02

「ちょっとーお母さん。何でそんな人形もらっちゃったのよ」

家に着くなり、ブルーベルのことを、露骨に「気持ち悪いですー」っていう目で見た女の子。
「ひいお祖母ちゃんがずいぶん大切にしていたものだから、捨てるのもどうかって、女だからって私が引き取ることになってしまったのよ」

まあ、わざわざ遺品から人形をチョイスして持っていく男の人って、コレクターくらいよね。
おばあちゃんの親族は男の人が多くて、おばあちゃんの孫に当たるこの女の人がブルーベルを連れていくことになっちゃったらしい。

つまり、文句をつけた女の子は、あのおばあちゃんの「ひまご」っていう関係なのね。

「こういうお人形、明子ちゃんなら好きかもしれないって思ったんだけど」
「イヤよぅ。何か、そういうお人形って、変な魂とか念とかこもっていそうじゃない?」

ちょっと。「変」って何よ。
まあ、魂や念がこもってるのは本当だけど。

「どこに飾るの?お母さんだって、やだなーって思いながら持って来たんでしょ」
「まあ…そうなんだけど」

ブルーベル、むっかー。
色んな人の手に渡ったけど、これだけ言われ放題はなかったわよ。

だって、ブルーベルは、ビスクドールの中でもかなりびしょうじょ!で、コレクターに「こんなに美しい人形は初めてだ!」…なぁんて言わせたこともあるのよ。
昔に作られたからモノとしては古いけど、ブルーベルほど保存状態がよくて綺麗なら、とっても高値がつく素敵人形なのよ。

「……人形供養の、お炊き上げにでもだしたらどうだ」

何か、存在感薄くって目にも入ってなかったけど、この家には男の人もいたんだわ。多分、ブルーベルを連れて来た人のダンナさんで、この女の子のお父さんね。

「それもいいわね。そういうお寺、探してみましょうか」

ちょっと。ブルーベル、その言葉初耳よ。「おたきあげ」って何?
ブルーベル、お寺の置物になるわけ?

「…おたきあげ、ってなに?」

ブルーベルが知りたかったことを、代わりにきいてくれた子がいた。
小さな男の子。小さいのにメガネっ子。あの女の子の弟かしら?

「ああ、いらなくなった人形を、お寺で燃やしてもらうのよ。こどもが小さいときにたくさん集めたぬいぐるみとか、古いおひなさまが多いみたいね。そういう人形って、何となくゴミにしづらいでしょう?だから、お坊さんにお経を読んでもらって供養するのよ」

ちょっと!ちょっと!ちょっと!

ブルーベルみたいに貴重で綺麗なお人形を、燃やしちゃうつもり!?
なんてひどいこと思い付くのよ!質屋の方が1億倍マシだわ!!

……。人形にも、「死ぬ」ってあるのかしら。
ありそうね。ブルーベルは陶器だから結構燃え残りそうだけど、髪の毛は燃えちゃうし、ゴチャゴチャに放り込まれて燃やされたら、きっと割れてしまうもの。

「かわいそうだよ…」

ブルーベルは、驚いた。
男の子なのに、人形遊びなんかしなそうなのに、その子がブルーベルのこと、かばったから。

「おばあちゃん、そのお人形、とっても可愛がってたよ。なまえもちゃんとあって、ブルーベルって言うんだよ」
「……正一あんた、よく覚えてるわね」

呆れ口調のおねえちゃん。
ふぅん…。この小さい男の子、「しょういち」って言うのね。でも、それでブルーベルは思い出した。

何年か前よ。
おばあちゃんの家に、「ひまご」たちが親に連れられて訪ねて来たことがあったわ。

その時、小さな女の子が、お行儀悪く家の中を走り回るものだから、おばあちゃんはブルーベルを壊されないように、だっこして箪笥の上の方に移動させたんだったわ。
そのとき、女の子は「あきこ」とか「あーちゃん」とか呼ばれてて、もうひとりいたどんくさい男の子は、「しょういち」とか「しょうちゃん」って呼ばれてた。

……そう。どんくさかったわ。
それとも、うんと小さくて、赤ちゃんに近い感じだったのかしら?

よちよち歩いて、何にも無いところでべしっと転んで、うわあんって泣いて、お母さんらしきひとに抱っこされて。
でも、その子はどんくさかったけど、案外おしゃべりは上手だった覚えがある。

(おばあちゃん。そのおにんぎょう、おおきいね)

……まあ、立たせれば60cmとか、何代か前の持ち主が言ってた気がするわ。

(そう?しょうちゃんが大きくなるころには、小さく見えると思うわよ)

(おばあちゃんの、たからもの?)

(宝物っていうより、こどもみたいなものかしらねえ…。ブルーベルっていうのよ)

(どうして、かみのけがあおいの?)

(さあ…わからないけど、綺麗でしょう?でも、青い髪だから、ブルーベルっていう可愛い青いお花の名前を付けてもらったんだと思うのよ)


「ひいおばあちゃんが、あんなに大切にしてたのに、燃やすなんて可哀想だよ」

ブルーベルは、また驚いた。

(可哀想)

この子も、あのおばあちゃんと、同じことを言うんだわ。ブルーベルは、「モノ」なのに。

「だったらこの人形、あんたが持ってればいいじゃないの」

女の子のひとことで、ブルーベルの新しい持ち主は、小さな男の子で決定。
その子は困った顔をしたけど、それでもお部屋にブルーベルを連れて行ってくれた。お人形用の椅子にブルーベルを座らせてくれて、じっとブルーベルを見た。

何よ。じろじろ見て。

「ひいおばあちゃんが死んじゃって寂しいと思うけど…これからよろしくね、ブルーベル」

不思議な気持ちがした。
色んな持ち主の手に渡ってきたけど、「よろしくね」なんて笑って言ってくれたのは、しょうちゃんが初めてだったのよ。


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