02

「これから、入江はここに来るの?」
「お嬢さんを追いかける運命なら、ここに来るよ」
「じゃあ、ここで待っていていい?」

どうやら、自分は不思議な世界に入り込んで、迷子になってしまったらしい。
でも、正一ならきっと自分を捜し出してくれる…と思ったのだ。

(王子様とお姫様なら、必ず会える運命だもの)

ブルーベルは、どこか席を借りようと店内を見渡した。
今まで気付かなかったが、思いの外広い店内には所々人が座って、何か飲み物を飲んでいる。薄暗い店内ではよく見えなかったけれども、この光景は「どこか」に似ている…とブルーベルは思った。

「お嬢さん、待っている間に何を飲むかい?」
「ブルーベル、お金もってないわ」

デートの時、お金を持って出掛けたのは、正一にアクセサリーを選んで貰ったときだけだと思う。
ふたりはあまりお金のかからないデートをすることが多いのだし、必要な場合は正一が出してくれるから、ポシェットの中にはハンカチとティッシュと鏡(女の子には重要だと思うの!)しか入っていない。

「お金はいいよ。ここのお客さんたちは、初めて来たときにはみんなそうだったからね」
「…いらないの?」

変わったお店…とブルーベルは思ったけれども、とても喉が渇いていることは確かだ。

「じゃあ、オレンジジュース」

ブルーベルは注文すると、窓際の席から再び外を見た。
やはり、眩しい白い世界……

コトリと自分の前に置かれた、氷の入ったおいしそうなオレンジジュース。
ストローに口を付けようとして、ふとブルーベルは気が付いた。

このお店って……

切符はいらないけど、あの鈍行列車に、少しにてる…?

ブルーベルは、ゾクリとした。
あの電車は、正一と一緒だから怖くなかったのだ。
寂しくて悲しいけれども、どこか優しい電車だと思えたのだ。でも、正一がいないのなら……

「どうしたのかね?お嬢さん。飲んでいいんだよ」

マスターの声が優しく、ブルーベルは我に返った。
初めてのお客からはお金は取らない、と言ったけれども、それはブルーベルを迷子の子どもと思って、待っている間にと親切に飲み物をサービスしてくれたのかもしれない。

そう思うと、目の前のオレンジジュースはとてもおいしそうに見えて、ブルーベルはもういちどグラスとストローに触れた。


(ダメだ!ブルーベル!)

ブルーベルは、はっとした。
眩しい白い光の向こうから、走ってくるのは…

「入江…!」

正一は、息を切らして走ってくると、カフェの窓硝子を叩いて言った。
……何かを、言った。

どうしてか、窓硝子1枚隔てているだけなのに、声が聞こえないのだ。
ただ、唇の動きは…

(のんじゃ、だめだ)

「どうして?入江。入江もはいってくればいいのに」
ちゅく、とストローに吸い付いた瞬間、こんなに必死な正一の顔を見た事があっただろうかと、ブルーベルはもういちどストローから口を放した。

(“向こう側”に行っちゃ、だめだ!それは…)

叫ぶ正一の、唇を読んだ。

「…よ、も、つ……?」


(ヨ モ ツ ヘ グ イ)


パァン、と正一が拳で叩いたガラスが弾け飛んだ。
「ブルーベル…!」

眩い、白い世界。
ブルーベルは、正一に抱きしめられていた。

(いりえ…)

呼んだ名前は、声にならなかった。
強い夏の日差しを感じながら、ブルーベルはぼんやりとセミの声を遠くに聞いたような気がした。







 

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