01

 
正一のことは、いい奴だなって思ってた。
国際ロボット大会なんだから、いくらウチが憧れてる日本代表でも、イタリア代表のウチとは敵同士なんだけど。

でも、敵って言うより、いいライバルだ。
お互いに、全然思い付かないようなアイデアを持っていて、ユニークでgr8だって思い合えるような。

明日、イタリア対日本で決勝、っていうときでも、ウチは正一とロボット談義してた。

「正一、お腹大丈夫か?」
「え…」
「何か、元気ないなって思ったから」

正一は、実力はあるし結果も出すすごい奴なんだけど、どうしてか緊張感がハンパない繊細さもあって、いつも胃腸薬常備らしい。
明日は決勝なんだし、やっぱり今も緊張してるのかなあって。

「まあ、対戦相手のウチが言うのも何だけど、Cheer up./元気出して」
「ありがとう」

ふわって、正一が笑った。
ウチ、こういう正一の笑顔って何回か見たけど、優しい笑い方するんだなって思った。自分がしんどいときでも、心配しないでって言うように笑ってくれる正一は、小さな花みたいで。

……とか、ウチは言ったことはない。
何かそれ、女の子に対する褒め方としてはグッドだけど、言われた正一は微妙で、キレるか凹むか読めないなって思ったから。

「決勝も…だけど」
「他にも有るのか?ウチでもよければ、話聞くけど」
「……僕たち、これで最後かも知れないね」

ウチは意外に思った。
「ウチ、絶対来年もイタリア代表になるし、正一もそうだと思ってた」
「あはは、絶対って、スパナらしいね」

正一は、笑ったけどちょっと困った顔だった。

「国際大会だから…。レベルは高いし、毎年出場出来るとは限らないよ。……僕の学校は初出場なのに、日本国内で2連覇は難しいと思うんだ」
「まあ、日本は技術大国だからな。でも、正一が始めから諦めるなんて、正一らしくないよ」

だって正一、緊張するけど結構負けず嫌いだから。
日本チームの中でもずば抜けて優秀っていう印象だし、2連覇をポジティブに考えてないような言い方は、意外な感じで。

「来年、他のメンバーが頑張ってくれるといいなって思ってる。僕は、多分今年を最後に抜けるから」

ウチ、びっくりした。
「何で?正一、今高校2年だろ。3年生のあと1回、あるんじゃないのか?」
「3年生になると、大学受験優先で引退する人は多いよ。…それに、2年生にチャンスを譲るのも悪くないなって思うから」

ウチは、正一が大学受験のために引退するっていうのは無いと思った。正一の頭脳なら、多分どこの大学でもOKなんじゃないか?

「ウチ、来年も正一と勝負したいよ」
「……スパナ」

日本人は、あんまり相手の目を見て話さない。微妙に、目よりも下を見るのが落ち着くらしくて。
でも、この時の正一は、真っ直ぐにウチを見た。

「僕…、スパナが、好きだよ」

ウチ、黙った。
正一は、日本語で言った。

日本語の「すき」はかなり幅が広いけど、正一の表情を見れば、そっち方面には鈍いウチでもすぐに分かった。
正一は、ウチに恋してる…って伝えたんだ、って。

自分で言うのも何だけど、ウチ割とモテる。
でも、ウチはメカ弄りが一番だったし、仲がいいのはそういう仲間だけで足りてたから、
「ウチあんたに興味持てない」
……とか、結構身も蓋もない感じに振ってた。

今更思う。あの子たち、泣いたのかな……

でも、ウチは正一は泣かせたくなかった。
ウチの、正一に対する気持ちって、どんな…?
正直、一緒にいるとすごく楽しくて、それ意外のことを深く考えたことがなかったから、ウチなりに考えて言葉を選んだ。

「ウチ、正一のことは、大事に思ってるよ」

好きだよって、返せなかった。
沈黙が落ちて。正一は泣きそうな顔になって、俯いた。

「…ごめん」

ウチ、一瞬何を言われたのか、分からなかった。
だって、ごめんはウチだ。正一は、きっとお腹痛くしながら、それでもウチに気持ちを伝えてくれたのに、正一を悲しませたんだから。

「男のくせに、気持ち悪いこと言って…ごめん」
「そんなことない」

でも、正直そうだった。気持ち悪いとは思わなかったけど、同性に告白されたのはウチも初めてで、正一がウチにそんな気持ちを持ってるって知って狼狽えたから。

「僕なんかが…好きになって、ごめん」

正一は、ウチより小柄で、俯いていたから正一がどんな顔をしているのかは全然見えなかったけど、ウチは言葉に詰まった。

(好きになって、ごめん)

それは、すごく悲しい言葉に思えて。

誰かを好きになるのは、悪いことじゃないのに、それは綺麗な気持ちなのに、正一はそれを否定して、ごめんってウチに謝ったんだ。

「…ごめんね」

ぽたって、床に雫がひとつ弾けて、正一はウチに背を向けると走り出した。
「正一!」

泣かせたくないって、思ったのに。
そんなの無理だったんだって、ウチは初めて自分のことバカだって悔いた。
拒まれて、悲しくない人間なんて、いないのに。

(僕たち、これで最後かも知れないね)

ウチ、やっと正一の言葉の意味に気付いた。
正一は、ウチに振られるって思いながら、それでも告白して……傷付いて、ウチにはもう、会いたくないんだ……

ウチは、振った方なのに、とぼとぼ宿舎に戻った。
来年ウチがイタリア代表になっても、この大会に、正一はいない。…来ない。

落ち込んだからってわけじゃないけど、次の日の決勝は、日本に負けた。
正一は、ハートブレイクしたって、優秀で勇敢で、チームメイトの信頼を集めるリーダーだった。

「Congratulations.」

試合の最後に手を差し出したウチに、正一はウチにしか聞こえない、小さな声で呟いた。

「Have a good life.」

握手の後、ウチよりひとまわり小さな、柔らかい手がそっと離れて、ウチは立ち尽くした。
よい人生を…なんて。これからもう会わない分伝えておく、もう二度と会わないっていう意味だ。

「…正一!」

まだ、間に合う?
ううん、間に合わせてやる。ウチは、永遠の別れになんかしたくないんだ。

「正一!」

ウチは、正一の手首を捕まえた。
細っこくって、ウチは何だか乱暴したみたいな気分になって、一層正一を傷付けたんじゃないかって怯んだ。でも…!

「ウチは、We will definitely meet again.(絶対また会おう)って言いたい」

正一の、眼鏡の向こうの綺麗な緑の目が、潤んだ。
ウチまた正一を泣かせる。それでも。

「I don't want to lose you, Shoichi. I'll miss you」(ウチ、正一を失いたくないんだ。寂しいんだ)

また、小さい花みたいな、優しい笑顔を見たいんだ。
ウチ、思い切り正一を抱き締めてた。そうしないと、正一を永遠に見失ってしまう気がして。
もう、ウチの手は届かなくなる、声も届かなくなる、そう思って。
「Don't leave me.」(行かないで)

ウチを置いて、行ってしまわないで。

「...because I love you.」(愛しているから)

口に出してみて、…そうだったんだって、思った。
来年も必ず会いたいって思うのは…正一の笑顔が好きだったのは…

「I'm dying from loneliness. because I love you.」

ウチの腕の中で、正一がもぞもぞした。

「さ、寂しくて死ぬ!って何だよっ!!」
「だってウチ、本気でそう思ったから」
「スパナって…、実は寂しがり?」
「そうでもないと思う。正一限定で、すごく凹んで、カッコ悪く泣きたくなった」
「もう、僕は既にかなりカッコ悪いんだけど!?」

正一は、鼻の頭赤くして、ぐすぐす言ってる。
「ウチ、正一は泣かせたくないけど、泣いてても正一は可愛いから許されると思う」
「か、可愛いって何だよ!めそめそしてても、僕、男!」
「知ってる。でもウチ、笑ってるときの正一って、お花みたいって思ってたんだ。だから、また正一の笑顔が見たいんだ。泣き顔のまま、さよならしたくないよ」

小さな、花みたい。

それ言ったら、正一キレるのかな、凹むのかなって思ってたけど、どっちでもなかった。
正一は、ほっぺた赤くしてて、やっぱり可愛いってウチは思った。

「ウチ、こんなに一所懸命、誰かを追いかけたのって、初めてなんだ。…だから、好きになってごめんなんて、そんな悲しいこと、もう言わないで、正一」

あ…、もっと泣かせた。
ウチ、言葉の選び方、下手なのかな。

「正一、ウチまた、正一のこと傷付けたか?」
正一は、小さく首を振った。

「じゃあ、笑って?My Shoichi」
「…………」

正一は、顔を上げると、真っ赤になって抗議した。
「すぐに笑うなんて、無理だよっ!それに、My Shoichiって何!?何でMyが付くんだよ!」

ウチは、もういちど言った。
「because I love you.」
「〜〜〜〜っ」



泣き止んだら。笑って、正一。




〜Fin.〜

 

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