01

謎の依頼人からのミッション待ちの間、城の如き屋敷をあてがわれたので、7人はそれぞれが好きな部屋を選んで生活し、食事の時間くらいしかほかのメンバーとは顔を合わせる機会が無い。
ヴェルデは、自分の研究さえ出来ればよいので、一層自室から出る機会は少なく、マイペースな生活に満足していた。

だから、珍しいことだった。
真っ直ぐの廊下で、その人物と出会ってしまったのは。
幾分気まずく感じて方向を変えようにも、真っ直ぐの廊下には迂回路もないので、そのまま出会うしかなかった。

そして、自然にその人物と目が合ってしまい、ヴェルデは不覚にも10秒ばかり沈黙することになった。

「どうかしましたか?ヴェルデ」

ヴェルデは、隠しても仕方がないと思い、そのまま言った。
「美しいな」
「え…?」

どうせ出会ってしまったのだからと、ヴェルデは相手をまじまじと観察した。
風という名の、艶やかな牡丹の如き美女を。

黒目がちだが目尻はスッと涼しげで、髪は艶やかな漆黒であるのに肌は抜けるように白い。そして、薄紅色の唇は、口紅のひとつも引いていない。
深紅のチャイナドレスという華やかな衣装を着ているというのに、ノーメイクでも負けない美貌など、早々お目にかかれるものではない。

そして、すんなりとした細身の体。
ただ細いだけではなく、キュッとウエストはくびれていて、チャイナドレスがピッタリとしている腰へのラインはまろやかだ。そして、細身を裏切る豊かな乳房。
顔も体もこれだけ美しいのに、やはり美しいのであろう長い黒髪を、垂らすことはせずにきっちりと三つ編みにまとめているのが、艶麗さの中に清らかな印象を添える。

「お前が、美しいと言った」

ヴェルデが淡々とそう言うと、風の白い頬が、内側から血の気を透かして、これもまた美しくピンク色に染まった。
ヴェルデは、悪くない反応だと思いながらも、意外だとも思った。

「お前は、美しいなどと産まれた瞬間から推定4桁以上言われて、そのような讃辞は言われ慣れているのではないのか?」
「…あの、ヴェルデが、そのような事を言う人とは思っていなかったので…」
「面白いことを言うものだな。お前が私の何を知っている?」

ヴェルデは、自分でも不思議だった。
今の自分の言葉は、単なる質問ではないと気付いたのだ。

皮肉だ。答えなど決まっている。
風は、ヴェルデことなど、名と容姿と科学者という肩書きくらいしか知らないはずだ。

「申し訳…ありません。ただ…ヴェルデが私をそのように思っていることも、知らなかったので…」
「美しい、ということか?客観的な事実だ。お前と出会った大概の人間は、お前を美しいと思うだろうよ。私も含めてな」
「そう…ですか?私には、よく分かりません…」

風は、困ったように笑ったが、ヴェルデは気付いた。

(今…一瞬、傷付いた顔をしたのか…?)

「お前は、誰にも彼にも好かれないと気が済まないタイプか?」
「え…」

風は困惑し、その美しい顔に、自らを恥じて責めるような表情さえ浮かべた。
「いいえ…そんなことは…」
「お前は、誰にも彼にも友好的に振る舞い、笑顔を向ける。尤も、選ばれし7人とかいうメンバーだ。お前がそれだけの演技力を持っていても何ら不思議ではないが」

ヴェルデが今までの短い時間で判断した限りでは、風は人の目を見て話す人間であったはずだ。
そして、指摘した通りに、いつも穏やかであたたかい笑顔を持つ女であったはずだ。

だが、今ヴェルデの目の前にいる風はそうではなかった。

「もう、既にバイパーには、そんなつもりはなかったのですが…上から目線と嫌われてしまいましたし、それが無かったとしても…」

風は、顔を上げると、にこりと…やはり傷付いた感情を隠しきれない表情で微笑した。
「無敵の拳法家…などという異名を持つに至った理由はあるのですよ。私は、幾人の命と幸福を散らしてきたのか、もう覚えていません」

風は、その異名を決して誇ってはいなかった。かといって、ヴェルデのように数百年にひとりの天才科学者などというのは単なる事実だと、他人の讃辞を受容している訳でもなかった。

風は、自分自身を罪深い人間だと自責し、自分が殺してきた人間を悼んでいる。
しかし、今回のメンバーに名を連ねる程度に、風はその生き方を変えることは出来ない理由を抱えているのだろう。

「私に…愛される資格など、ありません。許されるわけも、ありません」

風はそう言って、ヴェルデの脇を音もなく通り過ぎた。
ヴェルデは、思わず振り返ったが、その頭脳はひとつも風にかける言葉を思い付くことは出来なかった。

あんな、涙を押し殺した辛い顔を、させたいわけでは、なかったのに。


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