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「ブルーベルの夢は、オリンピックで金メダルをとることだったっけ?」
「にゅ。ブルーベルはよく覚えてないんだけど、びゃくらんが言ってた。ブルーベルは、オリンピックの選手だったって。でも、それは“内定”してたんだけど、実際には出られなかったみたい。事故にあって、足が動かなくなっちゃったんだって」

<未来>の記憶を受け取った時、ブルーベルは幼かったので、意味が分からないことも多く、その記憶も曖昧だ。

でも、今なら桔梗から貰った返事が何となく理解出来る気がする。

(そうですね…。あくまでも、私の場合ですが)

(世界ごと憎み恨み、呪っていた…のでしょうね)

ブルーベルにとっては、きっと未来の自分は、人魚のように自由自在に泳ぐことが全てだったのではないかと思う。
なのに、もう二度と泳げなくなったのなら、ブルーベルの世界は真っ暗になってしまうと思うのだ。

気が付いたら、未来のブルーベルは白蘭の傍にいた。
びゃくらん、びゃくらん、と甘えて追いかけ回していた。きっと、ブルーベルを救ってくれたのが白蘭で、ブルーベルが歩くことも走ることも、当然に泳ぐことも全部取り戻してくれたなら、好きになるしかなかったと思うのだ。

水泳が大好きで、夢中だったブルーベルにとっては、きっと周囲の幼稚な男の子なんてどうでもよくて、遅咲きの<未来の初恋>は白蘭だったのかも知れない。
でも、10年遡ったところから始まった、この世界では…

「にゅにゅーーーっ!!!」
「え?僕、何かいけないことを言ったかい?」
「な、何でもないわっ!」

びゃくらんは、すき。だいすき。
…でも、入江への「すき」とは違うの。

「えっと…ね、ブルーベルがまたオリンピックに出るのなんて、当たり前よ!それに“出場することに意義がある”なんてうそよっ!負けたら悔しいわ!泳ぐので負けるブルーベルなんて、自分で許せないわ!ブルーベルは、金メダルしかいらないのっ!」
「…そう」
「にゅっ!何よ入江、自分から話題ふったくせに、反応うすっ!」
「そんなこと、ないよ」

正一は、柔らかく笑った。
「君らしいなって、思ったんだよ」
「そうよ。ブルーベルはブルーベルよ。負けるのがすきな人なんていないと思うけど、ブルーベルはいっぱい負けず嫌いなのよ」
「……そういう君の強さは、僕は好きだし、羨ましいとも思うんだよ」

すき、という言葉にブルーベルはほんのりほっぺたがピンク色になって、でも次の「羨ましい」が不思議だと思った。

「え…?白蘭サンから、何も聞いていないのかい?」
「にゅ。何のこと?」
「…………」

はぁ、と正一は溜め息をついた。
「絶対…白蘭サンならにっこにこに笑ってバラしてると思ったんだけどなあ…」
「だから、何のことよぅ」
「それは…。ごめんね」

いつもなら、これ以上深入りしないブルーベルだが、この「ごめんね」はいつもと違う気がしたのだ。

「ちゃんと、教えてよっ!白蘭がにっこにこでブルーベルにバラしてるはずだって、入江は思ってたんでしょ?だったら、教えてくれたっていいはずだわ!!」
「…………」

正一は、幾らかの沈黙の後、口を開いた。
「ほら、“Happy birthday to you は、ミュージシャンな正チャンのソロでいっちゃおーよ”…なんて言うから」

そう言えば…とブルーベルも思い出した。
「入江が、歌とギターが上手っていう意味じゃないの?」
「……違うよ」

正一は、苦笑した。
「からかわれたんだよ。僕が嫌がるって白蘭サンは知っているのに、あのひとは誰かをつついて遊ぶのが好きな、困ったひとだから」
「ミュージシャンのソロって、どーしてイヤなの?」
「僕が科学者になったのは、妥協なんだよ」

だきょう?
とブルーベルは首を傾げた。

「ああ、本命じゃなかったってことだよ。一番の夢は無理だからって諦めて、たまたま“向いてた”からっていう理由で、科学者を目指すことになったんだ。正直、それ以外の才能は、僕には無かったから」
「…………」

好きなことと向いていることは、ブルーベルには同じことだ。だから、楽しくて堪らない。
でも、少なくとも正一自身は、自分には音楽の才能は無いのだと思って、その夢を捨ててしまったのだ。

それは、とても悲しいことだとブルーベルは思った。


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