02

「ザクロたちを呼びましょうか。何か手がかりが掴めるかも知れません」
桔梗の声が聞こえて、ブルーベルの前にザクロ・デイジー・トリカブトが呼ばれてきた。
だが、異口同音に「知らない」「覚えがない」というばかりだ。

「こういうのは、警察に任せた方がいいんじゃねえのか?捜索願が出てるかもしれねえぜ」
「そうかもしれませんが…。この子がひたすらに、白蘭様はじめ、私達を真っ先に頼って来たのが気になります」

桔梗が、泣いているブルーベルに尋ねた。
「ほかに、私達に関することでも、それ以外の事でも、知っていることはありませんか?」

しゃくりあげながら、ブルーベルは真六弔花のメンバーについて言った。
「…ブルーベルは、<あの未来>で、真六弔花の雨の守護者だったのよ。本当は、オリンピックの選手になるくらい早く泳げて、人魚って呼ばれているくらいだったのに…事故で泳げなくなってしまったのを、白蘭に助けてもらったんだもの。他の守護者は…デイジーは晴の守護者で、ブルーベルのおともだちよ。でも、デイジーの一番のお友達はブブっていうぬいぐるみよ。嵐の守護者のザクロは、ちょっとイジワルでブルーベルのこと電波って言ったけど…きっとからかっていただけよ。桔梗は雲の守護者で、真六弔花のリーダーよ。びゃくらんもそうだけど、ブルーベルには、お兄ちゃんみたいに優しいのよ…雷の守護者はGHOSTだったから、今はいないわ。GHOSTは、“もうひとりのびゃくらん”よ。びゃくらんが、ほかのせかいから、つれてきたのよ」

真六弔花の面々は、顔を見合わせた。
あまりにも、この少女は色々と知っている。

真六弔花という呼称自体が、限られた人間しか知らないものだ。GHOSTという「現象」とその呼び名は、更にそうだ。それを知っているのなら、白蘭が並行世界を渡っていたということも、この少女は知っているのだ。

ふと、ブルーベルは気が付いた。
「雨の守護者は!?それは誰なの?」

白蘭は、ブルーベルがこれ以上どこまで知っているのかを確かめる為に、言ってみた。
「真六弔花はね、並行世界ごとにメンバーが違うんだよ。その世界で不遇な人物を僕が捜して、その不遇を世界ごと憎んで恨んでいるような、強い負のエネルギーと世界を呪う覚悟を持つ人間をチョイスしたから。この世界では、雨の守護者は空席なんだ。相応しい人間がいなかったから」

(イナカッタカラ)

ブルーベルの、体が震えた。
ひょっとしたら、この世界は……

口にするのが、怖かった。
でも、何も知らずに、独りで此処にいるのは、もっと、怖かった。

「この世界は…。ブルーベルがいない世界なの……?」

あ、と白蘭が言った。

「そっか…。その可能性か。僕は特異体質だったけど、普通の人間にはすごく稀なことなんだけどね。全く有り得ないとは言えないよ」
「そうであれば、白蘭様がこの子を元の世界に戻すことは出来ないのですか?」
「う〜ん…。僕はもう、並行世界を渡る能力は、ゼロとは言わないけど、かなり弱まっているんだよね。それに、一番力が強かった時期でも、渡れた数は8兆。でも、それは実際の並行世界の数から見れば僅かっていいほどなんだよ。実際の並行世界の数は、無限大としか言いようがないからね」
「それでも、8兆といえば我々のメンバーから重要なひとりが抜けているというのは、比較的我々の世界に近い場所に有るのでは?」
「時空を超えるっていうのは、そんなに単純なことじゃないんだよ。僕は、“人類がとっくに滅亡してる”世界だって見た事があるんだから。さっきも言ったけど、水色の髪の女の子って、かなりレアで、僕は一度見たら忘れる訳がないよ。仮に違う並行世界から来たっていうのなら、それは僕が見たことのない世界なんだよ」

ブルーベルは、白蘭と桔梗の会話を、茫然と聞いていた。
本当に…みんな、ブルーベルを知らない……?

この世界には、ブルーベルが、いない…?

「いりえ…」

不意に、ブルーベルはそう呟いていた。
それは、遠い東の国の…

「入江、は…?」
「正チャンのことまで、知っているのかい?確かに僕の親友だけど、ここ何年か会っていないんだ。ブルーベル、君が知っている正チャンは、どんな人?」
「…高校は、卒業してる…」

ブルーベルは、正一が高校生の時までは、不思議な少年ではあったけれども、どうやら日本の名門校に在籍していたらしいことは知っている。
でも、その先は知らない。ただ、<あの未来>では…

「工学の天才で、科学者になる人よ。アメリカの大学で、びゃくらんと出会ったって言っていたわ。<あの未来>では、びゃくらんの副官。裏切ったけど」
「……副官で裏切られちゃったところは、同じだなあ」

白蘭は苦笑したけれども、次は真面目に答えてくれた。
「出会い方は違うよ。僕がアメリカにいた時に、中学生だった正チャンが留学してきて出会ったんだ。でも、この世界の正チャンは<あの未来>とは違う道を選んだんだ。今度は人を救える人間になりたいって言って、飛び級しまくってあっという間にお医者さんになっちゃった。今でもアメリカにいるはずだよ」

嘘…。入江が、日本にいない…?

「入江に、恋人は、いる…?」
「どうだろうなあ。正チャンは、いちいちそういうことを口にするタイプじゃないんだよね。でも、ただでさえ飛び級したのに、東洋人の正チャンは今でも西洋人には高校生か下手すりゃ中学生くらいに若く見えるだろうし、あんまりそういうチャンスは巡ってこなかったんじゃないかって僕は勝手に思ってるけど。でも、今の正チャンなら名医に違いないんだし、エリートな正チャンに寄ってくる女の人もそこそこいて、恋人も出来たかもしれないね」

としうえの、こいびと…


(ブルーベルは、こどもだわ)

(ブルーベルが、ブルーベルだから。僕は、それだけで)…

ブルーベルは叫んだ
「そんなこと、ないわ!ブルーベルが、入江の恋人なんだから!!」

白蘭は、困った顔をした。
「ブルーベル。君は10歳くらいだろう?」
「12歳よ!」
「それでも、正チャンは、君よりもずいぶん年上だよ」
「知ってるわ!それでもいいって、入江はブルーベルに言ってくれたんだから!!」

ブルーベルが、もっともっと、子どもで、ちっちゃかったころから、ブルーベルに“特別で唯一”をくれたのよ。
ブルーベルと、同じように。

「ん…じゃあ、正チャンと会ってみるかい?正チャンはすごく忙しいから、今連絡を取っても、すぐに休みを取るのは難しいと思うけど。それよりも前に、君が何かの弾みで元の世界に戻れたらラッキーだし」
「それに、もうすぐ夜です。森に戻るのは危険ですし、今日はもう夕食にしたほうがいいですよ。何か手がかりが得られるまで、ここで過ごすのが良いのではないでしょうか」

桔梗の提案で、ブルーベルは白蘭に案内されてある一室に入った。そこは、ブルーベルの私室のはずだ。
でも、一歩足を踏み入れて、茫然とした。

……何も、ない。
ベッドはあるけれども、布団も枕もなく。
勉強机もなく。クローゼットはからっぽで。

「空き部屋だから、好きに使っていいよ。ちょっと埃っぽいから、食事の間にメイドさんに掃除して貰って、ベッドメイキングもして貰おうか。今日は、ごはんを食べて、此処でゆっくり休んで、……ブルーベル?」

ブルーベルは、その場にうずくまって、泣き崩れた。

……自分が、いない。どこにも……


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