02

ブルーベルは、話を逸らした。
「入江は…。自分じゃ好きじゃないって思ってるみたいだけど、…こ、紅茶色の…髪は…」

口籠もった挙げ句に、叫んだ。
「すきよ!!髪が!!!」
「…………」

ありがとうと、正一は笑った。
髪だけ?とか、ツッコミいれてくれればいいのに。

そうしたら…ブルーベルも、「全部」って、本当のこと、今度は言えるのに…

「確かにね…。日本は“変わったもの”に対して意地悪な面があって…。僕も小さい頃はこの髪と緑の目が好きじゃなかったよ。…それに、辛かったのは、“家族の誰にも似ていない”っていうことだったかな。小さい頃は、本当に僕はこの家の子どもなのかなあとか思ったこともあったんだよ。…今考えると、大袈裟で、おかしいね」

入江…そんなこと、優しく笑って言わなくたって、いいのに。

「でもね、小学校の頃にね、似ている仲間を見つけた時には、ちょっとうれしかったんだよ」
「なかま?」
「うん。野良猫」

…のらねこ。

「僕と似たような、赤茶色の猫でね、僕の家の近くをうろついていたんだ。結構人懐こかったから、僕でも撫でさせてくれてね、…嬉しくて、安かったけど猫用のえさを買って来て、時々こっそりあげていたんだよ」
「どうして、こっそり?」
「野良猫は、嫌われるんだよ。ゴミを荒らすこともあるし、庭におしっこをしたせいで、植物が枯れちゃったりね。追い出そうとする人が多いんだよ。…だから、こっそり」

とても、懐かしそうに。
ブルーベルにも、正一がその猫を好きで、とても可愛がっていたことが伝わってきた。

「でもね…。1年くらいで、いなくなっちゃったんだ」
「どうして?」
「………。野良猫の寿命は、3年くらいって言われているんだよ。完全室内飼いだと、10年以上生きる猫もたくさんいるんだけど……野良猫はそうじゃない。車に轢かれたり、事故に遭う猫もたくさんいる。病気になったり怪我をしたりしやすいし、そうなっても誰も病院に連れて行ってくれないし、…猫は寒さに弱いんだ。僕と出会った頃はもう子猫じゃなかったんだし、現れなくなったのは……」

正一は、言葉を切った。

正一が何かを言わずに話を終えるときには、「ごめんね」ということが多いのだけれども、このとき正一は「ごめんね」とは言わなかった。
代わりに、やはりにこりと笑った。

「幸運なケースはね、僕の家はマンションで無理だったけど、誰かの家に拾われて飼い猫にして貰うことだよ。そうすれば、病院にも連れて行って貰えるし、寒い思いをしなくても済むし、可愛がってもらえて、もっと長く生きられるって、…そうだったらいいなって、僕は思ったんだ」

突然、姿を消した猫。
きっと、その可能性は、低いのに。

赤茶色の猫と会えなくなった正一は、心配して、悲しくて、誰かに拾われたんだと、祈ることしかできなかったのに。

「だからね…。僕は、綺麗な紅茶色って言われたのは嬉しかったけど、あの猫と同じ赤茶色でもいいんだよ」

ブルーベルは、何と応えればいいのか分からなかった。

紅茶色は、きれい。
赤茶色は、かなしい。

でも、きっと、入江は今でも、“赤茶色”を大切に思っていて…

「…入江」
「何だい?」
「その猫は…、きっと、誰かに拾って貰ったんだよ。かわいいかわいいって、してもらえて、幸せになったんだよ」
「……そうだね。」

うそを、ついた。

でも、願いも祈りも。本当で。

ブルーベルは、泣き顔を見られたくなくて、正一の胸に顔をうずめたけれども、優しく背中をさすってもらえたから、きっと知られていたと思う。


「……入江」

本当のことを、伝えたかった。





「ぜんぶ、すきよ」






〜Fin.〜

 

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