01

 
7月6日。

急に、スパナから電話が来た。
『正一。ウチ今から日本に行くから』
「…はい?」
『明日の朝、空港に着いたらまた電話する。ウチイタリアから日本に来るまで頑張るから、正一空港まで会いに来て』
「ちょっ…!明日平日なんだけど?僕、学校が」

…ツーッ・ツーッ・ツーッ

「な、何だよ急に!?」

正一とスパナは、高校生国際ロボット大会で、意気投合した友人だ。
来年もまた国際大会で、そして決勝で会おうと約束した良きライバルでもある。

それが、どうしていきなり来日なのだろうか。
非常なる親日家で、将来は日本に留学したいと言っていたし、日本に永住希望で日本国籍を取りたいとまで言っていたのだが、待ちきれなくなったのだろうか?

とにかく、ロボット大会の数日間だけではあったが、スパナはかなりマイペースだということは、正一も既に把握している。
どうにか他人に合わせようと努力する正一とは正反対だ。

そして、この正反対の場合、どうも正一に分が悪い。

そして、翌日7月7日。朝5時に電話がかかってきた。
『正一、今着いた』
「ちょっと…僕、眠いんだけど……」

正一は、母親に「あら今日は随分早起きなのね」と言われたが、友達と約束しているからと、漠然としているが嘘ではない言い訳をして、スクールバッグを持って家を出た。スパナと会ったら、途中からでも学校に行こうと思ったからだ。

どうもスパナの突飛な行動に振り回されている感はあるが、スパナが5時から待っていてくれるのかと思うと、放っても置けない。あまり待たせるのも悪いと思って、正一は電車を乗り継いで空港に走った。

「正一!」

遠くから、自分の名を叫ぶ声がした。
正一の方は、どこだろうときょろきょろしていたのに、スパナの方はすぐに正一を見つけてくれたのだ。

そして、スパナは、あんなに嬉しそうに、おひさまみたいに笑う少年だっただろうかと、正一は思った。
正一の記憶では、ロボット談義は楽しそうだし、クールな見かけに似合わずこだわりのマシンガントークになるけれども、あんな笑顔を見たのは始めてだ。

「どうしたんだい?スパナ、…わあっ!」

駆け寄った正一は、思い切りスパナに抱き締められていた。
隣でロボット談義をしていたときに仄かに感じた、柑橘系の香水の匂いがして、どうしてかドキンとした。

「えっと…、スパナ…?」
「ウチ今、彦星の気分だ」
「…へ?」
「正一が、My織姫」
「…………」

正一は、熱い抱擁の中で、そう言えば今日は七夕だった、と思いだした。

「な、何で僕が織姫!しかも、My が付くわけ!?」
「ウン。ウチ的にはそんなキモチだ」

海の色の瞳が、本当に嬉しそうに笑った。
「会いたかった、正一。ウチ、正一に会いたくて、ジャンク屋の仕事頑張って日本に来たんだ」
「…………」

正一も、スパナから聞いて知っていた。
スパナは、学校に通う傍ら、祖父の仕事を手伝って収入を得ているのだと。全部親に頼りっぱなしの自分とは大違いだ。

「仕事の儲けは、家計に入れてて、そっからウチのお小遣いが出るんだけど、ウチが日本にいる好きな子に会いに行きたいって言ったら、じいちゃんは愛に生きろってお金多めにくれた」

 愛に。生きる。

「…ちょ、ちょっと、いつの間に僕たちそんなことになっていたんだい!?」
「ウチの片想いだなんて、知ってるけど?」

言葉に詰まる正一に、スパナは言った。

「ロボット大会だと、高校3年間のうち、正一と会えるのは最大で3回だろ。それで終わりだろ。ウチ、そんなのイヤだ。もっと正一に会いたい。片想いでも、会いたいんだ」
「…………」
「だから、ウチが彦星だ」
「だからどーして、僕が織姫!僕、男!」

スパナはにこりと笑った。
「織姫って、星だとベガだろ。いかにも天帝の高貴な娘っぽく、夏の夜空で一番明るい星。彦星はアルタイルで、牛飼いっぽくベガよりは暗い星。ウチにとって、正一は明るい星の方だから」
「…………」
「あと、正一は可愛い。ウチの花嫁さんになって欲しいMy織姫」
「やっぱり、Myが付いちゃうわけ?僕、君のこと、一番のライバルで友達って思ってたんだけど!」
「……うん。知ってる。正一の気持ち、嬉しいよ。でも、片想いのウチの気持ちはそうじゃない」

スパナの方が長身で、正一はそっと顎を上向かせられた。
「愛してる、正一。ウチの片想いでも会いたかった」

唇に、微かに触れるだけの、キス。

「正一」
「…な、何だよ」
「普通、キスする時って目を閉じないか?今、ウチちょっと恥ずかしかった」
「フリーズしてたんだよっ!公衆の面前で、恥ずかしかったの僕なんだけど!?」
「すまない。ウチイタリア育ちだから、そういうの平気なんだよな」

正一を抱き締めていた、スパナの腕が解かれた。
そして、正一の足元に落ちていたスクールバッグを拾い上げた。

「ちょっとだけでも、正一に会えて嬉しかったよ。…平日だもんな。これから学校なんだろ?わざわざ来てくれてありがと。ウチ幸せだ」
「…………」

正一は、泣きそうになった。
こんな短い時間、自分と会うためにイタリアから来てくれただなんて。たったそれだけで、幸せだなんて。

スパナは、正一にスクールバッグを渡すと、にこりと笑った。
……また明日、会えるみたいに。
「Bye.」

正一は、言葉を探した。
さりげなく、同じようにBye.と返すべきなのだろうか。See you(またね)と再会を想う気持ちを伝えればよいのだろうか。それとも、再び遠く旅立つスパナなら…

(please take care of yourself./気を付けてね)

「…スパナ」
「何だ?」

正一は、叫んだ。
「もう、この際、君の織姫でいいよっ!!」

緑の瞳から、ぽろぽろ涙を溢す正一を見て、スパナは目を瞬いた。
そして、柔らかく笑った。

「泣かせてごめんな、正一。でもウチ、今すごく幸せだ」

スパナは、もういちど正一を抱き締めた。

「ウチ、天の川を越えてきた甲斐があったよ」




キスをした。今度は、目を閉じて。






〜Fin.〜

 

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