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あたしは、お人形。
陶器(ビスク)で出来ているから、ビスクドールって言うの。昔に作られた子も多いから、まとめてアンティークドールって言われることも多いみたいね。

そういう意味では、あたしはアンティークだわ。いちいち数えてないけど、作り出されてから100年以上経っているもの。途中から、数えるのも面倒になっちゃったから、200年近く行ってるかも知れないわね。

お人形は、文字通りヒトガタよ。
人間に似せて作られたけれど、人間ではないもの。

そう。「モノ」よ。
だから、あたしはあたしの意志に関係なく、色んな人間の手に渡っては、引き継がれてきた。

一番イヤだわって思っていたのは、コレクションされる時ね。
あたしみたいな、特に綺麗で高値のつくお人形を並べては、満足して飾ってる奴。キライよ。あたしは確かにモノだけど、露骨にモノ扱いされるのはキライなのよ。

それから、これもイヤだわって思うのは、本当はあたしのことが好きじゃないのに、たまたま持ち主が変わっちゃった時。
これは、プレゼントされるケースが多いかな。

断りにくいわよね、これって。プレゼントなのにいりませんって言うの、結構勇気が要るわ。
人形が苦手っていうひとは結構いて、プレゼントを断れなかったひとは、あたしを出来るだけ目立たないところに置いておくのよ。

ほったらかしで、好きになってもらえないあたしは、悔しくて……悲しかったわ。

あたしは西の国で作られたけど、どういう訳か海を渡ることになった。
東の果ての国、日本。

そこでも、何回か持ち主が変わったけど、あたしは質屋さんに並べられてた。
質屋さんって、持ち込まれたモノの代わりにお金を貸してくれるところ。でも、お金を返してもらえないなら、そのモノは質屋のものになる。
まあ、始めからお金を返すつもりなんか無くて、単に売ってお金をもらいたいひとの方が多いみたいだけどね。

そんなある日、おばあちゃんが質屋にやってきた。
持ち込んだのは、とても綺麗な日本の着物。

質屋のおじさんは、お目々きらーんだったわ。
その着物って、昔でもそこそこいい値だったらしいけど、この時代では更にすごく貴重なお着物なんだって。

何でも、日本の着物は、時代が進むほどにどんどん安っぽくなっていったらしい。
安価で薄っぺらい中国絹が出回って、プリント技術が向上。

つまり、「職人」が育たない国になってしまったのよ。後継者もいなくて、匠の技はどんどん失われていってしまった。
でも、この着物には、そんな技術がたくさん使われていて、今の新品ではなかなかお目にかかれない高級品になってしまった、っていうわけ。

そんな着物は、たくさん有った。
「私の娘も孫も、着物には興味をもってくれなくてねえ…。私はまだ着ているけれど、若い色柄の着物や帯は、箪笥の肥やしになるばっかりで可哀想だから。好きなひとに役立ててもらえる方がいいと思うのよ」

ブルーベルは、不思議に思った。
どんな高級なお着物だって、所詮は中古の「モノ」じゃないの。それを、どうして「可哀想」なんて言うのかしら?

「…あのお人形は?」

おばあちゃんが、あたしを見た。
「アンティークドールだよ。奥さんの着物と同じで、大量生産品じゃない、一点物だ」
「名前はあるのかしら?」
「どうだったかねえ…。ああ、前の持ち主は、確かブルーベルって…花の名前だそうだよ」
「そう…ブルーベルって言うの。可愛いお名前ね」

ブルーベルもそう思うわ。
前の持ち主は、ブルーベルの他にもいくつか人形を持っていて、みんなに名前を付けていたわ。全員、お花の名前。ブルーベルは、イギリス産のお花で、いい匂いがする可愛いお花なんだって。

でも、そのひとが亡くなったあと、ブルーベルの価値が分からない親族は、ブルーベルを売ってしまった。
そういう訳で、ブルーベルは質屋にいたの。

着物のおばあちゃんは、ブルーベルのことを気に入って、その場で買ってくれた。
そのひとのことは、好きだったわ。
でも、寂しくて悲しいひとでもあった。生きている子どももいるけど、そのひとは一番始めの子を、2歳で肺炎で亡くしてしまっていたの。

昔は、よくあることだったみたいね。今みたいに医療が発達しているわけじゃないから、ちょっと風邪を引けばすぐこじらせてしまう。たいして効きもしない薬を貰ってきて、一所懸命そばにいるので精一杯。そして、小さな命は簡単に散ってしまう。

それはずいぶん前のことなのに、おばあちゃんはブルーベルをその子の代わりに可愛がった。不思議ね。昔に亡くしてしまったのなら、日本人形とか、こけしでもよかったと思うのよ。
でも、手芸が上手なひとだったから、ブルーベルの服をたくさん手作りしてくれた。

あ…そっか。日本人形やこけしじゃ、見ているだけで「してあげられること」が何も無いんだわ。
だから、着せ替え人形になれて、立ったり座ったり、抱っこ出来たりするブルーベルがよかったのかもしれない。

つまり、ブルーベルは「身代わり」だったんだけど、そんなものよ。そんなの今更だから、別にイヤでもなかったわ。
だって、ブルーベルは「ヒトガタ」なんだもの。人間に見立てられて人間を満足させる為に作られたの。身代わりは、人形の運命なのよ。

死んでしまった娘に尽くすようにブルーベルに優しくしてくれたおばあちゃん。ブルーベルは、当分身代わりをしてあげるつもりだったわ。
でも、その優しくて寂しいおばあちゃんは、死んでしまった。

人間って…すきで、…きらいよ。
だって、みんな、ブルーベルよりも先に死んでしまうもの。

ブルーベルを置いて、逝ってしまうもの…

そして、ブルーベルは別に人に引き取られることになってしまった。
まただわ、ってあたしは…ブルーベルは思った。
新しい持ち主は、なんだか微妙な顔をしてる。このひとは、おばあちゃんの形見だからってブルーベルをもらってしまって、やっぱり断りにくかっただけで、本当はブルーベルを引き取るのはイヤなのよ。


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