02

やっぱり、非力な子だわ。
力じゃブルーベルに敵わないし、緑の瞳は分かりやすく怯えてる。

「どうして、人間に見られちゃダメなのか、ブルーベルは知らないわ。でも、決まりは決まりよ。破るなんて“ふきつ”だわ。人魚は、死ぬ時海の泡になって消えてしまうんですって。ブルーベルは、まだ死にたくないもの。やっと今日、15歳のお誕生日なのよ。これから、楽しいことがいっぱいなのに、死んでたまるもんですか」
「…………」

イリエが、聞き返した。
「誕生日…なのかい?」
「そうよ。それがどうかした?」
「…じゃあ、いいよ」

ブルーベル、きょとんとしちゃった。
「いいって、何が?」
「死ぬのは怖いけど…。ブルーベルは、今日が誕生日なんだよね。ブルーベルが消えちゃうのは、ダメだよ」
「…………」
「僕、泳げないんだ。このまま海に入れば、死ねると思う」

言う通りに、本当は怖い癖に。
イリエは、そろそろって海に足を伸ばした。

「ちょっ…!」

ざぶんって、イリエの小さな体が海に沈んだ。
ブルーベルは、慌ててショーイチを追いかけて、陸まで連れていった。

「ちょっとイリエっ!」
イリエは、ゲホゴホ咳をして水を吐き出して、ブルーベルはイリエに眼鏡を返してやった。

「これがないと、あんたは目が見えないんじゃないの!?」
「…うん。ありがとう…」
「何やってんのよ!あんた死ぬ気?」
「…………」

イリエが、不思議そうな顔をした。
「だって…。僕が死なないと、ブルーベルが泡になって消えてしまうから……。今日が、お誕生日なのに」
「…………」

そうだわ。元々、イリエを殺そうとしてたのって、ブルーベルだわ。

「なんか…あんたって、変な奴ね。確かにブルーベルは今日で15歳だけど、あんたはもっとちっちゃくって、死ぬには早いでしょ?」
「君より、うんとちっちゃいってほどじゃないんだけど……14歳だから」
「…………」

ブルーベル、にゅーって叫んじゃった。
「ちょっと、“ねんれいさしょう”じゃないのっ!?チビだわ!!」
「うん…チビの14歳なんだよ」

海水でびしょびしょなのに、イリエはあははって笑った。
「学問は好きなんだけど、馬術も剣技も全然ダメで、城でもみんなに頼りないって言われてるよ」
「……しろ?」

あ、とイリエは、余計なこと言っちゃったって顔をした。
「あんた、嘘が下手なタイプね」
「そうかも…」

イリエは、今更ごまかせないって思ったみたいで、教えてくれた。
「僕は、あそこのお城に住んでいるんだ。王子だから」
「…………」

にゅにゅーーーっ!って、いがいなてんかいに、ブルーベル叫んじゃった。
「おうじ!王子さまって!!もっとカッコイイいきものじゃないのっ?」
「ごめん…王様の子どもなら、全員王子だから」

でも。イリエが王子様なら、「つりあい」がとれるわ。

「ふぅん。ブルーベルは、海のお城の王女よ」
「…そうなんだ」

イリエはにこりと笑った。
「ブルーベルは、本当に綺麗なお姫様だね」
「…………」

ブルーベルは、にゅにゅにゅーーーっ!!って叫んだ。
「なぁによっ!!チビの14歳のイリエのくせに、ころしもんくーーー!!!」
「…え?あ、あの…。ごめんね」
「なんか、あやまられるのも、ムカツクわっ!!」

ブルーベルは、イリエをビシィって指差してやった。
「ブルーベルはねっ!海のお城の王女様の中でも、いちばんのびしょうじょ!!なんだからねっ!泳ぐのだって、いっちばん!速くてじょうず!なんだからねっ!」
「……そうなんだ。僕とは全然違うんだね」

ブルーベルは、変な八つ当たりをしちゃったけど、イリエは怒らなくって、優しく笑ってるだけだった。
……イリエも、ヘンなの。

「ブルーベルは誰よりも速いから、ひとりでも大丈夫だけど、イリエは王子様のくせに、こんなところで、護衛も付けないでひとりでふらふらしてて大丈夫なの?」
「わからない」
「ちょっと!自分のことなのに、わからないって何よ」

イリエは、また困ったように笑った。
「僕は、別に命を狙われてもいいんだよ。…僕がいなくても、誰も困らないから」
「誰もって、いっぱいいそうだね。誰のことよ」
「お城にいる人でも、国の人でも、誰でも。僕は、第一王子なんだけど、次の王様になるには血筋がよくないから、このまま僕が王様の位を引き継ごうとすると、とても大きな争いが起こってしまうんだ」
「…………」
「だから、僕は王位なんて継ぎたくない。でも、このままじゃ…僕の意志に関係なく、王位を巡っていつか殺し合いになるような争いになってしまうかもしれない。そんなことになるくらいなら、僕はいなくなった方がいいんだよ」

ブルーベルは、気付いた。
きっと、イリエは、ブルーベルに殺されなくたって、自分で死ぬつもりで、海に来ていたんだわ。

死ぬのは、本当は怖いのに。
それでも、自分はいないほうがいいだなんて、本気で思っているんだわ。


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