01

「にゅ…ふしぎ」
「何が?」
「はっぱがそのまんまのきと、かれておちちゃうきがあるよ」
「ああ、それはね…大雑把に言うと、年中葉っぱがある常緑樹と、枯れて落ちてしまう落葉樹があるからだよ」

はらはらと、落ちてくる葉っぱは、赤や黄色の綺麗なものもあるけれども、茶色のものもあって、特に茶色のものは本当に役目を終えてしまったのだと、寂しい気持ちになる。

「もうすぐ、会えなくなるかも知れない」
「え…?」

正一の声は聞こえたのに、ブルーベルは一瞬、何を言われたのか、分からなかった。

「ど…ゆ…こと…」
「……ほら」

正一が、両手を差し出して、ブルーベルははっとした。
ほんの少しだけだけれども、正一の手の向こうを透かしているような気がするのだ。

「入江…どうして…?」

少し寂しげに、正一は微笑した。
時折ブルーベルが腹を立てる「どうしてだろうね」と交わす言葉も言わなかった。
代わりに、はらりはらりと舞い落ちる葉を見上げた。

「…落葉樹はね、春に芽吹くまで、この森の中で眠るんだよ」

ハッキリ言わないから、ブルーベルは返って言葉を返せなかった。
ブルーベルは、今まで何となく、正一のことを森の精のようだと思っていた。その理由はふたつあった。

ひとつは、正一が森の中にふと現れて、そしてブルーベルを森の出口まで送っていくと、いつの間にか消えているという不思議な少年であるということ。
もうひとつは、正一の瞳が、綺麗なグリーンだから。

 もう、あえないの?
 いつなら、あえるの?

ブルーベルは、怖くて聞けなかった。

…でも。
何も分からないまま、何の約束も出来ないまま、お別れになってしまう方がずっとかなしいのだと、正一の袖を握った。

……ああ。まだ、触れることは出来るのだ。

「いつまで…あえるの」
「……きっと、木の葉が落ちてしまうまで」
「いつになったら、あえるの?」
「……わからない」

ブルーベルは、泣きたくなった。
正一は、姿を消す日は知っているのに、次にブルーベルといつ会えるかは、知らないというのだ。
或いは、会いたいと、思ってくれているのかも……

「ばかじゃ、ないの」

ブルーベルの、声が震えた。こんなことを、言いたいんじゃないのに。

「じぶんのこともわからないなんて、ばかじゃないの!?」
「……ごめんね」
「………っ」

知っている。正一が「ごめんね」と言うのなら、決してそれ以上は教えてくれないのだと。
でも、それは意地悪ではないことも、ブルーベルは知っていた。その言葉を紡ぐ時、正一は困ったように笑うのだし、正一の「ごめんね」は、はぐらかす言葉ではなく、本当に「ごめんね」なのだ。

ブルーベルは、泣くまいとして、叫んだ。

「入江の、ばかっ!」

正一に背を向け、駆け出した。
あのまま、正一の姿が秋の風の中にかき消されてゆくのを、自分を置いてゆくのを、見たくなくて。

でも、本当にばかなのは、自分なのかもしれないと、ブルーベルは思った。
森から出て、振り返って…誰も居なくて。

涙が、こぼれた。
さびしいと、かなしいと、泣いて叫べば、まだ触れることが出来た正一は、たとえ「ごめんね」と言うのだとしても、抱き締めてくれたのだろうか。


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