01

僕は、独りだと思っていた。

木々に囲まれて、この手に鳥たちを遊ばせていても、この時空に存在する人間は、僕ひとりだけ。
僕はそれでもいいのだし…そう在ることしかできないのだろうとも思っていた。

それなのに、僕独りだけの時空に、小さな女の子が辿り付いたから、驚いた。

僕だけの世界に、誰かが入り込めるはずはなかったのだし、…それに、君と僕は、それまで深い関わりを持ったことが無かったから。

初めて出会ったのは、未来の戦いの中で。
きっと君は、知識では僕を白蘭サンの「元親友」とは知っていていたかもしれないけど、多分どうでもいいことだっただろう。

2度目は、虹の代理戦争で。
君は幼いからとバトラーからは外されて、僕は技術屋だったから、やはりこれといった接点は無かった。
もし、記憶してくれているとしたら、白蘭サンが重症を負った時に、僕とデイジーが晴の炎で命を繋いだ、そのときくらいだ。

実際、そうだった。

「僕でよければ、話を聞くよ。でも、君が言いたくないなら、黙っていてもいいよ」
「なにそれ。あんたはどっちがいいの?」
「…あんた、って言われるくらい、僕は影が薄いんだろうなあ」

僕は、苦笑した。

でも、僕はその小さな女の子…ブルーベルに、共通点を見出したのだった。
この子は、白蘭サンに必要とされる自分でありたかったのに、そうではないのだと悲しくて辛くて、必死で涙を押し殺していたから。

白蘭サンの、<特別>になりたい。
掛け替えのない存在になりたい。

その望みの切なさと痛みは、僕がよく知っていることだった。

虹の代理戦争で、ブルーベルは子どもだからという理由で、バトラーから外された。
白蘭サンが瀕死の重症を負っても、同じように子どもでも晴属性で治療に当たれたデイジーとは違って、何もできなかった。

ただ、傍にいる事以外は、何も。

(ブルーベルは、びゃくらんがげんきになっても、かなしかったのよ。よかったねってわらってあげられなかったのよ。ブルーベルがなんにもできなかったから、かなしいっておもったのよ)

(ブルーベルは、なんにもできなくて“やくたたず”だったわ)

(いらない!こんなブルーベルは、いらない。きえちゃえばいいんだ!)


こんな、小さな女の子が、とうとう涙を堪えきれなくて泣きながら、自分など消えてしまえばいいという、それは酷く痛ましいことで。
僕は、その悲しみを共有しながら、ただブルーベルの傍にいた。

「君は、白蘭サンが大好きなんだね」
「……うん」
「白蘭サンもブルーベルを大好きだと思うよ」
「…どうして?ブルーベル、やくにたたなかった」
「きっとね、傍にいてくれるだけで、よかったんだよ」

傍にいるだけでいい。
それは、かつての僕が、白蘭サンから受け取りたい心で、ブルーベルにとっては救いの言葉だった。

でも、ここから先は、僕とブルーベルは大きく異なる。

この小さな女の子の優しさと一途さと激しさは、きっと10年遡った白蘭サンには届いているのだろうと思った。

…あの未来で、長い間白蘭サンの傍にいても、どこまでも無意味だった僕とは、違って。

だから、僕は気休めを言った訳じゃない。
この子は、本当に、傍にいてくれるだけでいいんだ。

独りでいた僕に、無意識に辿り付いてくれたように、この子は優しくてあたたかいのだから。

この子はまだ幼いのに、多くの子どもがただ愛されたいのだと貪欲に求めることだけではなく、既に愛して与えることを知っていた。
あの未来では運命を狂わされてしまったけれども、愛することを知っているこの子は、きっと愛される為に生まれて来て、今もその為にここに居るのだろうと思った。

……僕が、ブルーベルに、このまま傍にいて欲しいとふと願ってしまったように。

本来、この子が還るべき場所に導いて、この手を放す時に、本当はそうしたくないと思ってしまったほどに。

僕は、淡い恋をしたのだろうと、思った。

放したくない。放さなければならないのなら、また会いたい。
まだ中学生だった僕よりも、彼女はずいぶん小さかったのだけれども、また会いたいと願うこと自体が、きっと恋なのだろうと、そう思った。

でも、この子は本当に小さくて、人生の全てはこれからで、もっとたくさんの人と出会って、幼かった日々はきっとあっという間に想い出になる。
その想い出さえ、振り返らないまま走り出して、きっと忘れて大人になる。

そうしてまた、僕は独りになるのだろうと、思った。


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