01

今週末は、逢えない。

遠距離恋愛(?)なのにほぼ毎週デートしているのだから、かなり逢えている方だと思う。
でも、寂しい。次の週末が、遠く思えて。

週末と同じくらい、正一の優しい笑顔も遠く思えて。

それなのに、外はしとしとと雨。
「にゅ…。ブルーベル、いくら雨属性だからって、気持ちまでブルーになっちゃう」

思い出す。
まだブルーベルがとても小さくて、正一も中学生だった頃。
あの頃は、正一と出会えるのは森の中で。そして、正一なりに意志はあったのかも知れないけれども、ブルーベルにしてみれば、偶然という不確かなものに頼るしかなかった。

でも、あの日は、雨の日だから逢えないのかなあと、寂しい気持ちで窓を開けたら、青い傘が近付いてくるのが見えたのだ。

森を出て、正一の方から迎えに来てくれたのが嬉しかった。
自分は傘を差さずに飛び出して…そのまま、手を繋いで、正一は雨の日に似合う青い花のところに連れて行ってくれた。

アジサイが咲く、誰もいない、不思議な場所に。

ブルーベルは、あの日のように窓を開けた。
正一は今日は逢えないと言ったのだから、迎えに来てくれるはずもないのに。
青い傘が、そこに在るはずもないのに。

「え…?」

ブルーベルは、雨でけぶる向こうに、青い傘を見たような気がした。
それは、スッと森の中へ消えてゆく。

「入江…?」

そんなはずはない。
それでも、ブルーベルは自分の部屋を飛び出していた。
お気に入りの水色の傘を差して、森へと走った。

「入江!待ってよ!」

今日、来てくれるはずはない。それなのに、ブルーベルには、遠ざかっていく青い傘を差しているのは、正一なのだとどうしてか確信したのだ。

幸いにして、青い傘の少年は歩いていて、ブルーベルは走っていたので、間近に追い着くことが出来た。

(少年…?)

ブルーベルは、はっとした。
正一は、大人なのに。傘を差しているのは、ブルーベルよりも小柄な少年なのだ。

「入江…」

ブルーベルの声に、青い傘の少年がやっと振り返った。

「誰…?」

青い傘の少年が、ブルーベルを見つめた。

紅茶色の髪。グリーンアイズ。
眼鏡をかけた顔はあどけなく。

「僕を、知っているの?」

ブルーベルは、何と答えれば良いのか分からなかった。
「きゃ…!」

視界が暗転し、落下する感覚に、ブルーベルは悲鳴を上げた。




「…誰?」

ブルーベルは、少年の声に我に返った。
そこは、アスファルトの駐車場だった。

見上げれば、集合住宅……多分、日本で言うマンションなのだとブルーベルは気付いた。
そうだ。ここは、日本だ。

そして、覚えがある。
このマンションは、少し離れたところからだけれども、見た事がある。……鈍行列車に乗って、正一は自分を覚えていない家族に会いに行った。
多分、そのときに正一が住んでいたと言ったマンションの、駐車場がここなのだ。

「誰?」

もう一度傍らの少年が尋ねて、やっとブルーベルは答えた。

「……ブルーベルよ」
「おねえさんは、外国から来たの?」
「ついさっきまでは…イタリアにいたわ」
「そう…不思議だね」

少年は、透き通る緑の瞳でブルーベルを見た。

「ここには、誰も入ってこられないはずなんだけどな」
「どういうこと…?」
「僕が、創り出した夢の中だからだよ」

ブルーベルは気付いた。
聞こえるのは、雨の音だけ。道路からは車の音もせず、通りかかる人もいない。

「……そうだよ。僕しかいないはずだったんだ」

少年は、ブルーベルの心を読んだように言った。


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