02

「どうして?ブルーベルは、入江の歌もギターも上手だと思ったわ」
「あの程度なら誰でも歌えるし、ギターもそうだよ。僕には、ブルーベルみたいな鮮やかな才能はないんだ」
「それでも、ブルーベルは入江の声もギターも好きよ。お誕生会だけじゃなくって、また聞きたいわ。科学者はいかにも入江にはまってるし、すごい才能だと思うけど、本当にやりたい事を目指した方が、ずっと幸せよ。今からでも、遅くないわ」

正一は、またしばらく黙った。
だから、ブルーベルは、余計なことを言ったのかもしれないと、後悔した。確かに、ブルーベルは努力もしたけれども、その努力があっという間に結果に繋がるような、突出した才能が有るのは事実なのだから。

「ミュージシャンになりたいなんて、大抵の親は反対するし…そもそもまともに相手にしないものだよ。なんて言うかな…笑って、はいはいと流されるような感じかな。僕は、それで腹を立ててね、進路調査書に“ミュージシャンになれなかったら死んでやる!”って書いて、教科書を全部ゴミ箱に捨ててやったんだよ」
「…………」

入江…案外、過激だわ。

「それでね、僕は10年後にタイムスリップしてみたんだ。僕が本当にミュージシャンになれているか知りたくてね。……でも、僕は売れないアマチュアのままで、どうやらアメリカン・ギャングに騙されて、お金のトラブルに巻き込まれていたんだよ」
「…………」
「本当に、よくよく僕はミュージシャンには向いていないんだなあって、思い知らされたよ。きっとあの並行世界の僕だって、10年間頑張ったし努力し続けていたのに、それでも夢は叶わなかったんだ…って。だから、僕のは白蘭サンと違って安物のギターだったけど、自宅の押し入れに仕舞い込んで、二度と触れることはなかったよ」

やはり、ブルーベルは後悔した。
努力が報われる事自体が、稀なのだ。
遠い星のような夢をこの手に掴める人間の方が、少ないのだ。それが、大きな夢であればあるほどに。

「ブルーベル、そんな泣きそうな顔をしないで。僕は確かに、以前の夢のことで今でもからかう白蘭サンには勘弁して欲しいと思っているけれど、君には君の夢を叶えて欲しいし、笑っていて欲しいんだ」

にこりと、正一は笑った。
「金メダル、オリンピックでとっておいで。夢なんだろう?君の夢が叶うのなら、僕は君の願い通りに、君の傍で幸せだって言えるよ」

ブルーベルは、真っ赤になった。

(本当は…。“ブルーベルの傍で、入江がずっと幸せでいてくれますように”…だったの)

「にゅ…。がんばる」
「うん。応援しているよ」
「でも、ブルーベル、もうひとつ入江にお願い事聞いて貰えたら、もっと頑張れるのよ」
「何だい?」

ブルーベルは、迷ったけれども、言ってみた。

「プロデビュー出来なくたって、ブルーベルは入江の歌が好きなのよ。今度ね、オリンピックじゃないけど、水泳の国際大会があるの。それでブルーベルが金メダルとったら、お祝いのプレゼントに、入江の歌が聴きたいわ」
「…………」

正一は、遠い目になった。

「それ…。何て一方的な、君の勝ちゲー?」
「ゲームじゃないもん!ブルーベルは、何でもゲームのびゃくらんじゃないもん。金メダルも入江の歌も、ブルーベルは全部本気だもんっ」

ブルーベルが一所懸命に言っているのが伝わってきて、正一は微笑した。

「…いいよ。僕は、君の為なら歌うよ」
「…………」

優しい、ほほえみに。ブルーベルは真っ赤になって、誕生会の時もそうだったように、「入江のくせにころしもんくーーー!!!」が出なかった。


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そして、正一は白蘭に連れられて、競泳の大会を見に行った。

「……本当に、圧倒的なんですね」
「でしょ?本当、水の申し子って感じでさ、ぶっちぎり1位」
笑って白蘭が言った。
プールからも観覧席が見えるらしく、ブルーベルも手を振って笑う。

「あんな、人魚みたいな子からね、水泳を取り上げる運命の世界は、あの子には非道く残酷なものだったんだよ。正チャンはあの世界を守ろうとしたけど、あの子も…他の真六弔花にとっても、あの世界は地獄だったんだ」
「…………」
「だからって、僕がしたことを正当化するつもりはないよ。この世界では、ブルーベルの運命が狂わないように、僕が導いてあげるから、正チャンも安心してよ」
「…はい」

ブルーベルは、3つ種目での金メダルを獲得して、満面の笑顔で戻って来た。
えらいね、すごいね、と白蘭に褒めてもらえて嬉しそうで、得意そうに正一の元に走った。

「ね、ブルーベル、すごいでしょ?」
「うん。おめでとう」

にゅー、とブルーベルはむくれた。
「入江、反応うすっ!」
「そんなことはないよ。君が夢を叶えてくれるのは、僕も嬉しいんだから」

正一は、白蘭の姿が無いことに気付いて、誕生会の時のように気を利かせられたのだと苦笑した。

「なぁに、ビミョーな感じに笑ってるのよぅ。すごいねとかぶっちぎりだねとか、言うことないのっ?」
「……綺麗だね」

柔らかく正一は笑った。
「人魚みたいに泳ぐ君は、とても綺麗だって思いながら、見ていたよ」
「…………」

ブルーベルは、今度こそ叫んだ。
「にゅにゅーーーっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「そうかい?僕は、本当にそう思ったんだよ」

正一が、優しく笑って。ブルーベルが真っ赤になって。




……次のデートには、人魚姫の為に歌を。





〜Fin.〜
 

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