01

 
「いつまで、こうしてるの…?」

キスをして、抱き寄せられたまま。

「いつまでも、こうしていたいな」
「…………」

ブルーベルは、入江の腕の中でじたばたした。
「にゅーーーっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!」
「ブルーベルの気持ちは、僕とは違うのかな」

穏やかな声でそう返されて、ブルーベルの心臓が、とくんと跳ねた。
……ずっと、抱き締められたままで、いられたなら。

「入江、ずるいわ」
「何が?」
「絶対!ブルーベルの気持ち、知ってるでしょっ」
「そうでもなかったんだけど、今の君の返事で、大体分かったよ」
「ズルイーーー!おとなのよゆう!!ばかーーーっ」
「あはは、ばかでもいいよ」

入江は笑って、…どうして?ブルーベルの体から、そっと腕を解いてしまった。
でも、ブルーベルは、寂しいなんて、言ってあげないんだから。

「どうしたのよぅ」
「君を、見ていたかったから」
「…………」

ブルーベル、口から魂が抜けそうになったわ。
確かに、抱き締めるよりも、少し離れていた方が、お互いのお顔はよく見えるけど!

「ブルーベルの、美少女なお顔が、どーかしたのっ?」
「君が、すきだよ」
「…………」

入江が優しく笑って、ブルーベルはぐらんとした。
「何その、さっきから会話がかみあってない感じーーー!!」
「そうかい?僕は、君が好きだから抱き締めていたくて、君が好きだから見つめていたかったんだけど」
「…………」

もう、入江のくせにころしもんくって叫ぶ力も、残ってないわ…

「入江の、ばか」
「ばかは、嫌いかい?」
「…………」

やっぱり、ブルーベルは叫んだ。
「絶対!ブルーベルの気持ち、知ってるでしょっ」
「そうだね」
「ズルイーーー!おとなのよゆう!!ばかーーーっ」
「あはは、ばかでもいいよ」

何だか、ループしてるわ…

「ブルーベル」
「な、何?」
「君と一緒にいるとね、時間がゆっくり流れていくような気がするんだ」
「…………」

 な ん で す と !?

ブルーベル、しょーっく、よ!!
だってだってだって。

ブルーベルは、入江とのデートの時間は、いつもあっという間に過ぎちゃうって思っていたのに。さっきだって、うっかりうたた寝しちゃって、その分入江と過ごす時間が減ってしまって、損しちゃったって思ったのに。

「何よそれーーーっ!」

ブルーベルは、自慢の長い髪を、きーって掻きむしりたくなった。

「入江!びゃくらんがどっきりクイズを教えてくれたわ。“好きな女の子と一緒にいると、すぐたってしまうものはなーに?”って言われると、男の子はフリーズしちゃうのよ。因みに、答えは“時間だよ、アハハハハ♪”ってゆーのよ!そのくらい、恋人同士のデートは、あっという間に過ぎちゃうものなの!!入江は、どうして真逆のことを言うのよっ」

楽しくて嬉しい時間は、すぐに過ぎるわ。逆もそうで、イヤな時間はとっても長く感じるわ。
きっと、入江なりの理由があるんだと思うけど、もし、入江にとって、ブルーベルと過ごす時間が退屈で、だから長く感じるっていうのなら、ブルーベルは泣くわ。

とりあえずこの場ではキレておいて、帰ってから入江のいないところで泣いてやるんだから。

「安心するから…かな」

入江は、青空を見上げた。
「あんな感じ」

ブルーベルも見上げてみると、ひつじ雲が、ゆったりと流れてゆく。
ゆっくりと。少しずつ。

そのあとにも、ひつじ雲はあって、きっと何度でも、それは繰り返される。

入江は、そのことを言っているのかなって、ブルーベルは思った。
でも、やっぱり悲しくなった。

ブルーベルだって、入江の傍にいるのは、安心するのよ。
でも、同じくらい、入江の傍にいると、どきどきして、もっと一緒にいたくて、それなのにすぐさよならの時間が来てしまうんだもの。

「どうしたんだい?」
「どうもしないわよ!」

どきどきしてるの、ブルーベルだけ?
お別れの時間が来なければいいのにって、いつも思っているのは、ブルーベルだけなの?

「もういい!ブルーベル、帰る!」

どのくらいの時間、眠っていたのかはわからない。
でも、空はまだ明るいから、夕方の「またね」までは時間があるはず。

自分が寂しくなるくせに、帰るだなんて、ブルーベルは大バカかもしれないけど、それでもちょっとは寂しいって、入江に思って欲しかったのよ。

「ブルーベル」

立ち上がりかけたブルーベルの手を、入江がつかまえた。
「何よーっ!モヤシのくせに強引ーーー!!」
「うん…モヤシだと思うけど、僕は男だし、君より力は強いから」

ちょっと入江は困った顔をしてて、ブルーベルは意地悪なことを思ったわ。
ブルーベルが帰るって言ったら、入江も少しは困ってくれたんだって。

「…いつまでも、こうしていたくなるんだよ」

ブルーベルは、もういちど入江にそっと抱き締められていた。

「君と逢う時間には、必ず終わりが来るから。またね、って、さよならの時が来るから。でも……こうしているとね、僕は安心して、時間がゆっくり流れていくような気がするんだ」

ひつじ雲が、流れてゆく。
ふわふわ、とても、ゆっくり。

「こうして、君と一緒にいるとね、この一瞬が、まるで永遠みたいな気がするんだ」

ブルーベルは。
そっと、入江の背に、腕を絡めてみた。

……あったかい。
どきどきしていた心臓が、だんだんゆっくりになって、眠くなるような、でもそうじゃない、とても安心したきもちになってゆくような気がした。

一所懸命おしゃべりしなくても。
あちこち街を歩かなくても。

何も焦らなくていいんだって、こうして抱き締めてもらえるのは、これから何度でも繰り返されるんだって、信じられて。

この一瞬が、ブルーベルと入江の、全部みたいな気がして…

(この一瞬が、まるで永遠みたいな気がするんだ)

やっと、少しだけ、分かったような気がしたのに、また入江の腕が解かれて、寂しい。

「そんなに、寂しそうな顔をしなくていいよ」

バレてたんだわって、ブルーベルは真っ赤になった。

「…すきだよ、ブルーベル」


眼鏡の向こうの緑の瞳は優しくて。
でも、ずっと見つめ合っているのは、ブルーベルは恥ずかしくて、目を閉じた。

一瞬だけ触れた唇に、感じたのは、ふたりだけの永遠。





〜Fin.〜

 

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