02

「もーっ!好き勝手言ってっ!入江は、パーティーをやることは知らないんだから来ないわ!」

白蘭が首を傾げた。
「だからさあ、教えてあげれば、きっと来てくれたと思うよ」
「……そんなの、わかんないもの」

いつもの、優しくて、でも困ったように笑って「ごめんね」という正一を、見たくない。

正一は、ブルーベルが本当に幼い頃は、森の中でしか会えなかったのだ。
どこからか現れて、気が付くと姿を消している不思議な少年。

その後、ふたりの距離が少しずつ近付いて、正一はデートの日は屋敷まで迎えに来てくれるようになったけれども、正一がどこから来るのか、ブルーベルは知らなかった。
そして、陽が落ちる前にブルーベルを屋敷まで送り届けてくれる。

そのあと、正一がどこに行くのか、或いは帰るのか。…帰る場所はあるのか。ブルーベルは知らないまま。
訊いてはいけない、訊けばまた「ごめんね」と困ったように笑って、どこかへ姿を消してしまうのではないか、そんな気がしてしまって…

それに、正一が夜に訪ねてきてくれた前例はあまりない。
いちどユニの誕生会に顔を出したほかは、胆試し的なお泊まり会の時だけだ。

「お泊まり会…」

そう…あのときは、胆試しで迷子になって、入江やトリカブトを捜し回って疲れちゃって、覚えてないけど抱っこされて戻って来て、そのあとベッドに運ばれたらしいけど、怖い夢を見たような気がして…

(安心出来るなら、朝まで僕と一緒にいていいよ)
(……うん)

朝まで、入江と同じベッドでねんね…!!

「にゅにゅにゅーーーっ!!!」
「茹で蛸になって、なんの電波を受信してんだよ」
「幸せ過ぎるお花畑の電波でしょう」
「桔梗まで電波言わないーーー!!!」

幸せ…といえば、幸せな恋だと思う。
でも、ブルーベルは今まで自分の誕生日を告げたことがなかったのだ。正一の誕生日を尋ねてみたこともない。

いつか、自分を覚えてもいない家族の姿を見るために、独りで鈍行列車に乗ろうとしていた正一。
ブルーベルは、そんな正一に誕生日を訊いていいのかどうかわからなかった。
だから、自分の誕生日をお祝いして欲しいともなかなか言えなくて…

でも、10歳という節目だから、本当は言いたかったのだ。小さな、こどもの自分。でもやっと、二桁の年齢になって、ほんの少しだけ、大人に近付けるから…

「僕、正チャンの誕生日知ってるけど?」
「にゅ?」
ブルーベルはきょとんとして、白蘭はにっこーと笑った。

「12/3だよ」
「…………」
「サプライズでプレゼントあげちゃうと喜んでくれるかもね♪」

にゅにゅーっとブルーベルは叫んだ。
「いくら親友だからってっ!ブルーベル、気を遣って損しちゃったじゃないのーっ!!」


そして、午後6時。
「うっわー、ケーキおいしそうだねー♪」
「白蘭様。主役はブルーベルです。節度を持って食べて下さい」

言いながら、桔梗がローソクを立ててゆく。

「どすどすだわ…」
「これが華やかでよかったのでは?…では、火を付けたら照明を落としましょうか」

ブルーベルは、黙っていた。やはり、お祝いに来てと、本当の気持ちを、伝えて置けばよかった。


「…今晩は。間に合ったのかな。誕生日おめでとう、ブルーベル」

メイドに案内されて現れた正一の姿に、

「さっすがブルーベルの王子様だね正チャン」
「ハハン、先程まで沈んでいたお姫様のお顔の輝きが違います」
「そこ、うるさあぁぁい!!」

ブルーベルは真っ赤になって、なかなかお礼の言葉を言えなかった。

正一が、にこりと笑った。
「ひょっとしたら、パーティーをするのかなあって思ったんだよ。プレゼントだけでも受け取ってくれないかな」
「わあ…」

ブルーベルは、その花束を受け取った。…青い花。
「この花、何ていうの?」
「デルフィニウムだよ」

透き通る、美しいマリンブルー。

「僕、以前は青い花って言ったらブルースターと忘れな草しか思い浮かばないって言ったけど、探せばあるものだね。ブルーベルは、きっとこういう青が好きなんだろうなって思ったんだ」
「……ありがとう」

ブルーベルは、火照る頬を感じながら、「ごめんね」もなかなか言えないけれども、「ありがとう」もあまり言ったことがないのだと気が付いた。

正一は、ほかにも青い花を見せてくれたことがある。
日本のアジサイ。そして、ヘブンリーブルーという西洋アサガオ。
ベブンリーブルーは今でも、毎年夏の終わりから秋にかけて庭を青で埋め尽くすように咲き誇ってくれる。

「入江…」
「何だい?」
「嬉しい」

もういちど、ありがとうと伝えたくて…

「アハハッ、見つめ合っちゃって、すっかりふたりの世界だね!」
「席を外しましょうか?入江正一」
「どうして、僕に訊くんだよ!」

ブルーベルは、大きな花束を抱えながら、正一を見上げて、余計に頬に熱を感じた。
……入江でも、ブルーベルのことでまっかになることって、あるんだ…?

ちょっと。嬉しい。かも。


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