01

日本ではGWと言われるこの時期、日本にやってきたブルーベルは不機嫌だった。

「にゅー。クレイジー。どこにいってもむれてばっかり。にほんじんは、むれるのがしゅみなの?」
「イタリアの観光地も似たようなものでしょう。世界中から人が集まりますから」
「でも、にほんじんはにほんじんだけでむれるじゃない」
「国土はたいして変わらなくても、人口がイタリアの倍ですからねえ」

でも、皆知っていた。ブルーベルの不機嫌の原因は、
「アハハハ、ブルーベル。王子様がいないからって、せっかくの旅行をしかめ面で過ごすのは損だよ?」
「だっ、誰が「正チャンがブルーベルの王子様だよ♪」

言い終わる前に白蘭に遮られて、ブルーベルは真っ赤になった。
そう。ブルーベルの不満は、せっかく日本人が休みで群れまくるGWの日本に「来てあげた」のに、正一がその旅行に同行することを断った所為だ。
曰く、他に行くところがあるから。

「仕方がありませんよ。日本独自の長期休暇だからこそ、彼にも用事があるのでしょう」
桔梗はそう言うが、だからこそブルーベルは納得がいかないのだ。
せめて1日や2日都合を付けてくれたっていいのに……とどうしても思ってしまう。

「せっかくのグランクラスですから、優雅に楽しみましょう」
「じゆうせきで、もみくちゃになるんでなければ、フツーのしていせきでもいいわ」
「おい電波。いー加減にしろ。王子に振られたからって当たってんじゃねーよ」
「にゅ!べつに、ふられ…」

言い返そうとしたブルーベルは、はっとした。

(入江…?)

ブルーベルは立ち尽くした。
駅構内には、これだけたくさんの人が溢れかえっているのに、正一の周りだけ不思議に人がいないように見えたのだ。

「おい!はぐれんぞ電波」
電波じゃないと言い返すこともせず、ブルーベルは駆け出した。

「入江!」

さっき通りかかったとき、こんなに閑散とした改札口があっただろうか?
駅員もひとりしかいない。…違う、「わざわざ駅員がいる」のだ。

「入江!どこに行くのよっ!!」
息を切らして走ってゆくと、正一が驚いた表情で振り返った。
「せっかく旅行に誘ってあげたのに、ばかーーー!!!」

「……ブルーベル」
ぽかぽかと小さな拳で叩くブルーベルを抱き止めて、正一は言った。

「よく…僕が見えたね」
「え…?」

正一が、微苦笑した。
「君がそういうひとだから、僕は君を好きになったのかな」
「…………」

にゅーっと叫んで、ブルーベルは、また拳で正一を叩いた。
「入江のくせに、ころしもんくーーー!!!それに、“そういうひと”ってなによっ」
「僕がそこにいることを、気付いてくれるひと…かな」

ブルーベルは、自分だけほっぺた赤くなるのズルイ!と思いながら正一を見上げた。
「入江!でんぱなこといってないで、こっちきてよっ!」
「…ダメだよ。でも、白蘭サンたちとはぐれないように、近くまで送っていってあげる」
「それじゃダメっ!おくっていったら、入江はまたどっかにいなくなっちゃうんでしょ?」

正一は、困ったように笑った。
「…ごめんね」
「あやまるのなんか、いらないっ!ブルーベルは…」

きっと、真っ直ぐに言わなきゃ、伝わらない。
でも、真っ直ぐに言えば、正一は分かってくれる。

「ブルーベルは、入江にあいたくてにほんにきたんだから!」
「そう」
「ちょっと入江!はんのう、うすっ!」
「そんなこと、ないよ」

正一は、ふわりとブルーベルを抱き締めた。
「嬉しいって、思っているよ。…君はいつも、僕を独りにしないように、辿り付いてくれるから」

とくん、とくん。
自分の心臓の音が、聞こえるような気がする。

抱きしめて貰うのは、ほっぺたが火照る。
でも、ブルーベルはふと気付いた。

(僕を独りにしないように)

「入江は…ブルーベルがいないと、ひとりなの…?」

親友のびゃくらんだって、ともだちのツナだって、その守護者だって、いっぱいいるはずなのに…

でも、いつかも言われた事があるような気がする。
…そうだ、あのときは、正一が湖の畔で鳥と一緒にいて…

(だって、僕は独りだったから。でも、君が来てくれて、僕は独りじゃなくなったから。君は悪い子じゃないし、要らない子じゃないよ)

(僕も鳥は好きだよ。……でも、僕は鳥にはなれない)


「ただ…。君の気持ちは嬉しいけれど、僕はこれから遠くに行くんだ。…とても、遠くに」

ブルーベルは、はっとした。
以前から、正一はそう言っている。いつか遠いところにゆくと。正一は、ブルーベルが嫌がるようなら、無理に連れて行くことは出来ないと。

ブルーベルは、言った。

「…行くわ」

今、ここで正一の手を放してはいけない気がした。


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