02

「にゅ…お部屋の外に、木の廊下?」
「縁側って言うんだよ。こうやって、気軽に家と外を出入り出来るし、今みたいな季節なら、直接日差しが家に入るのを防いでもくれるしね。…ああ、屋根が前に突き出していているのもね、軒の出とか庇(ひさし)とか言うんだけど、これも夏の直射日光から家の中を守ってくれる。でも、冬は日が低くなるから、家の中まで日の光が届く昔からの知恵だよ」

中に入ると、畳のお部屋。杉林みたいに、不思議にひんやりとする。
家の中なのに、全部開け放っているからかもしれないけど、それとは別に、何だかすぅすぅって空気が通り抜けてるような気がする。

「隙間(すきま)風だよ」
「…………」
「昔の家だから、色んな知恵はあっても厳密に出来てるわけじゃないんだよね。畳の下は板が敷き詰めてあるんだけど、綺麗に敷き詰めても目に見えない程度の隙間は出来る。それに、今の家みたいに断熱材が入っているわけじゃないんだ。その板の下は柱と土。だから、板の下を通り抜ける風が、畳の間から漏れてくるんだよ。あと、柱と壁の間とか、屋根の間からも入り込んでくるかな」
「そんなにすきまだらけだったら、冬さむいのに決まってるでしょーーー!!!」
「あはは、そうだね。寒かったよ。でもね、このくらい通気性がよくないと、木や植物で出来ている家はカビてしまうんだよ」

入江は楽しそうに笑って、畳の上に寝転んだ。
ふと、ブルーベルは気が付いた。

この家…古いけど、どこもよごれていないわ。
障子紙が、黄色く変色してるくらいで、まるでお客さんを迎えるためにおそうじしたみたいに、ほこりも見当たらない。

「気に入った?」

入江が笑うから、ブルーベルは色々不思議に思ったけど、「うん」ってこたえた。

「……家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころ、わろき住居は堪へがたき事なり」
「え…?」
「日本の、何百年も昔のひとが書いたって言われている…エッセイのようなものかな。その中に書かれているんだよ。“家の作りは、夏を基準にするのが良い。冬はどんな所にでも住む事ができる。暑い時期、暑さに適していない住まいは我慢出来ない”」
「ほらーーっ!やっぱり、日本の夏は何百年も前から亜熱帯じゃないのっ!」
「あはは、冬はどんな所でも住めるって言い切るのがすごいよね。冬だって日本は結構寒いのに、そっちはどんなに我慢しても夏を優先しろって言っているんだから。このひと、かなり暑がりだったんだろうな」

今は、その夏を優先した家の、すきま風と日差しを遮る暗さが気持ちいい。
夏の日差しは、明るすぎるくらい明るくてまぶしくて、だから逆に、それが作る陰は冬よりも黒く感じる。

何だか、ちょっと探検しちゃいたい感じだわ。

「入江。この家の人って、どこにいるのかなあ?」
「……僕たちがいる間は、来ないよ」

やっぱり、不思議なお返事。
「勝手に探検しても、怒られない?」
「大丈夫だよ。誰が来てもいいように開け放ってあるんだから。日が暮れる頃には、雨戸を閉めに戻ってくると思うけどね」

会いたいような。会いたくないような。
「古民家の中でも立派で広い家だから、ブルーベルには楽しいんじゃないかな」

ブルーベルは、薄暗い家の奥に入ってみることにした。
柱も黒っぽいけど、廊下も古びてこげ茶色で、歩くと時々ミシッて音がする。きっと、ここからもすきま風が入ってきてるのね。

西洋の石造りの家とは全然違う木の家は、何だかブルーベルには全部不思議だった。
これは…“ふすま”っていう戸なのかな。やっぱり古いけど、鳥の絵がかいてあって…ツル、なのかな?

天上から、何かぶら下がってる。何か、引っかけられるようになってるみたい。
その下には、灰や、たぶん炭が燃えて白くなったやつ。ここにおなべをぶら下げて、ぐつぐつにるのかな。

むこうは…
「土…?おうちのなかなのに」

けっこう広い。ここって何なのかな。
それに……

「にゅーーーーっ!!!」

ブルーベルは、だーっともと来たろうかを走って入江の名前を呼んだ。

「うわあああん!!!入江ーっ!!何かスゴイのいたーーーっ!おばけーーー!!!」

ブルーベルが、畳の上ですべって、べしっとたおれたら、入江が来てくれた。
「おばけ…?」
「こわいーーー!!!ブルーベル、もう探検やめるー!帰るーっ!!」
「それって、どこ?」
「にゅーっ!もういくのヤダーーーっ!!」

やだって言ったのに、入江はすたすたそっちの方に行っちゃう。
ブルーベルは、行きたくないんだけど、急にこのうすぐらい家がこわくなってきて、ひとりぼっちになるのはイヤ。
だから、入江のTシャツを両手でにぎったまま、おそるおそるあとをついてった。

「ああ…ここ、玄関から続いてる土間だね。広いだろう?物置や、天気が悪い日の仕事場も兼ねているから。昔のひとは、本当に働き者だったんだよ」
「だから、ここにいたんだってばーーー!!!」
アレのこと?」

入江がブルーベルを振り返って指差したのは。

「いやあああ!!それよーーーっ!」
「魔除けの為のお面なんだけど?」
「…………」

くすって入江が笑った。
「般若面って言って、確かに鬼のお面なんだけどね。嫉妬や恨みの余りに鬼女と化した女性の顔だよ」
「ちょっと入江ーーー!やっぱりこわいじゃないのっ!!びゃくらんみたいに、にこにこわらっていうことじゃないでしょーーーっ!!!」
「日本には、よくある習わしなんだよ。屋根に“鬼瓦”っていうものを取り付けて魔除けにするのもそうだし。怖いものには更に怖いもので対抗するのって、効果的だと思うけどなあ」

やっぱり入江は、にっこり笑って言った。
「ほら、夜に道を歩くときには、白っぽい服がいいって言うじゃない?白いものは、暗闇でも僅かな光を反射するから、車からも見えやすいんだよ。この家は昼間でも結構薄暗いけど、夜になったら一層暗いと思うんだよね。夜中に、怒りと恨みで蒼白の面が闇に浮かんでいたら、入り込もうとしてきた魔物でも死ぬほど怖いよね」
「イヤーーーっ!魔物よりも、ブルーベルの方が先に退散しちゃうじゃないのーーー!!!」


[ 48/102 ]

[*prev] [next#]
[図書室63]
[しおりを挟む]


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -