02

「ブルーベルは…。あの、わんことおなじだったのよ」

わんこ?と正一はブルーベルの視線を追った。
広い芝生で、飼い主らしい人物が遠くに放ったボールを、犬が懸命に追いかけて、そして咥えて戻ってくる。
飼い主に頭を撫でて褒めて貰うと、とても得意そうで、嬉しそうだ。

「ブルーベルはわんこじゃないけど、でも、きもちはわかるのよ。あのわんこは、はじめからぜんぶじょうずにできたわけじゃないとおもうの。でもね、ごほうびをもらいながらおしえてもらって、だからもっとがんばろうっておもって、いまはあんなにじょうずなのよ。もう、かいぬしさんのことがだいすきだから、これからはなんでもよくおぼえて、かいぬしさんにほめてもらえるのなら、なんだってするのよ」


(なんだって、するのよ)


ブルーベルは、はっとした。
今話したことは、今の自分のことではないと気付いたのだ。

幼いから、ぼんやりとしか思い出せない、<未来>の記憶。
それでも、これだけはよく覚えているのだ。

(ねえねえ、びゃくらん。ブルーベル、じょうずにころせたでしょ?)

(上手になったね、ブルーベル)
(これから、僕たちは、もっともっとたくさん…)

白くて、綺麗で、おにいちゃんみたいなひとが、褒めてくれて、笑った。

(たくさん、殺すんだからね…?)




「ブルーベル?」

正一の声に、ブルーベルは引き戻された。
……この、世界に。

「入江…」

優しい、緑の瞳がブルーベルを見つめている。
「おにぎり、また作ってきてくれたら嬉しいな」
「さんかくにできないから、まるくなっちゃうよ?」
「丸くていいよ。今日だって、ブルーベルは頑張って作ってきてくれたんだろう?」
「うん…」

正一が、笑ってくれるから、喜んでくれるから、また頑張ってみようと思える。
正一の願い事なら、何でも叶えてあげたいと思う。

…だって、入江のいうとおりなのよ。

(また頑張ろうって思えるし、褒めてくれたひとを好きになれる)

入江のことは、ほめてくれるまえから、すきになっていたわ。
…それでも、ほめてもらえたら、もっともっとすきになって、すきだからもっともっとがんばろうって、ブルーベルはおもうのよ。

でも、白蘭は…

(上手だね、ブルーベル)

ころすことが、すきだったわけじゃないわ。
ブルーベルは、びゃくらんが、すきだっただけよ。
びゃくらんにほめてもらえることが、びゃくらんにすきになってもらえることが、ブルーベルにはいちばんたいせつなことで、だからいっぱいころしたのよ。


今でも、ブルーベルには分からない。
白蘭に褒めてもらえることが全てだったあの頃の、何がいけなかったのか。人間を殺すことの、何がいけないのか、わからない。
だから、この世界では殺さなくなったのは、白蘭がブルーベルに殺しておいでと笑うことがなくなってしまったからだ。

きっと、殺してきても、もう白蘭は褒めてくれないような気がするからだ。

でも、もうひとつ、いまのブルーベルにたいせつなことは…

(ブルーベルがまたころしたら、入江がくるしいおかおをするのよ)


「ブルーベル、どうかした?」
「ううん、なんでもない!」

ほっぺたが、あかくなる、けど。

「あ…あのねっ、ブルーベルは、ほめてもらうのがだいすきだから、入江にほめてもらえたらうれしいし、入江のこと、…もっと、すきに、なるわ!」
「そう」
「ちょっと入江!いまブルーベル、いっぱいがんばっていったのに、はんのううすっ!」
「……そんなこと、ないよ」

にこりと正一が笑った。
「頑張ってくれるブルーベルは、好きだよ。でもね…」

正一の手が、ブルーベルのお気に入りの帽子を、ぽんぽんとした。
「そのままの君も、僕は大好きだよ」
「…………」

広い公園に、ブルーベルの声が響き渡った。
「にゅにゅーーーっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「あはは、ごめんね」
「ばかーっ!“すき”をごめんねしたら、ゆるさないからーっ!!」
「じゃあ、取り消すから、許してくれないかな」



そうやって、入江がわらってくれるから。

ブルーベルは入江がもっとだいすきになって。

入江がかなしむことは、もうブルーベルはしないから。


……だから、やさしくわらってるまんまでいてね?入江。






〜Fin.〜
 

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