01
どういう訳か、僕と彼の出会いは色々な並行世界を見に行ったけど、このパターンが多い。
<始まり>がそうだったからなのかな。
周囲を見る余裕もなく走る正チャンが、僕にぶつかって出会う。
名前もそのとき覚えたんだ。入江正一クン。
さて、この大学が、1番目の出会いだったんだよね。
タイムスリップにパニックになった13歳正チャンが走って来て、僕にぶつかってひっくり返って荷物をぶちまけちゃって、その中に学生証が入ってたから。
その学生証の名前が、Shoichi Irie。
また、この場所で会えるって、僕は信じてこの大学を選んだんだ。
でも、ちょっとだけシナリオを変えてみたいな。せっかくだから、僕らしく、格好良く演出してみたいんだよね。例えば…
考え込んでたら、どーんって何かが盛大に僕にぶつかって来た。
……正チャン?
僕は、正チャンがひっくり返る前に、スマートに正チャンを抱き支えてあげた。
やっと出逢えて、この世界では初めて、君の翡翠と僕の紫水晶に、お互いの姿を映し合う。
正チャンは、何が起きたのか分からないって顔で、何だかそれが可愛いなあって、僕はクスって笑ってしまった。
「そんなに急いで、ふしぎの国のアリスのうさぎさんみたいだね」
「……はい?」
ここでやっと、僕にぶつかって、抱き止めた僕の腕の中にいる事に気付く君。
そして、すぐパニックになる君らしく誤作動。
「う、うさぎさん!?」
「アリスちゃんの方でもいいよ」
「うさぎでいいです!!」
「…………」
僕は、くくくと笑っちゃって、君は迂闊にも自分でうさぎ決定してしまったことに、がーんっていう顔。
うさぎ正チャンがフリーズしているものだから、その間に僕は手際良く…荷物までは抱き止められなかったんだよね…正チャンの荷物を拾い集めてあげた。
「す、すみません!」
「こういう時には、すみませんじゃなくて、ありがとうの方が僕は嬉しいんだよ?」
正チャンは、驚いた顔をした。
だって、正チャンはSorry!! って叫んだのに、僕が日本語で答えたものだから。
「はい、入江正チャン」
「し、しょうちゃん!?」
「この学生証。Shoichi Irie...って、きっと日本人の名前で、イリエショウイチ君だろう?だから、ニックネームは正チャンで当たりかなって」
僕から学生証と荷物を受け取って、正チャンは真っ赤になった。
「あ…あの、しょうちゃん、なんて呼ぶのは、実家の母くらいなんですけど…」
「じゃあ、特別な呼び方なんだね。だったら僕は、尚更君を正チャンって呼びたいな」
だって、僕の中で、君はもう特別なんだから。
どの並行世界でも、例外なく君と僕は出会う。そう知っていて、僕はこの世界での君との出会いを、本当に楽しみに待っていたんだから。
「僕たち、もう友達なんだから、それでいいよね?」
「え…。友達…」
やっと君に会えて嬉しかった僕は、きっと最高の笑顔だったんじゃないかな。
「だって、次に会えたときには、僕は必ず君に挨拶するから。きっと君も、僕に同じようにしてくれるから。それって、もう友達だと思わない?」
考えてもみなかった、っていう顔で僕を見上げた君だけど、はにかんで笑ってくれた。
「はい…ありがとうございます」
君らしく礼儀正しく言って、そこでやっと気付いてくれた。
「あ…あの、名前教えて下さい!」
「僕は白蘭だよ、正チャン」
正チャン、って僕が親しみを込めてそう呼ぶだけで、東洋人では色白の肌を染めてくれる、可愛らしい君。
……そっか。元々楽しみにしていたけど、こうして実際に出会ってみると、この世界の僕にとって、この世界の君は、とても「可愛い」子なんだね。
「ねえ、正チャンが急いでたのってどうして?」
あ、ってやっと思い出した君。
僕にぶつかるほど慌てて走ってたのに、僕といる間は、その大切な用事を忘れていたの?僕、何だか嬉しいよ。
「講義!講義に遅れそうで!!っていうか、もう時間過ぎてます。失礼します!」
また走り出す正チャンの背中に、僕は笑いかけた。
「転ばないようにね。アリスの正チャン」
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[図書室63]
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