02

「葉っぱが、少し面白いだろう?」
「にゅ。はっぱ?」

見てみると、蓮の葉は水の中から生えているのに、濡れているように見えないのだ。
その代わりに…、

「葉っぱに、まるい水が、ころころ」
「うん。蓮の葉はね、水を弾くから、ああやって丸くなるんだよ」
「にゅー…」

じーっとブルーベルは水がころころしている大きな葉っぱを見た。

「トトロの傘っぽい」
「あはは、そうだね。実際、いい目の付け所なんだよ。トトロの葉っぱは里芋の葉らしいんだけど、蓮の葉みたいに水を弾くんだ。きっと、傘に向いているんだろうね」
「ブルーベルも欲しいなー。ハスの傘」

大きな葉っぱ。咲き誇る綺麗なピンク色の花。

「今まで見た中で、いちばんおっきいお花なのかな?」
「そうだね。大輪のひまわりよりも大きいかもしれないね」
「ブルーベル、もっとちっちゃかったら、葉っぱでも花でも、上に乗りたくなっちゃったかも。乗ったら沼のどろにどっぷんだけど」
「あはは、僕はそう思っても、臆病な子どもだったから、見ているだけかな」

ふと、ブルーベルは思った。
「乗りたかった人って、昔からけっこうたくさんいたんだよ、きっと」
「そうかもしれないけど…どうして?」
「だって、おしゃかさまが乗るとか思い付くくらい、みんな乗っかってみたかったんだよ」
「ああ…そうか。そうだね」

綺麗な、花。
泥の中から咲き、決して泥に染まらずに。

「蓮の花はね…きっと、優しい花なんだよ」
「にゅ?」

ブルーベルは、蓮の花を眺める正一の顔を見つめた。
「仏教の絵画で、来迎図(らいごうず)っていうのがあるんだよ。お寺によって絵は少しずつ違うんだろうけど、亡くなった人を、仏様が迎えに来てくれるんだ。……行いの良さや罪に応じて、9種類に分かれていてね、善人であるほどに、迎えに来てくれる仏様が多いんだ。罪が大きくなるほどに減ってゆく。……一番罪深い者のところには、仏様は、来ない」
「…………」
「でもね、最後に残された罪深き者のところにも、蓮の台座だけは現れるんだ。僕は、仏教のことは深く知らないけれど…そんなひとの元にも訪れてくれる蓮の花は、とても優しい花なんだな…って思ったんだよ」

(きれいで、やさしい、花…)

「うん。ブルーベルも、そんな気がする」

泥から生まれ、泥に染まらず、しかしさいごの許しの花。

「にゅ…もうちょっとでスタート地点にもどっちゃう」
「結構広く巡っていたんだけど、何だかあっという間だったね。もう1回乗りたい?」
「ううん。これでいいよ」

ブルーベルは、正一を見上げて笑った。
「だって、毎年何度でも来るって、入江が約束してくれたもん」
「……うん。またふたりで来ようか」

手を繋いで、歩き出す。ブルーベルのもう片方の手には、2枚の蓮の花びら。

「ハスの花って、入江みたい」
「え…?」

正一は困った。
「……ピンクの花だったんだけど」
「それでも、ブルーベルには入江なの」

どんなに罪深くても、繋いで導いてくれる手は、優しくて。






いけないことをするブルーベルを、止めてくれる時も。

入江が間に合わなくって、ブルーベルがとりかえしのつかないことをしたときも。


入江はどんなに悲しくても、ブルーベルをせめないから。

それでもすきだよって、きっとブルーベルを抱きしめてくれるから。



ブルーベルが地獄におちるときがきても

入江だけが、ブルーベルをおいかけてきてくれるのよ。



……蓮の花みたいに。







〜Fin.〜

  

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