01

「誘拐ですかーっ!」
「スカウトだよ?天才科学者で僕の親友で、なのに僕を裏切ってくれちゃった正チャン♪」
「やっぱり根に持ってるんじゃないですかーーー!!!」

突然、下校途中で拉致された僕。
「白蘭サンだって、僕を面白可笑しく笑いの種にして、僕を殺そうとした挙げ句に、チョイスの約束を覚えてるくせに反故にしたじゃないですか!!これっぽっちの誠意もなく!!」

袂を分かってもなお、僕を親友と呼んでいてくれた貴方を信じたままでいたかった、結局は甘ちゃんでお人好しの僕。
そんな僕を見て、貴方は笑っていたんだ。

「お互い様じゃない?全部水に流しちゃおうよ♪」
「そう思うのなら、僕と白蘭サンに、歩み寄る余地は皆無ですよ。誘拐犯になる前に、とっとと僕を解放して下さい」

お互い様だなんて、言われたくない。
心が千切れるような想いで、何年も貴方の傍にいて、本当はスパイなんかしたくないって僕は苦しみ続けたのに。
そんな僕を道化として扱って、貴方はこれっぽっちも悩みも苦しみもしなかったじゃないか。

でも、今も未来も僕の気持ちなんかお構いなしの貴方は、ジッリョネロの面々が集う屋敷に僕を連れ込んでしまった。
未来でもそうだっだったけど、最終的には共同戦線だったとはいえ、ユニさん以外は僕に対してジッリョネロは非好意的だ。何しろ僕は「ミルフィオーレの隊長さん」だから。

もうイヤだ。おなか痛い。逃げ出したい。

「正一、おなか痛い?」
「…スパナ」

ジッリョネロでは、唯一僕に対して好意的な人物。高校時代からの知り合いだから。
「これでも食べてろ」

むぐ、と口の中に無造作に突っ込まれたのは、懐かしいイチゴ味。
ロボット大会の時には、既にスパナはこの飴を持ち歩いてたけど、この頃からそうだったのか。

そして、白蘭サンが同盟を組んだらしくて、現れたのはツナ君たち。
僕は、やっと安心した。ツナ君が来てくれるんだったら、とりあえず強引なスカウトではあっても、人攫いではなかったらしい。

「やだなー正チャン。親友の僕がそんなことをすると?」
「しまくると思ってます!!白蘭サンの親友には、もれなく白蘭サンの冷酷さも卑劣さもついてくるんですから!!」

そんな僕を見て、白蘭サンは笑った。
未来での、綺麗だけれども何を考えているのかわからない、謎めいた笑顔じゃなかった。どうしてか嬉しそうで、どういう訳かあっけらかんと何かが振り切れたようで。

でも、その笑顔の意味が、僕には分からなかった。僕には、何年も傍にいた、あの苦しい記憶が全てだったから。
……僕が貴方に大切に愛される事は、決してなかったんだから。

虹の代理戦争で、僕はバトラーじゃなかったから安全な場所に隠れていればよかったんだけど、戦闘能力皆無のくせに僕は夜空の下に飛び出していた。

「白蘭サン!!」

よくよく僕は、お人好しだ。
あのひとを今でも信じることなど出来ないくせに、役に立たない心配だけはしているのは、未来と同じ。

僕だけが、あのひとを、あいしてる…

γを庇う形で、白蘭サンは瀕死の重症を負った。僕はやっぱり理解出来ずに、困惑した。
貴方は、どんなに人間の命を踏みにじっても、大量殺人を犯しても、笑っているばかりの人間だったじゃないか。

分からないまま、僕はデイジーとふたりがかりで、懸命に晴の炎を使って白蘭サンの命を繋いだ。
……どうして、僕はこのひとに対して、いつも一所懸命になってばかりなんだろう?

「正一、お疲れ」
「うん、疲れたよ」

大丈夫だよ、とでも無難に言っておけばいいのに、僕は投げやりな言葉をスパナに返していた。

「だろうな。この時代の正一は、平和の国、日本の中学生だ。マフィアなんて、記憶には残ってても、現実感なかっただろ?ジッリョネロの奴らも、一応同盟で敵じゃないけど、実際顔を合わせてみれば怖かっただろうし、バトルに巻き込まれるだなんて尚更だ」
「…………」

僕は、本当ならもう少し先、高校生になってからロボット大会で出会うはずの友人を見上げた。

「そういう…常識的なこと、初めて言われたよ」
「そうだろうな。ボンゴレだって、自分はフツーだって思ってるだろうけど、違うよ。いくら]世を継ぎたくないって逃げてても、あの年齢では珍しいくらいに実戦を積んでる。ボンゴレは、もう立派にマフィアだよ。…けど、正一はそうじゃない」

僕よりひとまわり大きな手が…僕とは違って、実際にメカを手にしてきた胼胝のある手が、僕の癖っ毛をぽふんと撫でた。

「正一。もう十分だ。白蘭が病院にいる間に帰れ。ウチ、正一には日本でカタギの中学生生活を楽しんで欲しいよ」

マフィアなのに不思議に優しい青い瞳を、僕は見つめ返した。
スパナの言う通りだ。僕が巻き込まれる義理はない。僕は、あの記憶とは関係無く、日常に還っていっていいんだし、……そうすべきなんだ。
僕が、マフィアの抗争に巻き込まれている事自体が、不自然を通り越して、間違いなんだ。

「うん…ありがとう、スパナ」
僕は、やっと、力無いにしろ、小さな笑顔で応えることが出来た。

「でもね、僕は僕だから…仕方がないんだ」
「すまない。それウチ意味が分からない」
「僕はね、いつだって白蘭サンを追いかけてばかりなんだ。僕だけが、ばかみたいに、あのひとに一所懸命になってる。…でも、そうすることしかなくて、僕はあのひとを追いかけるんだ」

非情に徹することが出来なかった甘い僕が、それでも白蘭サンのスパイを続けられたのは、「白蘭サンの傍にいたい」っていう心を捨てられなかったからだ。
ひょっとしたら、スパイは言い訳で、僕は偽りの親友の肩書きでもいいから、どんどん闇の世界へと行ってしまうあのひとを、追いかけていきたかった…それだけなのかもしれない。

「未来の記憶なんて、受け取らなければよかった…って思うよ。僕は白蘭サンを失って、そして何も知らないまま、もう二度と会うことはなければよかったのに、…って。でも、記憶が残っているなら、僕の中ではなかったことには出来ないんだ。」
「そっか」

スパナは、口の中でイチゴ飴をカラコロ転がした。

「白蘭の奴、幸せだな」
「え…?」

そんなこと、思ったこともなかった。
僕が寄せる心が、あのひとを幸せに出来るだなんて。
僕は、困惑したけれども、スパナの優しさに、笑顔を返した。
「……そう思ってくれてたらいいのにね」


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