01

たくさん、白い花を咲かせる木が一面に咲いている。
昼とも夜ともつかない、不思議な場所。

ブルーベルは、そこに立ち尽くしていた。
いつの間に、ここに入り込んでしまったのだろう?

見渡す限り、白い花。
「じょうひんなかおり」とは、こんな感じなのだろうかと、ブルーベルは思った。

「桜より少し早めに咲く、春の花だよ」

ブルーベルは、幼い声に振り返った。

そこには、小さな男の子がいた。
話す口調はしっかりしているけれども、ブルーベルよりも年少に見える。

「あんた、だれ?」

男の子は、にこりと笑った。

「誰だろうね」

ブルーベルは、にゅーっと癇癪を起こした。
「ブルーベルがきいてるのよっ!!」
「…ごめんね」

その男の子が、少し困ったように笑ったので、ブルーベルははっとした。

「入江…?」

男の子は、答えなかった。
ただ、名を口にしてみれば、しっくりくるのだ。

幼いのに眼鏡をして、瞳の色は綺麗な緑で、でも幼いからだろうか、髪の色は薄く淹れた紅茶のように明るくて。

「この花はね…」

ブルーベルの問いに応えないまま、男の子は話し始めた。

「白木蓮」
「ハク…」
「はくもくれん」

男の子が、少しゆっくりと言ってくれて、それはきっとその男の子の優しさだったのに、ブルーベルはむっとしてしまった。

「ムカツク。ブルーベルよりチビのくせに」
「ごめんね」

やっぱり、正一なのだとブルーベルは思った。

(ごめんね)

こんな風に、少しも悪くもないのに、謝ってくれるのなら。
「ねえ。どうして、ちっちゃいの?」

どうせ、答えてくれないと思ったのだけれども、ブルーベルは言ってみた。

「そのうちわかるよ」

ブルーベルは、意外に思った。
正一は、「ごめんね」とは言わなかった。正一なら、きっと嘘はつかない。

「日本では白木蓮だけど、君の国ではきっと違う名前で呼ぶんじゃないかな」
「きまってるでしょ。マグノリアよ」
「そうだよね」

くすくすと、少年が笑うので、またブルーベルはムッとした。
「入江、ばかにしてるでしょ」
「そうじゃないよ。西洋では、コブシでも白木蓮でも、紫木蓮でも、黄色でもワインレッドでも、みんなマグノリアだよね。そういう大らかさも僕は好きだよ」

……この、物知りな感じ。ちっちゃくても入江だわ。

「うちゅうごでしゃべんないでよ。ちきゅうのことばでしゃべらないと、ブルーベルはわかんないわ」
「じゃあね…中国や日本は、マグノリアを色々な種類に分けて呼ぶんだよ。この花に似ているけど小さいものは、日本ではコブシ。大きいこの花は、日本では、白木蓮って言われてる。中国では、もっとたくさん呼び方があるんだ。例えば、この花ひとつだけで、白木蘭(ハクモクラン)とか玉蘭(ギョクラン)とか…」

そこで、小さな男の子は、言葉を切り、少し経ってから口を開いた。


「……白蘭」


ブルーベルは、驚いた。

「びゃくらん!?」
「うん」
「びゃくらんって、ハクモクレンっていう意味だったの?」

男の子は、くすりと笑った。

「……君の、大切なひとのこと?確かに、この花はそう呼ばれているよ。でも、人の名前なら、中国語通りかどうかはわからないね。本当に白木蓮なのかも知れないし、胡蝶蘭みたいに白い蘭っていう意味なのかも知れない。“白”と“花”が好きな両親か自分か……が、名付けたのかも知れない」
「じゃー、どれなのかびゃくらんにきいてみるわ」
「教えてくれないと思うけどね」
「にゅっ!なんでよぅっ」

あどけないながらも、男の子は苦笑した。

「きっと、“どれでもキレイなんだからいいじゃない?”って笑うだけだよ」

……そんなきが、してきたわ。


[ 51/100 ]

[*prev] [next#]
[図書室60]
[しおりを挟む]


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -