02

「あ、この花瓶いいなあ。コレにしちゃおっかな」
「それ…大きさ的にも形的にも、でっかい壺レベルですよね……」
「お目が高いね、白蘭さん。それは、最近名家を相続した人が、遺産をお金に換えて分けるために売りに来たんだよ」
「白蘭サン……つまり、ものすごく高価だっていう事なんじゃあ…」
「あ、僕お金持ちだから、値段は気にしないの♪」

このお店で、魂が入っているモノは、みんなびゃくらんがすきよ。
だって、このひとは、安値でも高値でも、気に入ったら必ず買っていってくれるもの。いつか、このひとの目に止まらないかなあって思っているの。

でも、不思議だわ。
びゃくらんは、名前をつけてくれるくらい、ブルーベルを気に入ってくれているはずなのに、決してブルーベルを買おうとはしないのよ。
ブルーベルは、びゃくらんなら、買われてあげてもいいし、不幸を呼ぶこともしないであげようかなって思うのに。

いいなあ、あの壺だか花瓶だか知らないけど。
喜んでるのがわかるわ。

引き取ってもらえたら、あの子はびゃくらんのいうとおり、いっぱいお花を飾る役目をもらえるもの。
きっと、前の持ち主は、コレクションにして置物にするばっかりだったのね。綺麗なお花と一緒にいるほうが、ずっと幸せよ。

「正チャン」
「え?…あ、はい」

…ふぅん。あの緑の目のひと、しょうちゃん、っていうのね。

「その子が気になるの?」
「その子って…」
「ブルーベルだよ」

“しょうちゃん”がブルーベルを振り返った。
「あの…、高値でも何度も買い手がつくほどの人形なんでしょう?」
「僕は、気になるかどうかって聞いたの♪」
「それは…、気になりますけど」

ちょっと。迷うなんて、男らしくないわ。

「おいくら…なんですか?」
アレ?やっぱりブルーベルを買ってくれるのかしらと思ったら、店主さんに値段を聞いて、かっちんと固まった。

「無理です……」
「だったら、僕が正チャンにプレゼントしてあげるけど?」
「だ、ダメですよ!それは」

しょうちゃんは、びゃくらんの提案を断った。
「買い物って…、魂が篭もっているものなら尚更、御縁っていうものがあると思うんです。僕が自分の力で手に入れられないのなら、僕はこの子とは縁が無かったっていう事なんだと思います」

ふぅん…。このひと、一理あるわ。

「アハハッそうだね。気に入らない買い手に引き取られる度に、この子はお店に戻って来ちゃうもんね」
「怖いこと言わないで下さいよ!!結局白蘭サンは、僕にこの人形を買わせたいんですか買わせたくないんですか!」
「正チャンからプレゼント案を断られちゃった以上、僕に決定権はないよ。そんなの、自分で考えな♪」
「…………」

しょうちゃんは、ブルーベルに近寄ると、抱き上げて店主に言った。
「綺麗な衣装を着ているんですね」

ちょっと!衣装だけ?ブルーベルは、お人形の中でも、かなりびしょうじょ!!なのよっ!?

まあ…この衣装は気に入ってるけど。
ふんわり、大きな水色の帽子。つばにはレース付き。落ち着いた上品な色の、バラの飾りもついてる。
ドレスも、水色の地にバラの模様。もちろん、ひらひらいっぱいレース。

……今まで、たくさん買い手はいたけど、このドレスを作ってくれた持ち主さんは、嫌いじゃなかったわ。

「ああ、そのドレスは、何代か前の買い主のご婦人が手作りしたものなんだよ。そのご婦人の元にいたのが、私の知る限り一番長かったかもしれないねえ。でも、ご婦人が亡くなられた途端に、身内に病人や怪我人が出始めたとかで、娘さんが気味悪がって戻してきたんだよ。その娘さんには、“御縁”が無かったか、あまり大切にされなかったのかもしれないねえ」

……そうよ。あのおばさまは、たくさんブルーベルの服を作ってくれて、ブルーベルを可愛がってくれたのに、その娘はブルーベルをほったらかしにしたのよ。
ブルーベルは高価な人形だから捨てはしなかったけど、いつか高値で売り飛ばしてやればいいって言っていたんだもの。だから、ブルーベルの方から出て行くことにしたのよ。

「あの…お金って、一括払いじゃなきゃダメですか?」

…あれれ?
お金がなくて、無理って言ったのに。
それに、このひと、はじめは人形を怖がってたんだから、コレクターじゃないんだし、男の人なんだから着せ替え人形遊びに興味が有るとも思えないんだけど?

「分割払いで構わないよ。白蘭さんみたいに、高い商品をぽんと買っていける人も世の中案外いるもんだが、そうじゃない人は当然分けて払うからね」
「……そうなんですか」

しょうちゃんは、ブルーベルをそっと棚に戻すと、ちょっと考えて、「1年くらいかかってもいいですか?」って店主さんに言った。
返事はOK。だって、ブルーベルは高級品だもの。
ただし、高級品だから、引き取りはお金を全部払い終わってから。

「じゃあ…またね、ブルーベル。」

しょうちゃんは、ブルーベルの顔を覗き込んで、にこりと笑った。
……顔立ちは東洋人だけど、綺麗な緑の目。優しい顔をして笑うのね。

いいわよ。ブルーベルは、長い間時を渡ってきたんだもの。
たったの1年くらい、待ってあげるわ。


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