02

「ひとり」じゃなくなる子も、時々いる。

例えば、親が長いこと病気で、ここにいたんだけど、親が元気になったからって迎えに来てもらえる、幸せな子。

それから、子どもを育てたい人が、ここに来て自分が気に入った子を連れて行くこと。
結婚したんだけど子どもが産まれてこなかったり、自分たちの小さい子どもを病気や事故でなくしてしまったりしたひとが多いみたい。

あとは、里親のボランティアね。
自分たちは別に何か不自由してるわけじゃないんだけど、こういう施設から子どもを引き取って、自分の子どもみたいに育てて、本当の“家族”になるんですって。…そんなこと、出来るのかしら?

元々の親に引き取られて戻っていく子以外は、大抵小さい子から売れていくわ。
まあ、売れていくなんて、失礼な言い方かもしれないけど、ブルーベルは冷えた心でそう思ってる。

ペットショップの犬や猫と同じよ。
ちっちゃい子が人気。大きくなるほど価値が下がる。
だって、犬でも猫でも人間でも、小さくて幼い方が可愛いわ。ちっちゃい子ほど何も分からないから、よく懐いてくれる可能性も高いもの。

育っちゃって歪んじゃってる子よりも、小さくて可愛い子の方がいいのに決まってる。
それから、「難がない子」ね。ブルーベルみたいに、美少女でも足が不自由で車椅子なんて、わざわざ選んでいくひとなんて、いないわ。

……そう思ってたある日、とても綺麗な、白いひとが来た。
男の人に、綺麗、って言うのかどうかわからないけど、そのひとは、ブルーベルが今まで見た人間の中で、少なくとも見かけは、一番綺麗だったんだもの。

天使って、こんな感じなのかしら?
……ううん、本物の天使なら、こんな施設に来ないわ。もし神様がいるのなら、この施設にいる子たちの殆どは、神様の手からこぼれ落ちちゃったんだから。

その、天使みたいな天使じゃないひとは、みんなが適当に遊んでるホールに、保育士さんに案内されて入って来た。
そして、簡単にぐるっと見渡すと、にっこり笑って「僕、あの子と話をしてみたいな」って言った。

長い足で、迷わずにまっすぐホールを突っ切ると、隅っこにいた子と同じ高さに目の高さを合わせた。

「はじめまして。君がデイジーだね」

ブルーベルは驚いた。
だって、デイジーって子は、この施設の中でも、一番不幸そうなやつで、一番陰気で、一番醜かったんだもの。

実際、「不幸そう」なんじゃなくて、極めつけに「不幸」で「ひさん」なんだと思うわ。
顔を切り裂かれた傷跡。一体、どんな目に遭ってたっていうの?食も細くて、いっつもご飯残すから、ガリガリに痩せてる。話しかければボソボソ答えるけど、自分から話しかけることはしないし、ぼろっちいぬいぐるみを抱えてる。

あの子、きっと、ひさんすぎて、人間を怖がることさえ忘れている気がする。あのぬいぐみだけが好きなのよ。

「デイジー、僕と一緒に来ない?」
白いひとは、特に優しい声色なんか使わなかった。軽いノリで続けた。
「そのぬいぐるみが一番のお友達?だったらその子と一緒においでよ。こんなところにいるより、かなりマシだと思うよ?」

ブルーベル、カッチンと来た。

「にゅっ!そこのしらがの人っ」
「白髪じゃなくて銀髪っていうの。君の青い髪みたいに、生まれつきだよ、ブルーベル」
「…?ブルーベルのこと、知ってるの」
「院長先生から聞いて知ってるよ。5歳の時事故で家族を亡くしてここに来て、今は10歳。気が強くてワガママで、保育士さんの言うことなかなかきいてくれなくて、厄介な子だってね」

綺麗な紫色の瞳が、ブルーベルを見て細められる。面白がって、そしてブルーベルを値踏みするみたいな笑い方。
このひと絶対、天使なんかじゃないわ。

「やっかいでも、ブルーベルの性格が悪いのも、言いたけりゃ好きなだけ言いなさいよ。でも、この施設を“こんなところ”ってみんながいるとこで言うのはサイテーだわ。あんたがどうしてデイジーを引き取るのか知らないけど、さっさとここから出てってよ」
「へえ…」

やっぱり、このひとは面白そうにブルーベルを見る。
「君、言うほど性格悪くないと思うけど?」
「…………」

ブルーベルは、“ふかくにも”黙ってしまった。
このひと、うそついてないって、わかったから。だってこのひと、綺麗な見かけのわりに、結構図々しいもの。子ども相手におべっかなんて使わないわ。

「ねえ」
ブルーベルは、この綺麗なひとに聞いてみたくなった。
「子どもはいっぱいいるわ。どうしてデイジーなの?」

やっぱり、そのひとはサラッと答えてくれた。

「この子が、一番不幸だからだよ」
「…………」
「でも、この子は自分が不幸だとも思っていないね。そういうこと、分かんないって目をしてる。諦めるということすらとっくに忘れてる。だから、何も望んでない」

ゾクリとするほど、綺麗に笑った。

「まるでさあ、生きている屍体みたいじゃない?」

このひと…絶対に、天使なんかじゃないわ。
 

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