01

高校1年生の頃、ふと思ったことがある。
光の色…と。

白人でも憧れるという金髪であっても、理系らしくもなく詩的な感想を抱いてしまったと、変に火照る頬がイヤだと思った。

正一は、今でも良くわからない。
あの時、魔が差したのだろうか。ただ、あまりにも憧れて、ぼぅっとしていたのだろうか。

正一の手は、無意識に彼女の金の髪に触れようとして…
直前で気が付いて、正一は慌てて自分の手を引っ込めた。

「正一、熱あるのか?」
「な、ないよ。ちょっと緊張してるだけだから」

でも、金髪を初めて間近で見た正一は、彼女の髪を、とても綺麗だと思った。
さらりとして、そしてくるんと癖のあるショートカット。同じ色の睫毛も、青い瞳も、抜けるように白い肌も…全部。

女の子に対して、綺麗だなんて、まともに見蕩れてしまったら、もうその後は彼女を…スパナをいちいち意識せざるを得なかった。
そして、どういう訳かスパナは正一を気に入ったらしくて、姿を見かければ人懐こく正一に向かって駆け寄ってくるのが、何だか可愛いと正一は思った。

何だか…なんていう言い方をするのは、意外性があったからだ。
白人は、何であんなにおとなっぽいんだろうか?つまり、正一から見ると、彼女は少女というよりも「女性」と言った方がしっくりくるような容姿だった。

尤も、逆も然りで、東洋人は白人から見れば随分若かったり幼かったりして見えるらしいのだが。

その、大人の女性が、無邪気に懐いているらしいのが、正一には意外で、なかなか慣れなくて、そして頬が火照るばかりだった。

実際、慣れる暇は無かった。
正一とスパナは、年にいちど、高校生国際ロボット大会で数日間顔を合わせる、それだけの出会いだったから。

1年経つほどに、スパナは一層大人びて綺麗な女性に成長していた。
一方、成長期が遅く来た正一は、高校1年生の時にはチビだったのだが、2年生、3年生と学年を上る度に、かなり背は伸びたと思う。

「正一、カッコ良くなった」
「そうかな…背が伸びただけだよ」

つまり、1年前の僕は、カッコ悪かったのか。
…そうだと思う。高校1年生の時、僕の手は彼女の金髪に触れるのには、不自然な身長だったのだから。

「正一、大好きだ」

スパナの笑顔は、いつも無邪気で、愛情表現もストレートだった。

「…ありがとう。僕も君が好きだよ」

きっと、君の「好き」と僕の「好き」は違う。
そう思いながらも、正一はそれでいいと思っていた。

年にいちどしか会えない相手に恋だなんて、そんな想いは淡くも軽率だという負い目があったからだ。

出会いは3回。それで終わる。
3年の間、ちょくちょくメール交換はしていたけれども、それも最後のロボット大会を機に途絶えるのだろう。

そして自分の不確かな恋も自然消滅して、大学に入って人間関係が広がれば、いつか身近な女の子の人柄に触れて好きになるのだろうとも思った。

『正一。ウチ、正一と同じ大学に合格した』
「え?」

正一は驚いた。
自分で言うのも何だが、正一が進学するのは何だが、かなりの難関大学だ。

「留学生枠かい?」
『違う。日本の大学で勉強や研究するのに、日本語で話せて読み書き出来ないの、ウチ的にはダメだと思ったから』

正一はよく制度を知らないが、留学生枠の方が言語の差を考慮して試験のレベルは低く設定されているらしいし、家賃の安い留学生寮に入れるのだし、授業料も多分安くなると思うのだが、スパナはその権利を放棄したらしい。
それにしても、大したバイタリティだ。スパナなら理数系の科目は問題文が読めればOKだろうが、現代文や古典はかなり難しかっただろうに。

『でもウチ、正一と同じがよかったから。正一なら大学院行くだろ?今度はライバルじゃなくて、コンビ組んで共同研究やりたい』

成程…ライバルとして認めてもらえたから、今度はコンビを組めば最強ということなのか。

「留学生寮に入れないのなら、独り暮らしは大変だね。住む場所はもう決まっているのかい?」
『ウン、大丈夫だ』

電話を切って、正一は小さく溜め息をついた。
「すねかじりの僕とは、全然違うんだな…」

スパナは、幼い頃から祖父と一緒にジャンク屋をしてお金を稼いでいて、祖父亡き後もその仕事を引き継いで学業と両立していたはずだ。
そして、今度は海を越えて、スパナ曰く憧れの国・日本にやって来る。

……やって来た。

「久し振り、正一。ウチ、身ひとつで来たからヨロシクだ」
「…………」

正一は、引っ越してきたばかりのアパートのドアを開けてフリーズした。

「あ、身ひとつって言っても、最低限の荷物は持ってるよ。着替えくらいちょっとはないと困るし」

スパナは人懐こく笑った。
「ウチ、正一の為に毎日味噌汁作るから」

……それなんて昭和……


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