01
「あ…れ…?」
目覚めたブルーベルは、不思議な思いに呟いた。
「今の、って…」
ベッドから身を起こしながら、ブルーベルはその感覚にしばらく囚われていた。
似ている…と思ったのだ。幼い頃、未来の記憶を得たときと。
10代以上の者はハッキリと受け取ったらしいけれども、子どものブルーベルはそうではなかった。
幼い故に、理解出来る部分が少なかったのだ。
覚えているのは、人間の姿をしていても人魚の姿をしていても(人魚の魚の部分は恐竜だったらしい)、水の中で泳ぐのが大好きだったということ。
白蘭や桔梗が大好きだったこと。いまいちノリは悪いけれどもデイジーが遊び相手だったこと、トリカブトがお面だったこと、ザクロが…
「ブルーベルのこと、電波って言ったーーーっ!!!」
ブルーベルは、ベッドで半身を起こした状態で叫んだ。
これは、あの未来も今も同じ。
そして、
(いっぱい、わらいながら、ころしたのよ……)
どくん、と胸が重苦しく鳴った。
それは、怖ろしい思い出だったからではない。自分の罪を思い知ったからでもない。
(入江が、かなしくって、くるしいっていう、おかおをするのよ)
それでも、幼い頃のブルーベルを抱き締めて、正一はブルーベルを責めないと言ったのだ。
(僕が、君を、許したいからだよ)
(どうして?ブルーベル、ころしたこと、ごめんなさいっていっていないし、おもってないのに)
(……それでも)
(もうなかったことになった未来のことで、君を責めたくなんかないんだ)
(…僕は、君が、好きだから)
あの時は、抱き締められていることと、好き、ということばにどきどきした。
でも、今思い前せば思うのだ。
正一は、「もうなかったことになった未来のこと」でなくても、ブルーベルを抱き締めて、苦しみながら言ってくれるのではないか。
(君が、すきだよ)
今になっても、何故ひとを殺すのが悪いことなのか、分からないままのブルーベルが、再び笑いながらこの手を血で染めれば、正一は懸命に叫ぶのだろう。
(やめるんだ、ブルーベル)
(もう…殺しちゃいけないんだ!)
それでも、正一はブルーベルを抱き締める。
(すきだよ)
(きみが、すきだよ)
何度でも…何度でも。
ブルーベルは、そこまで思って、ぷるぷると首を振った。
「…もう、しないわ。入江が悲しくて苦しいことは、ブルーベルはしないのよ!」
さっさと朝食に行こうとスリッパを履いて、ブルーベルは幼い日を思い出した。
(にゅにゅーーーっ!入江のくせに、ころしもんくーーー!!)
頬が、火照る。
今でも、だいすきよ。
殺し文句は、死なないもの。いっぱい、どきどきするだけよ。
それに、入江が笑ってくれるもの。
ブルーベルは嬉しくって、もっともっと、入江のことを大好きになれる気がするんだもの。
(ブルーベルの、王子様…)
「にゅ?」
ブルーベルは、目覚めたときに感じた記憶をはたと思い出して、ボンと頭がショートした。
「だ…!誰が誰の、王子様ーーー!!!」
「入江正一が、貴女の王子様でしょう。ブルーベル、朝食が出来ましたよ」
「うわあああん!!桔梗、一応ノックくらいしてよーっ!ブルーベルは、もう乙女なのよ!!」
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[図書室60]
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