02

「ねえ、桔梗。入江は、たまたまブルーベルと出会ったのよ。体が不自由なのに、ビンボーで治療を受けられない…っていう女の子は、ほかにもたくさんいるはずよ。入江は、責任感も強いし優しいし、他の子と巡り会ったら、その子のことを大切に思ったかもしれないわ。……やっぱり、その子を花嫁さんにしたいって思ったのかしら?」
「そのような仮定は、無意味だと私は思いますが。実際に入江正一と出会ったのは、ほかでもない貴女です。そして、彼は貴女の幸福を願い、貴女と共に生きて、ゆくゆくは貴女を花嫁にと望んでいるのです。それが唯一の現実ですよ。それ以外に、貴女には何かが必要なのですか?」
「…………」

ブルーベル、困っちゃった。
桔梗の言うことは、正しいわ。でも、ブルーベルは、ほんのおとといまでは、18歳になるまで施設で暮らすつもりの孤児だったのよ。

「……ブルーベル、ナマイキで反抗してばっかりで、保育士さんにも嫌われてる問題児だったのよ。問題児上等って直す気もなかったわ。……それなのに、入江はブルーベルは悪い子じゃなくて好きっていうのよ。悪い子じゃない、までは優しい入江らしいと思うけど…。でも、どうして入江はブルーベルを“すき”なのかな…」
「本人に聞けばよいのでは?」
「ブルーベルの予測では、入江はあいまい〜なお返事しかくれない気がするのよ!だって、何だか始めから、ブルーベルを守るって思っちゃったみたいで、それ以上の答えが出て来ない気がするんだものっ」

桔梗は、優雅に紅茶のカップを口に運んだ。

「そうですか。因みに、ブルーベル。貴女はどうなのです?いつから、入江正一は貴女の王子様になったのですか?」

う、とブルーベルは詰まった。

「い…いつ、って…」

ブルーベルは、悪い子らしく意地悪に、あんまりおしゃれじゃない高校生・眼鏡付きって思ったけど、緑の瞳が優しいことに、気付いていたわ。
引き取りたいって言ってくれた時、出来るだけブルーベルを傷付けないように、一所懸命言葉を選んでいてくれたことも。

だからこそ、同情や偽善で手を差し伸べられるのはイヤって、そんなのは返って傷付くって、はねつけようとしたわ。それでも、入江はブルーベルに家族になって欲しいって言ってくれて…

(正チャンがブルーベルが大人になるのを待ってあげて、花嫁さんにしちゃえばいいんじゃない?そうしたら、100%家族だよ)

びゃくらんが、あんなこと言うから、ブルーベルは真っ赤になっちゃって…
アレ?ブルーベルってば、どうして赤くなっちゃったの?
何バカ言ってんの?って言い返しそうなのがブルーベルのキャラなのに。

「つまり、貴女もよく分からないのですね」
桔梗は、ハハンと笑った。

「世の中では、それを一目惚れと呼びます」

・・・・・・・・・・。

「にゅにゅーーーっ!!!」

ブルーベル、ずがーんってショックよ。

「ちょっと!ひとめぼれなんて、超“けいはく”なんじゃない!?だってそれって、相手のこと何にも知らないのにすきになっちゃうってことでしょ?それって、恋とか愛とかいうんじゃなくって、ただの“思い込み”なんじゃないの?」
「軽薄になるかは、本人次第でしょう。そして思い込み上等です」

桔梗、優雅に紅茶のおかわり。

「世の中、思い込みだらけで成立しています」
「そういうもん!?そんな“ふせいじつ”なこと、おとなが堂々こどもに教えちゃっていいのっ?」
「不誠実にするかどうかも、本人次第です。幸福だと、思い込むことが出来ればその人間はどんな苦難の中にあっても幸福です。万人に好かれる人間も嫌われる人間もいないというのに、自分の中では好き嫌いが明確に分かれるのも、そう決めつける思い込みです。恋に落ちたと思えばそうなのでしょうし、愛しているという想いも同じです。…全て貴女の心次第なのですよ」
「…………」
「白馬の王子様ではなく、白衣の王子様を素敵だと思ってしまうこともです」
「にゅーーーっ!!誰が、王子…!」
「さっき貴女が呟いた通り、入江正一が白衣の王子様でしょう」
「…………」

桔梗はハハンな流し目で、ブルーベルは車椅子の上でぐらぐらしてた。

おうじさま…!!!

「6年たったら、白衣ではなくタキシードを着た王子様の隣でバージンロードを歩けるように、リハビリを頑張って下さい、ブルーベル」

ブルーベルの脳内で、ウエディングベルが鳴っちゃったのは気のせいよ……

「それから、思い込みとは別に、直感、というものもあります」
「直感…?」
「何の理屈もなく、理由もないのに、こうだと即座に判断する現象のことです。一目惚れは、思い込みのこともありますが、直感のことも多いでしょうね」
「どうして?」
「何も知らないのに好きになるのですから、理屈や理由を付ける判断材料を持っていないということです。相手がイケメンだとか美女だとか、分かりやすい理由が存在しないのであれば、直感かもしれませんよ。なかなかに、ロマンチックな現象です」

ブルーベル、何となく、ほっぺたが熱い。

「どの辺ロマンチックよ」
「何の理由もいらない、ただあなただから心惹かれた、…などというのは、恋の始まりとしては最大限にロマンチックでしょう?」

桔梗、美麗な微笑み。
「貴女と入江正一のようにです」
「言うと思ったわ!!!」
「自覚があるのはよいことです。でも、直感はきっかけに過ぎません。あとは、ふたりで存分に幸福の思い込みを築き上げて、バージンロードに辿り付いて欲しいものです」

桔梗と話してると…ぐらぐら、するわ……


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