01

 
デートだなんて言うけれど、その瞬間、君は僕のことを忘れてしまう。

森の中で手を繋いで歩いて、僕は君を屋敷近くまで送って行く。

「びゃくら〜ん!」

そうとも気付かないまま、君の小さな手は僕の手をすり抜けてしまう。
そして、君は嬉しそうに駆け出して、小さな背中は遠くなる。

思い切り飛び込む君を、白蘭サンは受け止めて抱き上げる。
あの未来とは違う白蘭サンは、ブルーベルをとても可愛がっていて、お帰りって君の髪を撫でてあげる。

いちど、その瞬間を見てしまってから、僕はそうなる前に君に背を向けるようになった。
君が僕を思い出す前に、僕は忘れられたままいなくなりたかった。

(あれ?入江は?)

(どこ?)

(どこいっちゃったの、入江…!)

僕は、どんなに遠くにいても、君が僕を呼ぶ声はきこえているんだ。でも、僕は引き返したことはない。

愛される、君。
僕は、“唯一の特別”をくれた君の気持ちを疑った事はないけれども、時の流れは誰も止めることは出来なくて、君はいつか、僕の手を離して駆け出したまま、僕を思い出すことさえしなくなる、そんな日が来るのかもしれないと、思ったことが無いと言えば嘘になる。

「びゃくらん!」

また、君の手が僕を忘れて走り出す。僕の役目はここまでで、僕は森の奥に消えてゆくつもりだった。

「正チャン。たまには寄っていけばいいのに」

僕に白蘭サンが声をかけたものだから、僕は無視する事も出来ずに、そして君は今更気付いて僕の元へ戻って来た。
「そうよっ!どーしていつも、かってにいつもいなくなっちゃうのよ、入江のばかーーー!!!」

勢いよく走って来た君は、白蘭サンにそうするように、…いや、絶対つかまえてやる、という勢いで、僕に向かってダイブしてきた。

……当然というか、非力な僕はブルーベルを受け止め損ねて、どーんと後ろにひっくり返った。

「にゅーっ!なんでたおれるのよっ!!ここはかれいに、ブルーベルをだっこでしょーーー!!」
「華麗っていう言葉は、僕には似合わないんだけど……」

華麗とか美麗とか、そういうのは白蘭サンか桔梗に期待すべきだと思う。
「ブルーベル、そんなにおもくないわっ!入江のもやしっ!!」

僕がひっくり返ったものだから、僕に馬乗りになって怒る君。
「だから…僕はもやしだって、いつも言ってるんだけど」
「ブルーベルは、おひめさまなのよっ!もやしでも、入江はブルーベルをかれいにだっこできなきゃだめなのっ!」
「……じゃあ、僕じゃダメだっていうことだよ」

僕は、起き上がってブルーベルを地面に下ろしてあげると、そのまま森に溶け込んで姿を消した。
うわああんっていう君の泣き声と、宥める白蘭サンの声が聞こえる。

(ブルーベルは、今の正チャンじゃダメなの?)
(ちがう…ちがうよ。ブルーベルは、入江のおひめさまでいたかっただけだもん)

(もやしでも、ブルーベルのおうじさまは、入江だもん…!)

ブルーベル…それ、僕としては、微妙だよ…
小さな女の子ひとり抱き止められなかった僕は、どう考えてもカッコ悪くて、…やっぱり君は、いつか本当の王子様を見つけるのかな。



 -------------


ここは、広い野原。ブルーベルと入江のお気に入り。
だれも、いない。入江は、時々そういう不思議なところにブルーベルを連れて行ってくれるの。

風が気持ち良くて、長い髪をなびかせて走って、ふと気付いて振り返る。
入江は、ゆっくり歩きながら、ブルーベルを追いかけてきてくれるところだった。

「入江!」

振り返ったブルーベルは、今度は入江に向かって走り出した。
そして、思い切りダイブして入江の胸に飛び込んだ。

「…懐かしいな」
「何のこと?」

見上げたら、眼鏡越しの緑の瞳が、優しく笑ってた。

「10年前にね、僕は君の王子様失格になるところだったんだよ」

ブルーベルは、お目々ぱちぱちした。
「にゅ?ブルーベル覚えてないわ」
「そう。だったらいいよ」
「よくなぁいっ!気になるじゃないのー!」
「僕がもやしだからだよ」
「何言ってるの。入江は今でももやしでしょ。それでもブルーベルの王子様は入江なのよ」

入江は苦笑した。
「僕なりにね、10年前よりも背が伸びたし力もついたんだよ。…こうして、君を抱き止められるくらいにはね」

ブルーベル、どきんとした。
「入江…どう、したの」

ブルーベルのこと、ぎゅっとして。
「抱き締めたくなっただけだよ」
「にゅーっ!だけ、じゃなぁいっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」

ブルーベルは叫んだけど、叫んだだけよ。
抵抗してないわ。…だって、ドキドキするのも、入江があったかいのも…すきだもの。

「君はもう、僕のことを忘れないんだね」
「当たり前でしょ」

今きっと、ブルーベルのほっぺたは、真っ赤よ。
「王子様を忘れるお姫様なんて、いないのよ」
「うん」
「入江、反応薄っ!…にゅ?」

入江の唇が、ブルーベルのおでこに、ちゅ…ってキスをした。
「このくらいの身長差だね」
「ず…ずるいわっ!おとなの不意打ちっ!」
「あはは、ずるいかな。でも、謝らないよ」

謝らなくて、いいわ。
だって、お姫様にキスしていいのは、王子様だけなんだもの。






〜Fin.〜

 

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