがり、シャギー、レイヤーを入れたがり、揃えていた毛先もギザギザにされ、パーマを勧められる。
当然のように、逆毛を立てるヘアアレンジをする。実はキューティクルはボロボロ。そんな事も知らないお客さんは泣き寝入り。

「なによそれ!ブルーベルはくろかみじゃないしウエーブヘアだけど、かってにきったりボロボロにするなんて、ありえないっ!ゆるせないわっ!かみはおんなのいのちなのよ!!」
「困ったことに、それが美容師の意地悪という訳ではない、ということですよ。昔の日本人女性は、黒く長い髪を腰まで伸ばしていることも珍しくありませんでした。それでも、きちんと美しく結う技術があったのです。今はそれを教えられないままプロになる、というということが問題なのでしょうね」
「それで、桔梗はブルーベルのちょう!ロングヘアをきれいにアレンジできるの!?」
「ハハン、私を誰だと思ってるのですか。私も超ロングヘアです。毎日自分で結っているのですから、出来ないわけがありません」

桔梗は、鏡の向こうで美麗も自信も満々な感じに笑った。
「ブルーベルの美しい髪の毛を損なっては、私は入江正一を敵に回してしまいます」
「どーしてここで入江をだすのよーーー!!!」
「どうしても何も、今日の貴女の装いは、入江正一に見て貰いたい為でしょう」

う、とブルーベルは詰まった。
正一が、花火大会に誘ってくれたので、ブルーベルはちょっと驚かせてみたくて、わざわざ白蘭に頼んで浴衣を買ってもらったのだ。

「尤も、貴女の装いは、いつのデートでも入江正一の為だと思いますが」
「にゅにゅーーーっ!!入江は、ブルーベルがなにきてたって、にあってるね、かわいいよっておんなじこというんだから、べつに入江のためじゃないわよっ!」
「では、言い替えましょう。それでも入江正一に可愛らしいと思って欲しい、貴女の乙女心の為です」

ブルーベルは、口から魂が抜けそうになった。
「ブルーベル。私は腕に自信はありますが、頭をカックンされると少々やりづらいです」

…そして、完成したアップスタイル。
うん。ブルーベル、さすがびしょうじょ。アップスタイルもかわいいわ…!

「いつもと違った可愛らしさがありますね。入江正一もきっと新鮮だと思ってくれることでしょう」
「にゅーっ!いちいち入江いわないぃぃぃ!!!」

髪もそうだが、浴衣も自分では無理。
私は何でも出来ますハハンな桔梗に着付けて貰って完成。

「おそいわ入江…!」
「アホかよ電波。迎えの時間とやらまであと30分以上あるだろうがよ」
「でんぱじゃなぁいっ!入江がさそったんだから入江がはやくくるべきでしょっ!」
「だったら入江が来たら文句言ってやれや」
「アハハ、ブルーベル、そんなに歩き回ると、鼻緒で指が擦り切れて痛くなっちゃうよ?」

そして、ブルーベルが白蘭に椅子を勧められて足をぷらぷらさせて待つこと10分。
いつも通り、待ち合わせ時間20分前に正一は現れた。ザクロが酒を一杯やりながら、口の中で「コイツらいつも待ち合わせ時間意味ねえよなァ」と呆れ加減に呟く。

「にゅーっ!入江おそ「浴衣着てくれたんだ、可愛いね」

正一は、にこりと笑った。
「青い朝顔の柄、ヘブンリーブルーみたいだから選んでくれたのかな」
「…………」
「いつも長くしてるけど、結った髪も似合うんだね」

ブルーベルは、「おそいわ!」を言い損なって、代わりにほっぺたが赤くなってしまった。

「やりますね、入江正一。ヘブンリーブルーに気付くとは。流石ブルーベルの王子様と言って置きましょう」
「桔梗…言わなくていいから…」

正一は、黙ってしまったブルーベルの手を引いて、白蘭に伝えた。
「今日は、ちょっと帰りが遅くなります」
「ん、花火大会だもんね。ロマンチックに行っておいで♪」
「普通に縁日を回って普通に花火を見てきます」

屋敷を出ると、ブルーベルの下駄がからんころんと鳴る。

「ブルーベル」
「な、なに?」
「白蘭サンが言うようなロマンチックってどんな風なのかな」
「そんなの、おとなの入江がかんがえてよっ!」
「……僕は、君が浴衣を着てくれただけで、いつもと違っていて、新鮮な気持ちがするんだけどな。みんながいる手前“普通に”って言っておいたけど、僕は浴衣の君を連れて、こうして夜に出かけられるだけでも、…ロマンチックなのかな…って思うよ」

傍らの正一が、少し照れくさそうに笑って、ブルーベルは、くらんとした。
桔梗の予想ビンゴ!!

「…じゃあ、いつもはろまんちっくじゃないの?ブルーベル、どーせちっちゃいもん」
「僕としては、そういう訳でもないんだけどな。そもそも、デートするっていう事自体がロマンチックなことなんじゃない?」
「にゅーっ!だったらわざわざブルーベルにきかないでよ、ばかーっ!」
「あはは、ごめんね」

…ほっぺたと、つないだ手が、あつい。

「森に行くの?」
もう夕暮れなのに。
「うん、そんなにかからないから平気だよ」

正一は、時折こうして、森を通ってブルーベルを不思議な場所に連れて行く。どうしてそんな事が出来るのかはわからないけれども、ブルーベルはそれを聞いてはならないような気がしていた。

夕暮れの森は、かなり暗い。独りだったらとても怖いと思う。
でも、ブルーベルは正一の手を握っていれば大丈夫なのだと、履き慣れない下駄で付いていった。

ふと、気付く。
いつも、正一はブルーベルが歩く速さに合わせてゆっくり歩いてくれる。今日は一層そうなのだと。

(そうやって、入江はいつも、だまってなにもいわないまま、やさしいの)

「…?今、何か言ったかい?」
「ひとりごとっ!」
「そう」
「入江、はんのううすっ!」
「えっと…それって、僕は聞いた方がいいの?聞かない方がいいの?」
「きになるかんじだけど、きかないでいてくれるのがいいの!」

ブルーベル、ワガママ。
だって、入江にはいつもブルーベルのことかんがえていてほしいんだもの。

「気になるよ」
正一はくすりと笑った。
「でも、僕と一緒にいるときの独り言で、僕に言いたがらないのなら、きっとブルーベルは僕のことを考えていてくれたんだろう?だから、それだけでいいよ」
「…………」

ブルーベルは、真っ赤になって叫んだ。
「にゅにゅーーーっ!おとなのよゆう、ムカツクーーー!!」
「余裕…っていうより、嬉しかったんだよ。僕も君の事をずっと考えていたから、許してくれないかな」

ほっぺが、熱くて。
……だいすきだから。ゆるしてあげる。


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