01

「ハハン、デートでギターの弾き語りですか。ロマンチックですね入江正一」
「言うと思ったんだよ!」

正一は、ブルーベルの手を引いて歩きながら、はぁと溜め息をついた。
「ロマンチックと言うより、気障な感じだよね…」
「どーして?ミュージシャン志望でギターやりたい人は、みんな普通に持ち歩いてるんでしょ?」
「そうだと思うけど、デートにギター持参は、聞いたことがないなあ……」

ふたりが着いたのは、何度も来たことがある大きな公園。
人々の憩いの場ではあるが、場所が広いので混み合うことなく比較的静かなところだ。

「にゅ…」
「どうかしたかい?」
「“だれもいないところ”じゃないんだね」

正一は、日常の街角と、そうではない不思議な場所を行き来出来るようで、ふたりはしばしば、誰もいないふたりきりの空間で時を過ごしていた。

正一が、苦笑した。
「その方がいいのなら、そっちに行こうか?」
「ううん。ブルーベルはここでいいんだけど、お誕生会で入江が、ギャラリーが多いのがイヤみたいなこと言ってたから」

ああ、そのことかと、正一も思い出した。

「デイジーとトリカブト以外が、生温い視線を送っていて、実際に冷やかしてくれたから……」
「それでも入江は歌ってくれたでしょ?ブルーベルは嬉しかったのよ」

見上げるブルーベルが、本当に嬉しそうで、正一も微笑を返した。

「僕は案外極端で頑固だって白蘭サンにはからかわれたんだけど、プロになるのが無理だから趣味にする、…っていうことは出来なかったんだよ。ギターは捨てはしなかったけど、見るのは辛かったから、押し入れの奥に仕舞い込んだんだ。自作していた楽譜のファイルも一緒に。ロックミュージシャンに向いていない自分の声も、嫌いだと思ったよ。だから、仕方無く学校の音楽の時間や校内の合唱コンクールで歌うくらいだったかな」

そんなの、もったいないわと、ブルーベルは言いかけたけれども、言わなかった。

未来で、泳げなくなった時の自分のことはよく覚えていない。
でも、泳げなくなったら……。

(ブルーベルだってきっと、二度とプールも海も、見たくないと思うのよ)


「でも…」
これだけは、伝えたい。

「ブルーベルは、入江の声もギターも、すきなのよ」
「……うん」

正一は、ブルーベルのつぶらな青い瞳が潤んでいることに、気付いていた。
泣かないでと言う代わりに、こう応えた。

「僕は、巧い…と褒められてしまうと、今でも少し困ってしまうんだ。でも、上手とか下手とかじゃなくて…“すき”って言ってくれた君の言葉が、とても嬉しかったんだよ」

にこりと、正一は笑った。
「だから、誰も居ない場所に封じ込めておくんじゃなくて、この公園に来てみたんだ」
「……うん」

ブルーベルは、嬉しかった。
本当に、正一が好きだったもの。なのに閉じ込めてしまったもの。それにもう一度正一が触れてみたいと思ってくれたことが。
自分の「すき」がきっかけになってくれたことが。

木陰に座って、正一がギターのケースを開いた。
「小学生の時にね、お年玉と貯めていたお小遣いを掻き集めて買ったんだ。当然、白蘭サンのギターには足元にも及ばない安物だけど」
「おとしだま?」
「ああ、日本では、お正月になると親や親戚から、特別なお小遣いが子どもに渡されるんだよ。昔はお金じゃなくてお餅だったらしいから、お正月のお祝いだったのかな」
「…………」

いつか、ふたりで鈍行列車に乗って並盛に行った時、正一の家族は正一のことを、覚えていなかった。
今は、どうなのだろう…?

でも、傍らの正一を見ると、懐かしげで穏やかな横顔だった。
「この間、久し振りに弦の張り替えをしたよ。小学生の時は、弦は切れるまでそのままで、中学生の頃は、3ヶ月くらい保たせていたかな。本当にギターが好きな人からすれば、信じられないだろうけどね。弦は消耗品で、毎日弾くのなら2〜3週間で汚れてくるし音の質も落ちる。でも、当時の僕のお小遣いじゃ、3ヶ月に1度がやっとだったんだよ」

(毎日弾くのなら…)

正一は、もう乗り越えた悲しみなのだろう。
でも、話を聞いているブルーベルの方が悲しくなった。
以前聞いた正一の話では、ミュージシャンになりたいという夢を、誰も応援してはくれなかったニュアンスだった。それでも、正一は…

「毎日なら、大変だったよね」
「小学生の時は、手が小さいからそうだったね。中学生になったら、鬼みたいなスケジュールの進学校だったから、弾く時間を確保する方が大変だったよ。それでも、必ず1日10分とか15分とか、少しでも弾くようにしていたんだ。集合住宅だから夜中に弾くなって家族に言われるから、学校から帰ったら、まず夕食じゃなくてギターだったよ」
「…………」

それでも、諦めることしかなかった、夢…


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