01

ブルーベルは、海の底にある「海の民の国」の王女様なの。

王女は、ブルーベルを入れて6人。ブルーベルが末っ子よ。
一番ちいさいから、ブルーベルは母様にも父様にも姉様にも、いっぱいいっぱい、かわいがってもらって育ったの。

人魚は、海の民。
だから、決まり事があるの。それは、海から出ちゃいけないっていうこと。

でも、15歳になったら、ちゃぷんって海から出て外の世界を見に行ってもいいの。
ブルーベル、いっぱい可愛がってもらったけど、これだけは不満だったわ。

だってだって。
人魚の中で、一番泳ぐのが上手なのは、ブルーベルなのよ。姉様たちはもちろん、父様も母様もかなわないわ。ブルーベルがいちばんはやいのよ。なのになのに、15歳まで待たなきゃならないだなんて、どうして?

姉様達は、ブルーベルをなぐさめようとして、外の世界のことをいっぱいお話ししてくれたけど、ブルーベルの心は、ちっとも明るくならなかったわ。
うらやましいばっかり。小さい自分が、イヤになるばっかり。

ああもう、かわいいって言われなくてもいいから、末っ子じゃない方がよかったわ!

でも、やっとブルーベルも15歳になれたの。
楽しみに海の上の世界を見に行ったわ。

……ああ、あれが、姉様達が言っていた「星空」なのね。
とても、きれい。雲が、ちょっとじゃまだけれど、これから何度でも見に来ればいいわ。

あの、海にぷかんと乗っかっている、大きなものが、船っていうのね。
不思議だわ。人間って、あの乗り物にいないと、海ではおぼれてしまうんですって。

海を自由に泳げないなんて、不幸だわ。
人間は、何が楽しくて生きているのかしら。

でも、船の上は、とっても賑やか。
楽しそうだわ。誰かのことを、お祝いしているみたい。

……王子様?

ふぅん…。あんまり、イケメンじゃないわ。

でも…。やさしそうなひと。

お話ししてみたいな。
だって、ブルーベルは海の王女様だけど、あのひとは、人間のどこかの国の王子様なんでしょ?「つりあい」が取れてると思うわ。

あれ…?雲が、いっぱい。
姉様達が言っていたわ。海の天気は、変わりやすいって。

ブルーベルにはどうってことないけど、波が荒くって、船はぐらぐら揺れてる。
あんなんじゃ、あぶないわ。ひっくり返っちゃう。

ほら、言わんこっちゃないわ。
船が傾いて、人間の悲鳴と共に沈んでゆく。

イヤだわ。こんなの、イヤよ。
ブルーベルは、人間のことはよく知らないけど、たくさんのひとが泳げなくて死ぬのに、ブルーベルは見ていることしか出来ないだなんてイヤよ。

誰か…!

……どうにも、ならないわ。
海の世界では、よわいものは、しぬのよ。

あの、王子様も…

ブルーベルは、気が付いた。
たくさんのひとを助けることはできないけど、王子様ひとりだけなら、きっと助けてあげられるわ。

待って、王子様…!

ブルーベルは、びゅんって水の中を泳いで、王子様を探した。…見つけた。

……ああ、手が届いたわ。


(王子様…!)


そう呼んだら、気を失っていた王子様が、うっすらと目を開けた。


(…きみ、は…?)


人間は、水の中でしゃべることなんか出来ないのに。それに、夜の真っ暗な海の中じゃ、人間は何も見えないはずよ。
それなのに、不思議に、ブルーベルには王子様の声が聞こえたような気がしたの。


(ブルーベルよ)


そう答えたけれど、きっと王子様には聞こえなかったわ。
ブルーベルは、王子様を連れて、波打ち際まで連れて行った。

ここまでよ。ブルーベルができるのは。
人間が海では生きられないように、人魚も地上では生きていけないから。

それに、これも決まりごと。
生きる世界が違う人魚と人間は、出会ってはならないの。人魚は、人間に姿を見せてはいけないのよ。

(…きみ、は…?)

王子様が、ブルーベルを見つけてくれたような気がした……あれはきっと、夢だったのよ。
王子様とお話をしてみたい、そう思ったブルーベルが、勝手にそう思ってしまったんだわ。

ああ、誰か、早く王子様を迎えに来てあげて。
ブルーベルは、岩場の陰に隠れて、王子様を見守っていることしかできなかった。

王子様は、まだ、息をしていたわ。
でも、このままじゃ体が冷え切ってしまう。

……あ、やっと、女の子が来てくれた。
すてきなドレスを着た、綺麗な子だわ。

ブルーベルは、生まれて初めて、人魚の自分が悲しくなったの。
だって、人魚は、あんなに綺麗なドレスは着ないのよ。泳ぐのに邪魔になるだけだもの。


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