02
「びゃくらん」
「ん?」
ブルーベルは、そっと白蘭の大きな手を握った。
正一より、ひとまわり大きいのだと思った。でも、あたたかくて、ブルーベルの手と比べればずっと大きいのは、同じ。
同じなのに、ブルーベルが白蘭の手に触れれば、頬の赤みは引いていく。
「どうしたんだい?」
「…どきどき、しない」
ブルーベルは、自分でも不思議で、白蘭を見上げた。
「ブルーベル、びゃくらんのこと、だいすきよ。てをつなぐのも、うれしくって、たのしくって、すきよ。でも、どきどきするのとは、ちがうきがするの」
白蘭は、少し驚いた顔をした。そして、くすりと笑った。
「僕は、ブルーベルのお兄ちゃんみたいな家族だからね。手を繋ぐのは仲良しの証拠で、安心するよね」
「…うん」
だいすきだから、安心する。いつまでも、一緒にいたくなる、そんなきもち。
「ブルーベルは、正チャンならドキドキするのかな?」
「にゅ!」
ブルーベルは、ボンと真っ赤になった。
「べ…べつにっ!ブルーベルは、入江よりもずっと、びゃくらんのほうが、すきなんだから!」
一気に叫んで、ブルーベルは泣きたくなった。
いちばんすきなのは、びゃくらんよ。そんなのきまってるのに、どうして…?
白蘭は、にこりと笑った。
「好きな人は、たくさんいたっていいんだよ。ドキドキするひともしないひとも」
「……そうなの?」
「そうだよ。だからまた、正チャンに会えるといいね」
(君と、おなじなまえの花を、見に行こうか)
それは、いつ?
ブルーベルとおなじなまえのはなって、どんなおはななの?
いつ、入江はブルーベルにあいにきてくれるの…?
コツコツ、と音がして、ブルーベルはそちらを見た。小鳥が、窓枠をつついている。
ブルーベルは、はっとした。
「木の実をくれた、ことりさん…?」
ブルーベルが窓を開けると、小鳥はチチッと鳴いてブルーベルの手に止まり、そして再び飛び去っていった。…森の方へ。
ブルーベルは、部屋を飛び出すと、小鳥が飛んでいった方向へと走った。
「入江…っ!」
木漏れ日が揺れる森の中で。
緑の瞳の少年が笑っていた。
「また会えたね、ブルーベル」
正一の手が差し出されて、ブルーベルはその手を取った。
とくん、と心臓が跳ねた。
とくん、とくん、とくん。
ほっぺたも、熱くて。
(どきどき、する…)
「どうかしたかい?」
「な、なんでもないもんっ!」
「…そう」
柔らかく笑って、それ以上何も訊かないから。
正一はおとななのだと、ブルーベルは跳ねる心臓を感じながら正一を見上げた。
「行こうか」
「…どこ?」
「約束しただろう?君と同じ名前の花を見に行こうって」
ブルーベルは、正一に手を引かれて歩き出した。
……いつまでも、付いていきたくなる、ふしぎな、きもち。
繋いだ手は、あたたかくて、安心するのに。
入江ととこうするのは、どうしてかわからないけど、ほっぺたがあつくなって…
…どきどき、するの。
〜Fin.〜
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[図書室61]
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