02

「ありがとう、ブルーベル」
「え…?」

優しく、正一が笑った。
「努力したことは、無駄じゃなかったって、今なら思えるんだ。難しい曲は無理だけど、自分の指は思ったよりもずっとギターを覚えていてね、君が好きだって言ってくれるのなら、僕は君の為にギターを弾くし、君の為に歌うよ」
「…………」
「どうかしたかい?」

ブルーベルは、ほっぺたが熱いと思いながら小さな声で言った。

「入江…。ころしもんくだわ」
「そうかい?」

くすりと、正一は笑った。
「今日は、入江のくせに、って言わないんだね」
「にゅーっ!なんか、いいづらかったのよっ!」

ブルーベルが叫んでいるうちに、ぽろんと優しくギターの音が鳴る。
それに、正一の歌声が続いた。

ブルーベルは、正一の隣でその音色と声を聞きながら、やはり正一は声もギターも全部優しいのだと思った。

……全部、すきなのだと思った。

(僕は君の為にギターを弾くし、君の為に歌うよ)

ずっと、ブルーベルの為だけにしてって思うのは、ブルーベルのわがまま…?

「…もう、終わり?」
「うん。一曲終わったよ」
「一曲じゃなくて、いっぱいがいいわ」
「いっぱいってどのくらい?」
「いっぱいは、いっぱいなのっ」

正一は、微苦笑した。
「ごめんね。長い間弾いていなかったから、レパートリーがそんなに多くないんだ。覚えているのだけでいいかな」
「……うん」

ブルーベルは、その歌を聴きながら、正一の歌声は、正一そのもののようだと思った。

確かに、正一の声はロックの雰囲気ではないのだし、歌ってくれる曲もバラードが殆どだ。

でも、優しくて、ほっとする柔らかな声。
なのに、不思議にトクンと胸が跳ねる声。

いつまでも、一緒にいたくなる、傍で聞いていたくなる声…

「…これで、いいかな」

正一がギターの最後のワンフレーズを弾き終えて尋ねた。
ブルーベルは、ありがとうと答えようとして、ふと気付いた。

「入江、ロックミュージシャンになりたかったのに、そういういかにもな曲は避けたの?」

緑の瞳が驚いたようにブルーベルを見たから、ブルーベルは後悔した。
また、自分は無神経な事を言ったのだろうか。

「うん…まあ、そうかな。あんまりデート向きじゃないし」

困ったように笑った、その答えが本当かどうかはわからなかったけれども、ブルーベルは正一が気を悪くしていないのなら、他にも知りたいことがあった。

「世の中、失恋ソングだらけだわ。ハッピーな曲より絶対そっちのが多いと思うわ。でも、そういうのがほとんどなかったも同じ?」
「あはは、それはそうだね。僕は、君と一緒にいて幸せだよって伝えたかったから」


(本当は…。“ブルーベルの傍で、入江がずっと幸せでいてくれますように”…だったの)

(やっぱり、その願い事なら、おまじないをかけなくてもきっと叶うよ、ブルーベル)

「にゅ…。思い切り、伝わってるわ…」
「じゃあ、嬉しいよ」

ブルーベルも、その正一の笑顔が嬉しくて。
もうひとつ、リクエストしてみたくなった。

「入江、さっき、ギターと一緒に自分で作った曲もしまっちゃったって言ってたでしょ?オリジナルの曲も、歌ってくれる?」
「…………」

正一は、黙った。そして、言った。

「……ごめんね」
「どうして?プロじゃなくても、入江が心を込めて作った曲なら、ブルーベルは好きになれると思うわ」
「……ごめんね」

謝罪を惜しまない日本人代表の正一だけれども、二度もごめんねを繰り返すことはなかったと思う。
「にゅーっ!どーしてよぅ。ギターみたいに、捨てられなかったのなら、入江にとっては大切なものなんでしょ?」
「今日にでも処分するよ」
「…え?どうして?そんなことしちゃダメだよ!」
「……そうした方が、いいんだよ」

どうしてと、ブルーベルもまた繰り返そうとして、

(世の中、失恋ソングだらけだわ)

ブルーベルは、はっとした。


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