01

「こんにちは♪」
「おや、白蘭さん。久し振りだね。今日は何をお探しで?」
「ん〜、花瓶か壺。もっとお花を飾りたくってさ」

あ…。また、あのひとがきてるんだ。
しろい、きれいなひと。

ひとりぼっちだったあたしに、「ブルーベル」っていう名前をくれたひと。
あたしは見た事ないけど、いい匂いの可愛いお花なんだって。

「白蘭サン…早く決めてくれませんか」
「どーして?」
「僕、何となくこういう場所苦手で……、あ、店主さんすみません!!」
「いいんだよ、兄さん。あんたがそう思うのも仕方が無いし、それは正しいことかもしれないからね」
「どうしてですか?」

店主さんは、こんなお店を長くやってる程度に、「あたしたち」を理解してる。

「古いモノにはね、念が宿っていることも多い。つまり、それを手放した人間の想いが染みついてるってことだ。或いは、そういう事とは関係なしに、創り出されて長い間現世に留まるうちに、そのもの自体に魂が宿ることもある。それが平気な人間も居るが、兄さんみたいに無意識に感じ取って、怖いと思う人間はいるもんだ」
「アハハッ、僕はそういうの知ってて平気なんだけどね。だって、僕の方が強いもん」
「……。そういうひとですよね、白蘭サンって……」

綺麗な白いひとは、今日はひとりじゃなくて、あたしが初めて見る人を連れている。
仲が良さそうだから、お友達なのかな。

……いいな。お友達。

ここには「にたようなモノ」はたくさんいても、ブルーベルのおともだちはいないもの。

「あ、この子、また帰って来ちゃったんだ?」
「そうさね。よほど、“ひとを選ぶ”のかねえ」
「そりゃあそうだよ。人間だって、好きでもない人にかっ攫われたら逃げたくなるのに決まってるじゃない?」

しろいひと…びゃくらんは、あたしの顔を覗き込んで、にこりと笑う。
「それで、今回は何をしでかしたんだい?ブルーベル」

あたしは、口を利けない。だって、「人形」なんだもの。
あたし自身も覚えていないくらい、昔に作られた人形。

最近では、アンティークドールっていう言い方をすることが多いみたい。あたしが作られた頃は、アンティークって呼ばれるほど古くもなかったし、ビスク=陶器で作られていたから、「ビスクドール」。

「火事だよ。まあ、全焼はしていないし死人も出ちゃいないんだが、不思議にその子はこれっぽっちも焼けるどころか汚れることもせずにいたんだそうだよ。それで、買い主が気味悪がってねえ。ただでいいから引き取ってくれって戻してきたのさ。気の毒だから、半値でまた買い取ってやったがね」
「あはは、また派手にやっちゃったね、ブルーベル」

そうでもないわ。火事って言ったって大きなお屋敷だから、ちょっとくらい燃やしたってボヤレベルだし、誰も殺さずに見逃してあげたじゃないの。

「…不幸を呼ぶ人形なんて、あるんですか?」

びゃくらんが連れて来た、いかにも臆病そうなひとが尋ねてる。
男のくせに、自分では動けもしない人形に、びくびくするんじゃないわよ。

「正チャンは、日本の雛人形も避けたい感じでしょ?」
「まあ…。姉さんのやつは、ちょっと不気味だと思ってました。一応、女の子のお祭りだって言うんで、1ヶ月くらいは我慢してましたけど」

雛人形…?
どうして怖いのかしら。日本の綺麗なお人形で、あのお人形たちは少なくともカップル以上だから、「さびしい」っていう念は少ないわ。
それに、雛人形は、人間の災厄を引き受けるっていう役目を持ったお人形だから、むしろ人間を守ってくれるのよ。

……ああ。でも。
その「身代わりになっている」っていう残酷さを、このやさしそうなひとは、「怖い」って思うのかしら…?

不幸を呼ぶ人形があるのか、っていう質問に、店主さんが答えた。
「どうだろうねえ。その子みたいに、古い人形だと魂くらい宿っていても不思議じゃないだろうから、大切に扱ってやらないと、悲しくなって出ていこうとするかもしれないねえ」
「……そうですか。可哀想ですね」

ちょっと。可哀想とか、上から目線で言わないでちょうだい。何だかムカツクわ。
ブルーベルは、確かに買い主を好きになれたことはないけど、「いわくつき」でもどんどん買い手がつくスターなのよ。

「それでも、その子には高値がつくんだよ」

店主さん、ブルーベルのプライドを代弁。

「その子はね、百年以上前に作られた陶器製の人形で、大量生産じゃない一点物なんだよ」
「こういう人形に、大量生産なんてあったんですか?」
「ああ、19世紀の終わり頃には、陶器製じゃないビスクドールが量産されて流行したんだよ。それでも、その子は陶器で作られて、手足の関節が可動式の、最高級品なんだよ。青い髪は珍しいし、古いのに保存状態がかなりいいしね、何しろたいそう美しい人形だから、店に来るなり一目惚れして買っていく客は、今まで何度もいたんだよ」
「そう…ですか」

そうよ。魂が篭もった綺麗なお人形を手に入れることは、綺麗な人間を手に入れることに似ているわ。
だから、人間はあたしたちを欲しがるのよ。

たくさんのお人形たちが、この赤茶の髪と緑の瞳のひとを、見てる。
だって、このひとははじめは怖がっていたけれど、人形を「可哀想」と思って、感情移入してくれてるんだって、みんな気付いたんだもの。

ブルーベルは、買い手を選ぶけど、そうじゃないお人形も多いわ。
だって、大抵のお人形は、人間のことが好きなのよ。

お人形は、人間に似せて作られたのに、人間じゃない。お人形にとって、人間は憧れなの。
誰にも構ってもらえずに、お店の棚に並べられて売りに出されている人形は、さびしい。みんな、誰かに好きだと思ってもらえて、選んで貰って、いつかこのお店から出ていく日を夢見ているの。


[ 80/100 ]

[*prev] [next#]
[図書室62]
[しおりを挟む]


×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -