01
ここは、孤児院。
あたしは、5歳のときにここに来たらしいけど、全然覚えていない。
はじめ、あたしはお父さんとお母さんとお兄ちゃんと4人家族だったらしいんだけど、そのことも覚えていない。
保育士さんのおしゃべりを偶然きいちゃったんだけど、ブルーベルは事故で、“家族”をいっぺんに失ってしまったショックで、記憶がとんじゃった、らしい。
事故でブルーベルだけ助かって、目が覚めたときには、覚えてたらしいんだけど。
(ママは、どこ?)
(パパは、どこ?)
(おにいちゃんは…?)
そうきいたらしいんだけど、「もういないのよ」って、遠回しに言われて、「そう」ってぼんやり答えた後、ブルーベルは、二度と“家族”のことを、きくことはなかったんだって。
……覚えてないわ。そんなこと。
覚えてないんだから、はじめからブルーベルには“家族”なんていなかったのと同じだわ。ブルーベルはひとりなんだって、それが当たり前って生きるしかないじゃないの。
この孤児院は、成人するまでいていい。
逆に言えば、成人して、おとなになっちゃえば、追い出されるのよ。
それは、この国では18歳の時。ブルーベルは、そのときまでに“独立”する方法を、みつけなきゃね。ブルーベルは今10歳だから、あと8年。
この国は、失業率が高くて、特に不幸じゃなくたって、なかなか実家から出られなくって、ママにベッタリで同居してるやつだっていっぱいいるのに。
でも、ブルーベルはまけないわ。
足が動けなくたって、車椅子だって、まけないんだから。
ひとりだって、平気よ。だって、ブルーベルは5歳のときから、ずっとそうだったんだから。
そりゃあ、雨風しのぐ屋根はあるし、食事ももらえるわ。
でも、そういう問題じゃないの。
ブルーベルを、愛してくれる、支えてくれる“家族”はいない。
保育士さんがいて、ここにいるみんなで“家族”よ、って言うんだけど、そんなのうそよ。
本当に“家族”なら、18歳で放り出したりしないわ。
“家族”ならブルーベルのこと、陰でワガママ、気紛れ、って悪口いわないでしょ。もし、なおすのがブルーベルに必要なことなら、正面から言って、叱ってくれるのが“家族”なんじゃないの?
知ってるのよ。ブルーベルだって。
ブルーベルは、性格悪いわ。
だって、こんな施設にいて、性格いい方が、うそくさいわ。
ブルーベルみたいに、親きょうだいと死別したなんて、マシな方よ。
親に捨てられちゃったり、親がいてもロクデナシで面倒をみてくれなかったり、面倒みないどころか虐待してくれちゃったり、からだや心や、成長に障害があったり……ああ、ブルーベルは歩けないんだから、こっちにも入るわね。
ようするに、みんな“ひさん”よ。不幸よ。
これでも性格いい子は、強いんだわ。
みんな、不幸で、たくさんの人にかこまれてたって、ひとりぼっちで、歪んでしまうのよ。
あ、イヤなことに気が付いちゃったわ。性格悪いブルーベルは、弱いの?
ううん、今弱くたって、さいごにまけなければいいのよ。
ここを出て行くまでに、強くなればいいのよ。
……強くなれば、ブルーベルも“性格よく”なれるのかしら?
そうしたら…
(ブルーベルのこと、すきになってくれるひと、いるのかな…)
〜Family〜
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