01

「びゃくらん」
「何だい?」
「もうちょっと、デンジャラスじゃないうんてんにしてよ」
「あ、それは大丈夫♪僕、レーサー並のテクニックだから」
「レーサーでもじこることはあるし、じこったら、くるまがクラッシュしてもったいないわ」
「アレ?僕の心配は?」
「びゃくらんこそ、ブルーベルのしんぱいはしないの?」
「羽根で飛んじゃって、無事に正チャンの所に送り届けてあげるよ♪」
「ど、どどどどーしてここに入江がでてくるのよっ!!!」
「それは、正チャンがブルーベルの王子様だからだよ♪」
「だ…、だれが、」

言いかけて、ブルーベルはほっぺたを赤くして黙った。
言ってしまえば、白蘭は(・∀・)ニヤニヤでも超絶イケメンな感じに、

「正チャンがブルーベルの王子様だよ♪」

と言うのに決まっているからだ。

(…そうよ。ブルーベルの王子様は入江だけなの…)

「うん、僕もそう思うよ♪」
「にゅにゅーーーっ!なぞのでんぱで、ブルーベルのこころをじゅしんしないでよ!!!」

いくら前後に車がいなくたって、一般道で120q/hはやめて欲しいわ…とブルーベルは思いながら、ふと気が付いた。遠くに、水溜まりがあるのだ。なのに、白蘭が飛ばす車でも、その水溜まりにはどうしてか追い着けないのだ。

「あのみずたまりってなあに?すすんでもすすんでもにげちゃう」
「ああ、アレはね、水みたいに見えるけど、水じゃないんだよ」
「…みずじゃない?」

白蘭は説明してくれた。
「でもね、ブルーベルはいい線いってるよ。あれは“逃げ水”って呼ばれているんだ。蜃気楼の一種でね、気温が高くて風のない日に、路面が濡れてるみたいに見えるの。でも、濡れて見えるだけで、実際には水はないから、追いかけても追いかけても、追い着けないんだよ」
「ふぅん…」

よく分からない、とやはりブルーベルは思った。
あれは、どう見ても大きな水溜まりだと思うのだ。

白蘭は、ご機嫌に120q/hでかっ飛ばしながら続けた。
「アスファルトだからこんな感じで済んでるけどさ、砂漠の逃げ水はもっとすごいんだよ。広〜い青い湖みたいに見えるの。砂漠で喉が渇いて死にそうな旅人がさ、そこに湖が見えるのにいつまでも追い着けないとか、もう極めつけの悪夢だよねえ」
「…びゃくらん。ブルーベルもそうおもうけど、へらっとわらいながらいうことじゃないとおもうわ…」

水溜まりですら、辿り着けないのがもどかしいのに。
広大な美しい青い湖に辿り着けない旅人は、どんなに苦しい思いで歩き続けたのだろう?




「ブルーベルは、いじでもたどりついてみたいのよ!」
「そういうものかい?」

夏の暑い日、ブルーベルは遠いアスファルトの向こうをビシィと指差した。
「ゆるしがたいわ!ブルーベルがおいつけないみずがあるなんて!!さばくなら、きれいなあお!のみずうみなのよ!?」
「だから、水じゃないんだけど…」

正一は苦笑した。
「……届かなくていいものも、あるんだよ」

そして、正一は歩き出した。
「入江…?」

どうしてか、ブルーベルは動けなかった。
正一の背中が、どんどん遠くなる。

「入江!どこいくの?」

叫ぶと、正一は振り返って、まぼろしのように微笑した。
声は届かないけれども、その唇の動きで、ブルーベルはその声を聞いたような気がした。

(辿り着けなくていい場所も、あるんだよ)

正一の足が、ぱしゃん…と水溜まりに追い着いた。
決して辿り着けないはずの、逃げ水に。確かな水音を立てて。

「入江っ…!」

ブルーベルの足が、やっと動いた。
走り出した。追いかけた。

なのに、やはりそれは逃げ水なのだ。追い着けないのだ。
逃げ水なのに、ぱちゃんぱちゃんと音を立てて歩く正一にも、ブルーベルは追い着けないのだ。

追い着けないどころか、どんどん遠くなる。

「入江…!やだよ、こんなの、やだ…!」

逃げ水に、追い着きたいだなんて思わない。
正一に、追い着きたい。
…ううん、振り返って、笑って欲しい。

(ブルーベル)

届かなくていい、入江はそう言ったのに、ブルーベルがワガママ言ったから…?

「きゃ…!」

ブルーベルは、自分のすぐ傍を通り抜けた車に悲鳴を上げて、でもしっかりと腕を掴まれて、道の端に引き寄せられていた。

……正一の、腕の中に。

「入江…?」
「ごめんね。僕が、車道側を歩いていればよかったね」
「…………」

にゅにゅーっとブルーベルは叫んだ。
「どぉして!たにんにみえるばしょで、ぎゅーってしてるのっ!!」
「ごめんね、本当に危なかったから」

正一が腕を解いたので、ちょっと寂しいと思ってしまった自分はわがまま…とブルーベルは赤くなった。

そして、はっとした。
「入江…どうしてここにいるの?」
「どうしてって…。僕はずっと、君の隣にいたよ?」
「だって…、入江は…」

(ブルーベルがとどかない、たどりつけないばしょに、いってしまおうと、したのよ……)

「大丈夫だよ、ブルーベル」
正一が、柔らかく笑った。

「届かなくていいものも、辿り着けない場所もあるけど……。僕がいるのは君の隣で、僕の手は君に届くよ、…ほら」

正一の手が、もう一度ブルーベルの手をそっと握った。
ひとまわり、…ううん、ふたまわり、大きい手。

「安心したかい?」
「…うん」
「好きだよ」
「…………」

ブルーベルは、にゅーっと叫んだ。
「なによきゅうにー!入江のくせにーーっ!!」
「あはは、ごめんね」



ふたりが歩く道の向こうには、届くことのない水溜まり。


……もう、とどかなくても、いいの。
入江がブルーベルのとなりにいてくれて、ブルーベルの手が、入江の手にとどくから。





〜Fin.〜

 

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