01
暗闇の中で、迷っていた。
怖くて、どこに行けばいいのか分からずにいたら、綺麗なひとが声をかけてくれた。
(一緒にいた人は、だあれ?)
(えっと…)
小さいブルーベルは、いちどは照れてしまって、ともだち…だなんてごまかそうと思った。
でも、小さくても、そのひとに笑われてしまっても、嘘をつくのは胸が痛かったのよ。
笑われるかも知れないって思ったけど、本当のことを言ったの。
(ブルーベルの…こいびと)
(…そう)
そのひとは、大笑いなんかしなかった。優しく微笑んでくれた。
(ブルーベル…というのね。可愛らしいお名前。貴女には、恋人がいるのね)
(うん…)
(今頃、貴女を心配して捜しているのかしら)
入江なら、そうしてくれると思ったわ。
ブルーベルが、どんな暗闇にいても、入江なら必ず辿り付いてくれる…って。
(きっと、さがしてくれてる…)
(そう…羨ましいわ)
ブルーベルは、不思議だった。
このひとの恋人は、そうじゃないのかしら…?
一緒に歩きながら、そのひとは尋ねた。
(彼は、どんなひと?)
……ブルーベルは、何て答えたかしら…?
(貴女は、彼のどんなところが好き?)
(にゅ!)
ちょっきゅう!!
ブルーベル、慌てちゃって、でも、一所懸命言葉を探したわ。
(…や、やさしい…の)
(優しいひとなら、いくらでもいるわ。…どうして、貴女は彼がいいの?)
ブルーベルは、困っちゃった。
だって、このひとの言う通りだわ。
ブルーベルは、どうして、入江がいいのかしら…?
(……ブルーベルの、おうじさま、だから…)
そうなれるように、努力するよ、…なんて。
入江は、何にも分かってないって思ったわ。
そのまんまで、いいのに。
(ブルーベルは、入江の、おひめさまなの…)
(そう…)
綺麗なひとは、綺麗に笑った。
(羨ましいわ)
そう言って、消えてしまった。
ブルーベルは、また暗闇の中にひとりぼっち。
(やだ…!たすけて、たすけて…っ!)
ブルーベルは、泣きながら叫んだ。
(入江、たすけて、入江…っ!!)
(僕は、此処にいるよ)
優しい、声がした。
入江は、ブルーベルに話しかける声も、優しいのよ。
(おいで)
そこはもう、暗闇じゃなかった。
森の向こう。
ブルーベルも夢中で走ったけど、入江のほうからも近付いてきてくれた。
ああ。ちょっとムカツクわ。
ブルーベルは走ってるのに、入江が歩いてるのが、いかにも大人の余裕!って感じで。
でも、手を差し伸べてくれたのは、入江の方が先で、だから許してあげるって、思ったの。
(おいで。僕の、ブルーベル)
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