02

ブルーベルにも、自分がかなりぎこちなくなっている自覚はあった。
ダメよ…!こんなんじゃ、ダメよ。しっかりするのよブルーベル!!

ブルーベルの方からロマンチックな感じがいいと誘っておいて、ロマンチックとは程遠くデートを台無しにしてしまうなんて、ダメだと思う。

「えっと…入江!」
「何だい?」
「あの映画って、入江からみて、どうだった?」

ズバリきた…と正一は言葉を探した。
「途中色々あったけど、主人公が幸せになれたから、良かったんじゃないかな」

とりあえず、無難なラインで。

「入江はおとなでしょ?ああいうのって、おもしろい?」
「ん…。僕は、揉める恋愛は良く分からないんだ。勿論、精一杯恋をしても、それでも時が流れて、お互いが変わっていったり遠距離になってしまったりして、別れが来てしまう恋は、世の中にはたくさんあるんだけど…。でも、どっち付かずに迷ったり曖昧にしたり、くっついたり別れたり…は、僕にはダメかな」

こう言ってしまうと、映画が面白くなかったということになってしまうのかも知れないが、正一はブルーベルには正直に自分の気持ちを伝えたいのだし、分かって欲しいと思ったのだ。

「僕は、好きになったらずっとひとりのひとを好きだと想い続けたいし、時と共にそのひとが変わってゆくなら、その変化ごと好きだと想っていられる自分でありたい。……贅沢かも知れないけど、僕もきっと時の流れと共に変わっていってしまうけど、そんな僕の事も、ずっと好きでいて欲しい…って、同じことを望んでしまうんだ」

眼鏡の向こうの緑色の瞳が、柔らかく笑った。

「だから、僕は君だけだよ。ブルーベル」
「…………」

ブルーベルは、ボンと赤くなって叫んだ。

「にゅーーーっ!入江のくせに、おとなのよゆう!!ころしもんくーーー!!!」
「いや…実際、僕はおとなだし…」

くすりと、正一は笑った。
「僕が中学生の頃からね、君がしきりに僕のことをおとなだって言うものだから、僕なりに努力したんだよ。僕の年齢だと、日本では少年気分のままのひともたくさんいると思うんだけど、早い時期から君が僕をおとなだと信頼してくれていたから、そうでありたいと思いながら、何年も僕は君と一緒にいたんだよ」

やっぱり、ころしもんくーーー!!!
とブルーベルは思ったけれども、今度は叫ばなかった。

正一の言葉が殺し文句に聞こえるのは、恋愛に対して巧みだからではない。
ただに、誠実だからだ。その偽りのない心を、ブルーベルに注いでくれるからだ。

時は、流れた。
小さかったブルーベルは、まだまだ子どもだけれども、10歳になった。中学生だった正一は、本当に大人になった。

それでも、ふたりを繋ぐ“唯一で特別”の心はそのままに。

ふと、ブルーベルは思った。
この時間軸では、ブルーベルを選んで、大切にしてくれている正一だ。でも、<あの未来>では、どうだったのだろう…?

ブルーベルには、正一との恋が壊れてしまうなんて、考えられない。
でも、正一はそんな失恋を知っているのだろうか?

……きっと、知っている。

もう、終わったことなのに、気にしてしまうブルーベルは、自分はわがままなのだと思った。

「入江、は…」

わがままでも。このまま不安な顔をしているより、ずっといいのよ。

「こわれてしまった恋を、しってる…?」

俯いて、視線も合わせられないまま、こんな質問は狡い。
そう思いながら、正一が黙っている沈黙を感じているのは、ブルーベルにはとても長い時間に思えた。

「…知っているよ」
「…………」
「この時間軸なら、未来の記憶を受け取るまでは、僕はチビだった見かけ通りに奥手で、その子には挨拶をするのにも緊張してしまうほどで、告白なんて出来なかったよ」
「…………」
「あの未来の世界では、僕がアメリカの大学に渡る時に、付き合っていた女の子と別れたんだ。遠距離で繋がっていられる自信が無かったし、彼女も優秀なひとだったから、日本の大学でもその先でも、立派に活躍出来るはずで…」

正一は言葉を切って、何処か遠くを見つめるように、静かに言った。

「僕がいなくても、いつか幸せになれるひとだと思ったんだ」


(僕がいなくても)


それは、透き通るようにかなしいことばで。
ブルーベルの視界が霞んだ。

「…ごめんね。せっかくのデートなのに、君を泣かせてしまって」

ブルーベルは、首を振った。
すきで、遅く生まれて来た訳じゃない。
すきで、遅く出会った訳じゃない。

…でも。


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